第三十六話 大講義室に向かう長い廊下で
世界歴2016年12月19日。僕は、松田先生の教授室に居た。
「提出お疲れ様。 とりあえず、これで一段落といったところだねぇ。」
博士論文を提出して、僕の長い大学院生生活も終わり・・・・のはずなのに、何かが頭の奥で引っかかっている。改変呪術式を投与したヒト化魔獣が何故、市販品のジェネラル・アンチスペルを投与した個体よりも早く加齢の影響を受けるのかについての考えはまとまらないままであった。
いや、その謎が隠されている
「・・・・心残りがありそうな顔をしているね。」
「ええ。」
僕は隠さずにそういう。松田先生はそれを聞いて、微かに笑い、
「君はこの二年間、おそらくこの大学院のどの学生よりも多くのことに悩み、試行錯誤を繰り返し・・・そして、それを解決することで、新たな発見をしてきた、そう私は思うよ。何度も言っているが、胸を張っていい。
――あとの残った疑問についても、"時間"が経って、解析方法が進歩すればどこかで明らかになるさ。」
(時間・・・・?)
松田先生が「願わくば、そのどこかがこの研究室であって欲しいとも思うけどね」と続けているのを、遠くに聞いている。
僕の中で"何か"がざわつき始めていた。
(そうだ・・・何かが、おかしいんだ・・・・これまでの出来事は、"全部"、何かが・・・)
僕の頭のなかで、魔研費がなくなったあの日、あの時からの記憶が再生される。大きな出来事があった時の場面が、静止画のように切り取られて、それがパラパラと巡っていく。
(違う・・・・・全部・・・・何かが・・・・・・)
「まぁこれから追加の資料提出とか、
そう言って松田先生が心配そうに僕の顔を覗き込んだと同時に、僕は"それ"に気づいて、呆けたように口をゆっくりと開く。
「あ・・・・ああ・・・わかった・・・時間・・・・全部・・・」
「え?」
「・・・全部・・・全部、時間がおかしいんですよ・・・・」
「どうした!?大丈夫か!?」
明らかに様子のおかしい僕を見て、松田先生が立ち上がる。僕はフラフラしながら、松田先生のほうに目線をやり、疑問をぶつける。
「先生。 先生は、何で・・・
・・・何で、あの南大陸で、あの事件を・・・ あの実験を見ることができたんですか?」
「えっ!?」
松田先生は、僕の突拍子もない変調に驚いている。
「・・・・だって、"アレ"は、『本来は先生が見ることが出来ないはず』の出来事だったんですよ・・・」
そう言い残すと、松田先生の反応を待たずに僕は院生部屋へとフラフラと戻る。そして、パソコンに向かい
ヒットした論文のタイトルと
それを二回繰り返した後で、一枚の紙で手が止まる。
「・・・・あった。"これ"だ・・・・・・全部の『嘘』の始まり・・・」
■僕の博士課程論文提出期限まで、あと
―2ヶ月と二週間
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