第二十話 白魔道士 前編
一、
『ジェネラル・アンチスペルが、元々は、
という、僕の根拠のない推測は伏せたまま、松田教授にこれまでの改変呪術式の結果を報告する。相談していなかった実験の数々に少しだけ眉をしかめたものの、先生は結果を喜んでくれていた。報告を終えて、6階小会議室の灯りが点くと、「ところで」と松田先生が話しはじめる。
「おめでとう。昨日の深夜に、論文の
にやっと笑いながら、教授が手を叩く。突然の報告でしばらく呆気にとられた後で、ようやく嬉しさがこみ上げる。
「あ、ありがとうございます!」
照れ隠しで右手で軽く頭をかくと、「おめでとう」と教授が繰り返す。
ふと、田中さんと目が合うと、心なしか少し痩せたような気のする顔で、にこっと口元を動かす。ここしばらくは、お互い、何も声をかけれずにいた。
その様子を見ていた松田先生は、ふーと口から長めの息を吐き、「じゃぁ、片付けて今日は終わろう」と僕と田中さんに声をかける。
片付けが終わると、先に田中さんが研究室に戻ったため、僕と教授が一緒に階段を登って行く。
「……そういえば、君の初の
突然の誘いに少しびっくりしつつも、「大丈夫です」と返すと、「じゃぁ7時に。店は任せるよ」と軽く肩を叩いて、松田先生は教授室に戻っていった。
二、
カウンター席と小上がり席、それにテーブル席が2つだけの、はるか昔の戦国武将の名前がついたいつもの小さな店で、松田教授と向き合って座っている。いつも通り、客の喧騒と、有線から流れる懐メロ、そしてテレビの声が溢れかえっている。
テーブルには、やはりいつもの八海山が注がれた御猪口が二つ。お通しの小皿には、からし菜としらすの和物が入っている。無口なマスターに料理の注文を伝え、それからしばらく沈黙が続いている。
「……八海山、か。私は普段あまり酒は呑まないんだけど、いいお酒だよな」
ええ、と頷く。松田先生は右手で御猪口をゆっくりと回すようにしてから、口元に運ぶ。
「この酒を呑むと思い出すことがあってね。少し昔話をしようと思って、君を誘ったというわけだ――そして、おそらく君が気になっていることや、彼女とのことについてもね」
きっと僕はこの時、わかりやすい顔をしていたに違いない。松田先生は、そんな僕の顔を見て、少しだけ笑うと、残りの杯を一気に呷り、ゆっくりと話出した。
「そうだな…………"彼"はどことなく、君と雰囲気が似ていたよ」
■僕の博士課程論文提出期限まで、あと――6ヶ月
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