第二部第四話 いくつかの思惑
「それじゃぁ、お開きとしようか。
松田先生の言葉に促され、僕と斉藤先生、佳苗さんはセミナー室を出て、そのまま支度をすませ帰路につく。さっきの黎花ちゃんの"融合魔法"とでも呼べばいいのか、研究棟を出るまでその話題がつきることはなかった。
バタンッという立て付けの悪い扉がしまる音がする。
「・・・で、君の"本当の目的"は何なのかな?」
松田は二人っきりになったのを見計らって、黎花に尋ねる。
「あら?
黎花は少しも動揺することなく、松田の方に視線をやる。
「いや、それは本当だよ。兄さんは僕と違って結婚はしているけど、子供はいないからね。君は兄さんにとっては、可愛くて仕方のない姪っ子というわけだ。
ただ、君が呪具製造なんかのためだけに、"こんなところまで"来るとは思えなくてね。」
「・・・やけに
「じゃぁ、単刀直入に聞こうか。何故、"彼"にそれほどまで執着するのかな?」
松田は少しだけ言葉に力を入れ、黎花の出方を待つ。
(・・・なるほど、まだ気づいていないのね。これは"ラッキー"だわ)
「別に何も。私だって年頃の女ですし、異性を気にしてもいいでしょ?
先輩は確かに頼りない感じで、顔だってそれほどイケメンって感じもしないですけど、芯が強そうで、優しそうで・・・何よりあのジェネラル・アンチスペルの謎を解いた人ですもの。いざとなったら、誰よりも頼りになりそうな感じがしますし。」
黎花が胸に手をやりながら軽く舌を出すと、話を逸らされた感じになってしまった松田がバツの悪そうな顔をする。
「まぁ、今日はこれ以上は聞かないでおくよ。時間に遅れると兄さんに何言われるかわからないしね。さぁ、グラスだけ片付けたら、僕達も出よう。」
自らもグラスを幾つか手にして、黎花にも片付けを手伝うように指示すると、松田と黎花もセミナー室を後にするのだった。
■
「
「ボクも同じですね。製品そのものを目にする機会はけっこうありましたが・・・」
僕のあとに続けて、斉藤先生が困ったように付け加える。
というか、現在、呪具製造を専門にしている研究室はこの
それ以外に、首都・
そもそも呪具とは、第二次魔法大戦が始まる前、まだ呪術が戦争の兵器として恐れられていた頃に、呪術の弱点である『
ジェネラル・アンチスペルが普及し、呪術自体の価値が暴落してしまった世界歴1990年代以降は、ほとんど作られることもなく、高度なものであればあるほど、その製造方法すらも継承されなかったものが多いため、今では
「文献が残っているとすると、第22行政区魔法大学の種村先生の研究室くらいかなぁ。僕が修士の学生だった頃に参加した学会で、種村研の産業動物研究チームの学生さんが、ウシ向けのイヤーカフ型の呪具の発表してたような気がする。ちょっと、調べてみるよ。」
僕がそういうと、少しの間をおいて、黎花ちゃんが何か気づいたようにニヤリと笑う。
「・・・それって、上手く行けばセンパイと二人で第22行政区までデートってことになりますか?」
僕が慌てて「いや、僕は論文の手直しで忙しいし」と答えた時にはすでに、背後から殺気のようなものを
■ 田中佳苗の「最後」まで、あと
―2年と2週間
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