番外編 髪が伸びる

「相変わらず変な髪型だなあ麻子ちゃん」

 風雲寺の住職はそう言って笑い、川島麻子は顔を赤らめた。

「ボクは麻子の髪じゃないよ!」

 麻子の頭の上に綺麗に収まっている、巨大な蜘蛛の妖鬼──タマが憤慨すると、住職は一層大きく笑った。

 寺の中に入り、住職が何かを持って来る。

「これねえ、髪が伸びるんだよ」

「髪が伸びる?」

 麻子がそう訊くと、住職は恐ろしい表情で頷いた。

「そうなんだよ。この間知り合いに無理矢理渡されてね」

 住職は手に持った、小汚い日本人形を麻子に手渡した。

「普通……に見えますけど」

「いやね、もらったその日に髪を全部剃ってやったんだよ。僕みたいに」

 それがもうこれだよ――と住職は人形の綺麗に生え揃った頭を小突く。

「欲しいんだったらあげるよ。まあいらないだろうけど」

 麻子は顔を輝かせた。

「ください! 是非ください!」

「そ、そんなに?」

 麻子は力強く頷く。

「住職、私の前髪どう思います?」

「どうって、ん?」

 そうなんです――少し顔を赤くして、麻子は呟く。

 麻子の前髪は、殆ど横一直線に揃えられていた。

「美容院行くと、タマが嫌がるんです。それで後ろは伸ばしっぱなしなんですけど、前は自分で切らないといけなくて」

「下手だもんね。練習台が欲しい訳だ」

 住職は大いに笑い、人形を麻子に託した。


 今では、川島麻子は前髪だけでなく、後ろ髪も自分で綺麗に切っている。

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