傭兵二人

1



「――――で、どーすんだこの依頼? 互助会ギルド通してねーぞ」


我が相棒は慎重な意見を述べた。正直なところ、俺もこの依頼にはきな臭いものを感じている。緊急依頼と聞いてみれば依頼書だけ渡されて、明日までに互助会ではなくこの街を治める領主の館へ集合する事になっている。確かに、国家や街といった人の領域を脅かす事態になると、政府の名の下にこういった断ればペナルティが発生する緊急依頼実質的な命令が発令されることがある。つまり、少々怪しいこの依頼も断るという選択肢はハナから存在しない。それでも相談してきたと言うことは――


「あのなぁ、俺だってそんなに頭言い訳じゃねえんだ。依頼料だけちょろまかして脱走、しかも全くばれない方法なんて思いつかねえよ」

「今ので全部伝わっちまうとはな! さっすが相棒!」


こいつの行動理念はこの通りだ。平たく言って馬鹿。しかも最低限の仕事すらほっぽりだして楽だけしたいというクズっぷりだ。そしてこんなんでも剣を取ればムチャクチャ強い。この世は理不尽だ。


「まあどうにかなるだろう。報酬だけなら俺らの稼ぎの一月分以上あるし、ぶっちゃけ受けるだけなら問題ねえ。あとは――」

「何だい何だい相棒よ? こいつに乗り気って事か? 期限が書いてないってことは下手すりゃ何年か動けないんだろ?」


その通り、『臨時徴兵』とだけ書かれた依頼書には書いていてしかるべき部分が空白だ。これは脅威が去ったと認識されるまで有効だということで、街にいる傭兵すべてを私兵として雇い入れるということにほかならない。

その上、報酬額があらかじめ決まっている。通常こういう依頼は出来高制を用いるものだ。おそらくだが金という目に見えやすい餌をぶら下げることで逃亡を抑えたいのだろう。


「いやそれでもなー、あたしゃこれだけでかいやまだと、どうにも何かがあるって勘が働きかけるわけよ」

「――ソイツは穏やかじゃねえな」


ハーフリングの勘はバカに出来ない。こいつらは優れた直感に従ってあちこち旅して回るし、“イタズラ”を仕掛ける相手も勘を頼りに決める。自由気ままでお茶目な性格、だがなぜか深刻なミスは犯さない。我が相棒たるマルコットリートルフリートは、特に戦闘に関する直感力が秀でているらしく、盗賊の待ち伏せだの初見の魔物の弱点だのをよく見破っている。まあ、つまり。


「なまじ、実績があるばかりに無視することも出来ねえ……」

「生まれてこのかた、直感これだけで生きてきたからねー。第一、ハーフリングの中でも特に変わり者のあたしがこれだから他の同族もいないだろうし」

「自覚あったのかよ……」


コイツのことだから剣もノリと勘で鍛え上げたんだろう。そしてハーフリングは軒並み無軌道に行動するから剣一筋で生きてきたマルは確かに珍しい。


「というか、マルから見たハーフリングって何なんだ? 行動に統一感が無いんだが?」

「旅ぐらしなとこ?」

「いや、そうじゃなくて全体的な好みとか」

「昨日はお肉の気分だったけど今日の晩ご飯は魚が良い」

「脈絡ねえしそういう事じゃねえよ! ほら、何で旅ぐらしするのかとか、どんな文化があるのかとか、何か無いのか?」

「みんなまちまちだよ。あたしは、妖精さん探しの旅にでる、て言って出て行った口だね」

「夢見がちにもほどがあるだろ!」


おとぎ話の産物だそれは。


「だって、だいたいみんなこんなもんだよ?

 自分にしか見つけられない何かを探して旅にでるんだ。そうして見つけられたらそれで良し、できなかったらできなかったでそれもまた良し、てね」

「……」


――照れくさそうに笑いやがって。もはや、なにもいえない。


「おや? 惚れたかい!? あたしの魅力にクラッと来たかい?」

「台無しだ馬鹿野郎!!」

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