死神にとりつかれた天使

@kojiyo

第1話

 マミは母親の喪服を着ていた。

ふっくらとした体型の母が着ていたものをマミが着ると若者向けの新しいデザインに見えた。

 マミは、最近は実家の大阪のマンションには戻っていなかった。

シンジは母に大学入学のために買ってもらった黒っぽいスーツを着ていた。茶色のカジュアルシューズがスーツに合っていなかった。

 あわてていたのか気が動転していたのだろう。スーツと一緒に黒の革靴も揃えていたのに靴のことまで気がまわらなかったようだ。まだ大学1年生ではにかむその顔には子供っぽさが残っていた。

 マミとシンジの姉と弟の二人は久しぶりに並んで自転車をこいだ。

 1月26日に告別式と斎場での骨上げを終え、自転車で帰った。家族葬ホール『真理』から家にたどり着くと家の中は真っ暗だった。

 マンションの1階の102号室の扉の鍵を開けて家に帰った。

 母がいない部屋はしんみりと静かだった。台所の水道の蛇口の締まりが悪く、雫がポトリポトリと等間隔に落ちていた。

 2つの部屋とダイニングキッチンに母の姿がないとき、ダイニングの奥のサッシの向こう側のベランダに座っていることが多い。そこでよく煙草を吸っていた。でもその日にサッシの曇りガラスに母の背中が透けて見えるはずはなかった。

 マミと母親は以前は喧嘩もしたけど、大学に入ってから仲良くなった。

 マミは大学1年生のときに出会った京都の男の家に同棲していた。大学4年になり就職も決まり、残りわずかな学生生活の自由な生活を楽しんでいる予定だった。

 大阪に帰ったら真っ先に会えるのが母親だった。母親は外に出かけるのは買い物か病院に行くくらいだったので、夫の休みの土日以外はたいてい、家にいた。

 母親がこの家にいない時間がこんなにも長いなんて高校のときにコスギ病院に3ヶ月入院したとき以来ない。

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