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「――したがって、諸君等の働きがこのマルクスを守り――」


毛足の長いカーペットの感触が革靴の上からでも感じられ、うっとうしくて仕方がない。興味のない演説なんて右から左、集められた傭兵も大多数が依頼主の話を聞いていない。


「なあなあ、〈予断を許さない脅威〉って何だろな?」

「知らん。暴走スタンピート寸前の遺跡でもあるんじゃね?」


どうやらマルは真面目に聞いている数少ない例外だったらしい。コイツのことだから、どの調度品なら“拝借”出来るかとか、ろくでもないことを考えているとばかり思っていた。

ただまぁ、言われてみれば妙な話だ。依頼主たるカーブライン伯爵とて、自前の軍隊がある。暴走スタンピートがどれくらいの規模かわからないが、兵士たちがそれに対して全くの無力ということは有り得ない。


「マルの言うとおり、相当きな臭いな……」

「だから言ったろ? あたしゃ心配で心配で、部屋の調度品も見れないよ」


安心しろ、それは見なくて良い。


「――それでは、解散」


そんなこんなで、話は終わったようだ。ぶっちゃけ何も頭に残ってないが。


指示を受けて、部屋の傭兵達は門兵の詰め所に案内されている。……この様子だと俺たちが案内されるのは随分後になりそうだ。


「なあ、マル? どんな話してた?」

「あたしゃ、キミのそう言うところだけは直した方がいいと思うんだ」


仕方ないだろう。興味がないやつの発言をいちいち記憶するなど、ただでさえあまり出来の良くない頭脳の無駄遣いだ。


「そう言うなよ。飯おごるからさ」

「よし、言ったね? とびきり高いやつをおごってもらうよ!

 ――まあ、簡単に言えば門兵と討伐隊を兼任することになるみたいだ。万が一の襲撃に備えての予備戦力として詰め所に居るのが半分、魔物の巣や盗賊の根城に行って敵を倒すのが半分。それをローテーションするみたい」

「ということは、魔物を倒した後の核は回収出来そうか」


そういうこと、とマルが同意する。臨時収入が望めるなら、食いっぱぐれることだけは無さそうだ。

魔物の核――魔核は、研究素材として、コレクションとして貴族に人気らしい。そのおかげで、俺たちは魔核を売れば儲かるという図式によって収入を得ることが出来る。最下級の小鬼ゴブリンの核でも、銀板貨一枚は下らない。どれぐらいの価値かと言えば、一般的な宿で素泊まり三泊ほどだろうか。安宿なら五泊は固い。


「盗賊の討伐報酬はどうだ? さすがにいくらかは払ってくれると思うんだが」

「――そこがいちばんきな臭いところさ」


マルの雰囲気が変わった。


「ザッと相場の三倍、下手するとそれ以上の報酬を約束してた。あたしゃ思うに、こっちが本命だろうね」


それこそおかしな話だ。傭兵も盗賊の討伐は行うが、基本的に軍の仕事だ。この点に関しては、軍と傭兵はすこぶる仲が悪い。


「ただの賊討伐というワケじゃない、か」

「情報を集めた方がいいね、間違いなく。

 ――ま、今は乗っかるしかないけど」


気づけば俺たちの名前が呼ばれ、兵士について行くように伝えられる。

……本当に、怪しい依頼だ。


「――その手に持っている物を元の場所に戻せ」

「あらら、ばれちゃった」

「って、お前何やってんだよ!?」


マルの小さな手から出てきたのは、装飾が施された金の杯のようなもの。どこから持ってきたんだ……

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愚者の剣 大滝小山 @o_taki-koyama

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