アヴノーマル
七草御粥
プロローグ 全ての始まりはここから始まる
その光景はあまりに非現実的なものだった。
つい一時間前まで広がっていたビルの街並みが、住宅街が、公園が、タワーが、何もかもが鉄屑と化していた。
あんなに人が賑わっていたのに、目の前の光景は阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。泣いているものもいれば、その場で人形のごとく動かないもの、横たわったままピクリと動かないもの。
それらを横目に飛騨銃樹は妹の愛美と共に破壊された街を逃げていた。
「お兄ちゃん!こわいよぅ!」
「大丈夫だ!絶対にこの手を離すなよ!」
目尻に涙を溜めている愛美は息を切らしながらも大きく頷く。
銃樹は愛美が頷いたのを確認すると握っている手をさらに強く握った。
少しだけ強く握られた手が痛かったのか愛美は顔を歪ませたが、追われていたことを思い出したのかすぐに必死な顔に戻った。
二人の後ろには黒い人型をした『もの』が追ってきていた。
銃樹は初めて実物を見たが、『それ』が何かはわかっていた。
数千年前まだ人類が地球上に存在していなかった頃に一度だけ現れたとされる未確認生物『アヴノーマル』。そのときは破壊することなく消えたとされている。しかし、今回は教科書で習ったこととは違い、破壊行動を行いながら進行してきている。それも一つだけではない。無数の数のアヴノーマルが進行してきているのだ。
「どこまで追ってくんだよこいつら。どこか安全なところはないのかよ!」
「きゃああ!」
「っ!愛美!」
銃樹と走っていた愛美が躓いて転んでしまい、繋いでいた手が離れてしまった。
銃樹は急いで愛美のもとへ戻ろうとした時、銃樹たちを追っていたアヴノーマルが転んだ愛美を摘まみ上げ、そのままどこかへ連れ去ろうとした。
「お兄ちゃーーーん!」
「愛美ぃぃぃぃぃ!」
アヴノーマルは愛美を摘まみ上げたまま銃樹の前からいなくなった。
銃樹はその場で膝から崩れ落ちた。顔にはこの世の終わりだと思わせるような絶望的な顔をしていた。
連れ去られたのだ。最愛の妹が。
「何で……。何で愛美が連れ去られないといけないんだよ……。どうしてだよ!」
銃樹は愛美の手が握られていた右手で拳を作り、地面を殴りつけた。
しかし、叫んだ銃樹の声は暗い空に吸い込まれ、かき消された。
大切な人が守れなかった絶望に浸っていると銃樹の前に白い靴が現れた。
顔を上げると見たことのない男が銃樹に手を差し出していた。
「君はアヴノーマルに強い恨みを持っているかい?」
「強い……恨み、か……」
この気持ちが恨みなのかはわからない。
しかし、妹が連れ去られたことに何もできなかったことがとても悔しくてたまらなかった。
それが強い後押しとなった。
銃樹は顔を上げると男に真剣な眼差しを向けて言った。
「これが恨みなのかはわからない。でも妹を取り返すことが出来るんだったら、俺はなんでもする覚悟は出来ている」
「うん。その言葉が欲しかったんだ。そんな君に合っているところがあるんだ。アヴノーマルを倒すために造られた施設がね」
男は不敵な笑みを浮かべながら再び銃樹に手を差し出した。
銃樹は男の手を握り、立ち上がる。
銃樹のアヴノーマルを倒すための物語はここから幕が上がった。
最愛の妹をアヴノーマルから取り戻すために……。
国立英豪学園。別の名を『トライアングル』と呼ばれている日本本土にある世界唯一の対アヴノーマル育成学園である。
近代科学が飛躍的に進歩している日本に造られたこの学園は世界から適正能力があると認められた生徒やアヴノーマルに関する特別な感情を持っている生徒が集められている。
適正能力があると認められている生徒は入学前に適正診断を受け、そうでないものは入学前に学園で義務付けられている能力注入をしなければいけない。
銃樹は入学にあたって最初に行われる学園主催の適正診断を受けるために日本国内でも比較的安全とされている日本の五大都市の一つである名古屋にいた。
「ここが適正診断を受けるために造られた専門の施設なんだな」
名古屋城からほど近い道の一角に街の景観を壊さんとばかりに建っている巨大なガラス張りの建物が現れた。
外見はフランスにある有名美術館を模しているような見た目になっているが、ガラス越しに見る建物内は外見とは全く異なっている。最初に目に入ったのは何に使われているかがわからない大きな機械だ。遠くにいるので詳しいところまでは見えないものの、機械のモニターに映された人型の映像に何やら長ったらしい文字が書かれている。もちろん文字の内容など見えるはずがない。
銃樹は初めて見る光景に心奪われながら見ていた。
「ここが俺が住んでいた日本なのか?名古屋に来たのは初めてだけどこんな建物いつからあったんだ?」
そんな当たり前の質問に当然答える人などいるはずもなく、銃樹は溜め息をひとつ吐いて施設の中へと入っていこうと建物に近づいていく。
しかし、銃樹は建物の近くまで来たものの困ったことが起きた。
建物の近くに入口のようなものが見当たらない。
銃樹は試しにガラスの近くに近づいてみるが、やはりガラスが阻んでおり、中に入ることができない。
「困ったな。どこから入ればいいんだ?」
銃樹は眉をハの字にしながら建物の周辺を歩き回ってみる。いささか不審者のような行動をしているように思えてしまい、銃樹は気が気でならなかった。
しばらくして建物の裏へ歩いていくと建物の近くの木の木陰で体育座りをしている少女を見つけた。
少女は悲しげに建物を見ている。今にも泣きそうな雰囲気を醸し出している。
銃樹は周りに誰もいない(施設内にいる人間には目もくれていない)ことを確認してから恐る恐る少女に近づいていく。
少女は銃樹が近づいていることに気がついたのか、いないのか、少女は銃樹のことを見た。
少女は紅い瞳をしている。表現するのならば赤く燃え盛るような真っ赤なルビー色と言ったほうが適切だろう。髪はリゾート地にある綺麗な海を連想させるエメラルドグリーンをしており、それを水色のゴムで左右に括りつけている。いわゆるツインテールという髪型だ。肌は太陽の光を知らないような透き通った白い肌をしており、角度によっては肌で太陽の光を反射させている。
銃樹は少女の美しさについ見とれてしまった。
同時に銃樹の中で一つだけ気になることがあった。
(彼女をどこかで見たような気が…………気のせいか?)
その少女を見たような曖昧な記憶が銃樹の頭をよぎっていく。
しかし、その答えにたどり着くことはなく、銃樹はとりあえず少女に声をかけてみることにした。
ちなみに少女はずっと銃樹のことを見ている。
「えっと……。君もここの施設で適正診断を受けることになってるのかな?」
「そうだ。だが困ったものだ。ここの施設はどうも広いらしくてな。一体どこで診断をしているのかがわからないのだ」
「やっぱりそうなんだ。実は俺も診断を受けに来たんだけどどこに行けばいいのか全く検討がつかなかったところなんだよ」
「やっぱり貴様もそうなのか。そうだ。ならば一緒に探そうではないか。なんとかは文殊の知恵とも言うしな」
「三人寄れば文殊の知恵、ね」
「そうとも言うな」
少女はウンウンと大きく頷きながら一人で勝手に盛り上がっていた。
一方の銃樹は少女に声をかけたことを喜ぶべきか否か迷い困っていた。
開口一番に訊いた少女の一言は女子ではあまり訊くことのない口調であり、見た目のイメージと全く違っていた。
女子に自分のイメージを押し付けることは悪いことだと思っている。
しかし、それだけ彼女の見た目とのギャップが強すぎたのだ。
「ところで貴様の名前は何なのだ?」
「え!?あ、っと。俺の名前は飛騨銃樹だ。見ての通りの日本人だ。君は?」
「私はイギリス王国第二女王候補エレナ・フォンティーヌだ。わけあって今は日本にいるが、いずれは国のトップを担っていくことになる予定だ。よろしく頼む」
「エレナ・フォンティーヌって確か三大王国のひとつになっているイギリス王国の直属じゃないか?」
「私を知っているのか。まあ直属といっても階級は低いのだがな」
エレナは髪を弄りながら淡々と自己紹介をしていく。
銃樹はようやく心のしこりを消すことができた。
一度だけテレビで見たことがあったのだ。何の番組かまではわからないが、とにかく彼女は世界で注目されているお嬢様だということを思い出した。
「ヒダと言ったか?」
「あ、ああ。そうだけど」
「先程も言ったが、私はどこで診断をしているのかわからないのだ。一緒に探してもらえないだろうか?」
「それは別にかまわないよ。俺も丁度困っていたところだったから丁度いいや。一緒に探そうか」
「うむ!これで探す時間が少しは省けたものだな」
「エレナさんはポジティブだね」
「ポジティブなどではない。私は事実を言ったまでに過ぎないのだ」
「それもそうだね。それじゃあ探そうか。診断する場所を」
「うむ!」
エレナは嬉しそうに大きく一つ頷いてみせた。
銃樹は初めてエレカの女の子らしい一面を見た気がして何故か得した気分になっていた。
エレナは立ち上がって再び建物周辺を探し始めた。
一方の銃樹はもう一度地図を広げて場所を確認してみることにした。
地図が示している場所と今の場所を確認してみる。確かに場所は今いる場所を示している。しかし、少しだけ場所がずれていることに気がついたのだ。何度確認してもずれている。ほんの数センチのズレである。
(もしかしてここの奥にあるんじゃあ?)
銃樹は建物のさらに奥の倉庫の方を見てみる。
ガラス張りの施設の裏に建てられている倉庫はまるでシェルターのような否、シェルターそのものを倉庫に立て替えたのだろう。扉はシャッターのように見えるが、手動ではないのだろう。手にかける場所が見当たらない。
銃樹はエレナに声をかけて倉庫の近くまでに近づいてみた。
「ここが診断する場所だというのか?」
「合ってるかはわからないけどね。場所は確かにこの場所を示しているんだ」
「そうか。では早速中に入ってみようではないか」
「待って。入るって一体どこから入るつもりなの?」
「調べればいい話ではないか」
「あ、うん。そうかもしれないけど」
銃樹が言い終える前にエレカは倉庫の周りを探し始めた。
銃樹も仕方なく彼女に習って倉庫の周りを探そうと倉庫に近づいた。
その時銃樹が倉庫の前で何かを踏んだ。否、踏んだのではなくそこだけが凹んだように感じた。
銃樹は恐る恐る下を見てみると銃樹の右足が凹んだ地面を踏んでいた。
その事実を知ってから数秒後、地鳴りが響き渡った。
さすがのエレナもこれには驚き、急いで銃樹のもとへと戻ってくる。
「な、何が起こったのだ?」
「俺がここを踏んだら凹んだんだ。多分これが何かの装置みたいなものみたいだけど」
「あ!ヒダ!前を見てみろ!シャッターが開いていくぞ!」
エレナに言われて銃樹は顔を上げてシャッターの方を見る。
先程まで閉まっていた倉庫のシャッターが開かれていた。その奥には『適正診断受付先』と書かれた紙が壁に貼られていた。
「ここにあったのだな。全くわからなかったぞ」
「てか中じゃなくて外に貼っといてくれよ……」
「見つかったのだからいいではないか。行くぞ!」
「元気だね。エレナさんは」
「それが私の取り柄だからな」
エレナが先頭を切って倉庫の中に入っていく。
その後ろを銃樹はついていきながら倉庫に入っていく。
倉庫の中はガラス張りの建物とは違い、特に目立ったものは置かれていない。長く続く廊下としたが全く見えない階段以外は何もない。
「く、暗いな。な、何も見えないぞ」
「そうだね。何かライトみたいなものがあればいいんだけど」
その時銃樹が何かを蹴飛ばしてカチャンと音を立てる。
それに反応したエレナがすごいスピードで銃樹の後ろに隠れた。銃樹の腕を掴んでいる手は震えている。微かだが後ろから鼻をすするような音がしている。泣いているのだろうか。
「もしかして暗いところは怖いの?」
「こ、怖いわけではない!ただ、その……苦手なだけだ……」
「それを怖いって言うんじゃないかな?」
「ば、馬鹿言うな!この私に怖いものなんてない!……と思う」
「そうか」
銃樹は足元に落ちているものを拾った。暗くてよく見えないため明かりが射している方に向けて拾ったものを照らしてみる。
「懐中電灯だ。何でこんなところに落ちてたんだ?」
「で、でもこれで見えるからいいではないか」
「それもそうだね」
銃樹は懐中電灯のスイッチを入れて電気を付ける。それで道を照らしながら先に進んでいく。
しばらく歩いていくと奥から懐中電灯とはまた違った光が小さく見えた。
「おい、ヒダ。あの光はなんなのだ?」
「なんだろうな。もしかしてこの先が診断場所なのか?」
「だとしたらようやくゴールが見えたってことなのか。ここまで来るまでが長かったのだ……」
気が抜けたのだろう。エレナは膝から崩れていった。
「大丈夫かよ。まだ着いたわけじゃないんだぞ?」
「あはは。安心したら腰が抜けちゃったのだ」
「ほら、立てるか?」
銃樹は立てないエレナに手を差し伸べる。
エレナはその手を掴んで立ち上がる。
「さてもう少しだな。行くか?」
「そうだな。行くぞ!」
再びエレナが先頭に立って歩き出す。光が見えているからだろうか。歩みに全く迷いがない。先程のように銃樹の腕に掴みながら歩いていたエレナとは全く違っている。
銃樹は安心したような残念なような顔でエレナを見ながらそのあとを追っていく。
光が少しずつ近づいてくる。銃樹は懐中電灯のスイッチを切る。
「この先がそうなのか」
「ここまでに来るのに長い道のりだったのだぁ」
「単に暗い廊下や階段を歩いてただけだけどね」
「そんなにかかったのか?」
エレナはポケットからデヴァイスを取り出して時間を見る。
デヴァイスとは携帯電話やスマートフォンに代わる新型携帯電子端末である。アヴノーマルの出現とともに電磁場が狂ってしまい、無線ランが使えなくなった現代用に開発された。またエネルギー源も電気に代わり水を使ったものに改良されている。無線ランも使えなくなったため空気の振動を使って発信している。
銃樹自身も以前はスマートフォンを使用していたが、今ではデヴァイスがなければこの世界では携帯もスマホもただの鉄くず同然だ。
しかし、エレナはデヴァイスを振ったり軽く叩いたりしている。
「何をしているんだ?」
「私のデヴァイスが反応しないのだ!さっきまでは動いてたのにぃ!」
「ちょっと貸してみろ。…………おい。これ水入ってるのか?」
「今朝出る前に入れ忘れちゃったのだ」
「そりゃあ動くわけないだろう……」
水を動力としているデヴァイスは消費量が電力とは明らかに少ないもののなくならないわけではない。使っていればいずれは電池切れになってしまう。
銃樹が持っているエレナのデヴァイスは明らかに電池満タンのデヴァイスよりも軽い。裏から見える電池パックには水が入っていない。エレナのデヴァイスは電池切れになっていた。さっきまで使えたということはここに来る前、または銃樹と会う以前までには少なからず水があったのだろう。
銃樹はデヴァイスをエリカに返し、自分のデヴァイスを取り出して時間を確認した。
「九時半か。それでも三十分近くは歩いたことになるんだ」
「それじゃあ少し急ごうではないか。中で人を待たせているかもしれないぞ」
「わ、わかったから腕を引っ張るのだけはやめてよ!自分で歩けるから!」
エレナは銃樹の言葉を無視して光が射している場所目指して走っていく。
銃樹はバランスを崩しながらも何とかエレナの歩く歩調に合わせて歩いていく。
光が近づいていくごとに眩しさが強くなっていく。
銃樹はあまりの光の眩しさに目を瞑ってしまう。
しばらく経ってから銃樹は瞑ってしまった目を開いていく。
「大丈夫か?ヒダ」
「いきなりお嬢様の綺麗な顔が目の前にあって少しだけドキドキした」
「な、何を言っているのだ!?た、体調はどうなのだと訊いているのだ!」
「体調なら良好だよ。さっきは光が眩しかったからつい、ね」
「そ、それは良かったのだ」
またも安心したのかエレナは膝から崩れていった。
エレナに腕を掴まれていたため銃樹も巻き込まれるような形で倒れ込んだ。銃樹は倒れた痛みに顔を歪ませながら腕を解放してもらい、立ち上がった。
顔を上げると目の前には見たことのない少女が二人で椅子に座っていた。
片方の少女は大人びた雰囲気を纏っており、黒い髪が印象的な感じである。目は新緑をイメージさせる淡いグリーンで、肌は少しだけ褐色に染まっている。
もう片方の少女は小学生と言われれば納得してしまうような容姿をしているが、それを否定しているのは大きく育っている胸である。今いる三人の中では最も大きいだろう。他の特徴として目の色はダイヤモンドのように透き通っている水色に、髪は黄金色に煌めいている稲穂のような自然な金髪。そして肌は雪を連想させるようなエレカとはまた違った白い肌をしている。
こちらの視線に気付いたのだろうか。金髪の少女が銃樹の方を睨みつけるように見てきた。
「何こちらをジッと見ているんですか?あまりこちらを見ているともぎ取りますよ?」
「な、何をもぎ取る気なんですか!?」
「それは自分にでも訊いてみたらどうですか。男なんて所詮は私のこの胸にしか興味を示さない野蛮な生き物なのですから」
「さらりとひどいこと言われてる!」
「やめなさい。あんたのそれは確かにすごいのはわかるけどそのように男に向けて文句を言っているとそのでかい乳の自慢話のように聞こえるからイラつく人間もいるのよ」
仲裁に入ったのは黒い髪の少女だ。少しだけ声に力が込もっていると感じてしまうのは気のせいなのだろうか。
しかし、金髪少女は仲裁に入られたことにイラつき、黒い髪の少女に言い放った。
「あなただってプロポーションが少しいいからって調子こいたこと言わないで欲しいのです」
「調子こいた?調子こいているのはあなたの方じゃないのかしら?『冷徹の暗殺者』さん」
「くぅぅぅぅ!その二つ名を言わないで欲しいと言ったはずですよ!?」
『無駄な喧嘩はやめなさい!』
二人の喧嘩に挟んできたのは部屋に設置されているスピーカーからだった。大声を出していたのだろう。スピーカーからキーンという何とも聴き難い機械音が響き渡っている。
その音を聴いた銃樹たちはその場で耳を塞いだ。
しばらくしてから不穏な機械音が鳴り止むと再びスピーカーから女性の声が発せられた。
『ようやく第四八小隊のメンバーが揃ったな』
「第四八……小隊?」
『そうだ。君たち四人は今日から晴れて小隊を組むことになり、そしてこれから学園生活と寮生活が始まる。今回の適正診断は全くの嘘っぱちで後日改めて行う予定だ』
「ちょっと待ちなさい。全く話が読めないのだけれど?」
「いきなり小隊組まされるとかわけがわからないんですけど?」
「寮生活があるとは聞いていないぞ?」
スピーカーの言葉に少女三人がいきなり質問攻めしていく。まるで一種の新聞社の記者会見のような光景だ。こんな会見は見たくもないが。
『順を追って説明していくから黙っていろ小娘ども』
「そして口が悪かった」
『何か言ったか?』
「い、いえ。何も言ってません」
一体どこからこちらの声が聞こえているのだろうか。どこかに盗聴器でも仕掛けられているのだろうか。
『これは学園側が提示してきた方針の一つである。一つは入学前にいくつかの小隊を組ませること。これは将来の対アヴノーマルに対する小隊確保を行っているための措置だ。二つ目は学園生活を行う上で共同の寮生活を行わせること。これは小隊の連携や協力性を養っていくために必要な措置だ。尚、この寮生活は男女関係なく同じ部屋に住んでもらうからな』
「な!?」
「それはダメですよ!何故殿方と一緒の部屋に住まないといけないのですか!?」
『これはどの小隊も共通のことだから心配するな。それとも何だ?男がいると何か都合が悪いことでもあるのか?そんな理由で寮生活が嫌ならこの場から立ち去れ!そんな甘ったれた理由がなんでも通ると思うな!君たち戦闘科は命がかかっている危険な学科だ。そんな小さなことで戦闘科が務まると思うな!クソガキ共が!』
その言葉に銃樹を含めた四人全員が反応した。
せっかくモノにしたチャンスをそのようなくだらない理由で諦めろ?命がかかっている?そんなことはとっくにわかりきっているはずだ。なのに何故ここに来てそのような質問をしているのか?理由は明白だ。決意をしたとしてもそれは表面上の決意に過ぎない。内心は怯えている、怖がっている、恐れている、拒んでいる、死にたくない……………。
それをスピーカーの女性は『甘ったれた理由』と括っているのだろう。
悔しい、悲しい、許さない、諦めたくない、強くなりたい、誰かを守りたい、誰かを救いたい、誰かの役に立ちたい…………。
その気持ちが四人に最後の決断を下した。
「「「「それでも俺(私)はアヴノーマルを倒さないといけない!」」」」
呼吸を合わせたわけではないが、四人の意見は一致していた。
目指すは世界からアヴノーマルの存在を消し去ること。それが四人の共通の目的であり、決意でもあった。
『素晴らしい決意だ。君たち第四八小隊は合格だ。入学を心から歓迎する』
こうして四人は第四八小隊として英豪学園に入学することとなった。
この第四八小隊が後に多くの事件に巻き込まれていくことをこの時は誰も予想はしていなかった。
アヴノーマル 七草御粥 @namuracresent-realimpact
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