第十二話 現読み(うつしよみ)
コンビニエンスストアに生まれ変わった
「……さて、と」
「えーと、麻衣さんの疑問は『何故リスクがあるのにあの門を壊そうとしているか』ってことですよね?」
「そうやね。あと、さっきの契約式……だっけ? それを手に入れるのとあの『門』の関係もいまいちわからないかな」
麻衣が頷きながらそういうと、貴智が割って入る。
「俺は『何でお前があの幻獣に固執するのか』ってのも気になるな」
「ああーなるほど。黎花ちゃんは
麻衣が貴智の疑問に同調して続ける。黎花はそれを聞いてニコッと口角を上げるとアイスコーヒーを一口飲む。
「……じゃぁ、一つずつ話をするとして、少し順番入れ替えましょうか。最初は、『契約式を手に入れるために、何故あの門を壊したいのか』ってところから。
契約式――召喚契約魔法式って、それぞれの
「
思わず貴智が聞き返す。
「そう、使っている
「そんなことってあるのか? 俺は青魔法や呪術みたいな詠唱・記述式魔法なんて使えないし詳しくないけど、
黎花は休憩とばかりに自分のカップのコーヒーに目をやり、少しずつ啜る。
「一般的にはそうね。特に初期の記述魔法と呪術に限ってはその24種類以外の
両手で持っていたカップをもう一度テーブルに置き、黎花が続ける。
「じゃぁ貴智は、それぞれの
黎花に話を振られて、うーんと唸ったあとで貴智が自信がなさそうに答える。
「まずは使ってる
「うん。そうね、正解。でも、またあの龍神のところに行って何かしようとしてもまたぼっこぼこにされるのがオチでしょ? だから――」
「ああ、そうか! アイツが作ったと思われる『門』の記述魔法式の仕掛けを調べれば、アイツが使ってる
黎花の答えを待たずに貴智がそう言うと、黎花が「そう、そう!」と嬉しそうに返す。それを黎花の身辺警護と雑用をしている亮平がどことなく面白くなさそうに見ている。
「でも、どうやって調べるんだ?
「確かに25行政区魔法大学って普通の地方大って感じだけどね。『
「うつしよみ? ……黎花ちゃんが凄いテクニックか朝比奈に伝わる秘術かなんかでバーンと一気に解決するわけじゃないんだ?」
「ははは……そんな都合のいいものなんてありませんよ、麻衣さん。研究って地道に一つずつコツコツしていくしかないです」
黎花は麻衣の言葉に笑って応えると、紙と鉛筆を取り出して、説明を続ける。
「現読みの説明をする前に、ちょっとだけ別の話をしますね。
……術者の魔力を使ってヒトの治療をする白魔法にしろ、魔力を使って直接ヒトを傷つける黒魔法にしろ、実は呪術みたいな記述式魔法と同じようなプロセスを経て魔法の『効果』を得ているの。
① まず自分の使いたいと思い描いてる魔法に必要な魔力の大きさや形、効果などをイメージして、それを
② 次に術者は転写された
③ 最終にその具現化されたモノを使って対象を治療、あるいは攻撃する。これを『
……細かく言ったらもっと色々と複雑なところもあるし、そのプロセスの間に魔法触媒を使ったり使わなかったりの差はあるけどね。
ね、こうしてみると、実は他の色彩魔法も青魔法や呪術と同じように、適切な
黎花の小難しい説明に麻衣がついていけずにうーうーと唸っている。
「でも、白魔道士や黒魔道士って魔法使うのにわざわざ
貴智が当然の疑問をぶつける。
「まぁ完全に一緒ってわけでじゃないのよ。しかも、白魔道士や黒魔道士の人たちって感覚的にというか、技能的にというか……魔法を理論立てて使うというよりも、逆上がりとか自転車乗るのと同じ感覚で魔力の『転写』や『翻訳』をやってのけるから、普段そんなこと意識なんかしないしね」
「え、えっとそれで……その話が今回の話とどう繋がるの?」
話についていけない麻衣が堪らず切り出す。
「あ、ごめんなさい。さっきから麻衣さんの質問答えずに話逸れてばっかりですね」
そう言うと、残っていたアイスコーヒーで喉を湿らす。
「黒魔法の一つに、この
でもこの『逆翻訳』を使えば、すでに効果を発揮している魔法を、そのごく一部だけでも
「すごい!! 黎花ちゃんはそれで色々な幻獣を使役できるのね!」
麻衣が声を上げて感心している。
「この間まで在籍してた東都大学ではこの現読み自体を
しかし、それを聞いた貴智は眉をしかめ難しい顔をしている。
「…………でもそれって、召喚される幻獣の意志だったり、もっと言えば彼らを作り上げた人々の想いみたいなものはまるっきり無視することにならないか?」
黎花は驚いたように貴智の顔を見つめる。
「えっ!? 何言ってるの、貴智。相手は"ただの魔力の塊"だよ?」
いつの間にかイートインスペースのテーブルからは他の客がいなくなり、黎花たちだけになっていた。
(続く)
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