エピローグ



* * *


「そうして悪い王様から解放されたヘヤンの人魚は、アシェア様の御許へと迎えられました」


 締めくくられた母親の声に、息子のライオは大きく拍手を返す。

 閉じた絵本の表紙には、涙を流す、真っ青な髪の少女の絵。

 その上には大きく『人魚の涙』と書かれている。


 これは伝承であり、御伽噺である。

 しかし伝承として伝えるにはあまりにも近い過去のこと。

 そして、誰もが知っている物語でもある。


 残虐且つ冷酷な真実は伏せられ、とある不幸によりヘヤン族が滅んだことだけが書かれている。


「人魚は死んじゃったの?」


 あけどないライオの瞳を、母親は優しい笑顔で覗き込む。


「分からない。けど、アシェア様と一緒にいるんだと、お母さんはそう思うな」




     * * *




 浮かび上がった死体の中に、少女の姿は無かった。

 どこかの島に漂流したのか鮫に食われたのか、その答えを知る者は本人以外いないだろう。


 もしかすると、本当にアシェア神の御許へと迎えられたのかもしれない。


 少年はこの時、まさか自分がこの御伽噺に深く関わることになるなど、考えてもみなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

海神へと還った人魚の涙 琴あるむ @kt-arm

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ