第二部第十一話 "私のために" 前編
「出来た。これで・・・・」
『これで?』
「・・・・・」
『レイカ。』
「・・・・私、何してるんだろう」
『何を今更・・・もう遅いよ。いっぱい、いっぱい準備をしてきたでしょ?』
「そうね。もう戻れない。あとはいくつかの"パーツ"が揃うのを待つだけ・・・」
■
「
薄暗いいつものセミナー室で
「やはり数回の使用で保存している呪具自体が破損してしまう、か。さて、どうしたもんかねぇ。」
松田先生が襟足を掻きながら唸る。
「・・・あの、別に問題無いんじゃないですか?
難しい顔をしている松田先生に斉藤先生おずおずと声をかける。それに対して、松田先生よりも先に黎花ちゃんが返答する。
「いえ、これじゃダメなんです。どういう原理なのかわからないですけど、呪具に保存できる呪術は単純な
たぶん、術者が呪具に保存した呪術を展開するために魔力を込めた瞬間に、複数の呪術のどちらが先に解放されるかどうかは、術者には、あるいは呪具製造式には制御できなくて完全にランダムなんでしょうね。順序を制御できない以上、最終的な呪いが発動するまでの一連の反応を正しく並べないといけないという『シークエンスの原理』がある呪術としては成り立たないんです。
つまり、幻獣に複雑な命令を呪術を使って行おうとすると、単一の呪術をそれぞれの呪具に封じておいて、術者が開放する呪具に魔力を込める順番を制御するという方法しか取れないことになります。でも、数回で壊れてしまうとすると・・・」
そう言うと、黎花ちゃんは一息つくために、演台の端においていたペットボトルの清涼飲料水を少しだけ口に含む。
「一連の動作・反応の中に同じものが複数回あるような場合は、幻獣への命令の途中で呪具が破損して、そこで発動が止まってしまう・・・ということか。
複雑な命令が出来ないとなると、黎花ちゃんの目的には合わないし、かといって破損に備えて大量の呪具を用意しておくとなると、製造コストや術者への物理的な負担、それに何とより順番を覚えることが負担になるし・・・」
僕がそう言うと、黎花ちゃんがため息と一緒に「そうなんですよね」と呟く。
「でも、『単一の呪術』で
僕の思いつきの意見を聞くと、黎花ちゃんがさっきよりも深いため息を吐く。
「それだと
あんなの私には無理です。応用っていうのは、"類まれな才能とか技術を持った誰か"が出来るんじゃなくて、"普通の誰か"が出来ることが重要なんですよ。」
と、褒められているのかけなされているのかわからないような言葉で返される。
「・・・せめて、素材の問題なのか、製造方法の問題なのかがわかるといいんですけどね。ミスリル、オレイカルコスなどの魔法鉱、金や銀、鉄などの一般的な素材でもほぼ同様な結果となっていますから、単純に考えると素材ではなく製造方法の問題のような気もするんですけど・・・かといって、呪具の製造方法なんてすでにほとんど忘れ去られているようなものですし。
種村先生の研究室からお借りした資料でも、この問題についての有益な情報は皆無という状況です。」しばらくの間、うーんという唸る声だけが薄暗いセミナー室で聞える。
「あっ!」
数分間の沈黙を破って、僕が思わず声を上げる。松田先生、斉藤先生、黎花ちゃんが一斉に僕の方に視線を向ける。「何か思いついた?」と松田先生が僕に尋ねる。
「ええ。まだ試してない『素材』があったと思いまして。」
僕がそういうと三人ともきょとんとしている。僕の思わせぶりな言い方に「だから君のそういうところが」と松田先生が苦笑しながら言うのを途中で遮って、続ける。
「モーリュですよ。 モーリュが呪術式を溶かしこむには最も適していることはジェネラル・アンチスペルで証明されているし、それにこの素材は、呪具研究が盛んだった第一次魔法大戦から第二次魔法大戦までの間はまだ見つかっていなかったわけですし・・・試してみる価値、あると思いませんか?」
僕は薄暗いセミナー室でニヤリと笑った。
■ 田中佳苗の「最後」まで、あと
―1年と6ヶ月
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