番外編 蜘蛛の巣
「蜘蛛がかわいそう」
後ろで、誰かがポツリと呟いた。
川島麻子が振り返ると、自分と同じ年格好の子供が立っていた。
クリクリとした目を足元に向けて、所在なさげに立っている。背は麻子より高いのだろうが、背中を丸めているのであまり差はないように見える。
「何で?」
麻子が訊くと、子供はもじもじと話し始めた。
「その巣を張った蜘蛛は、すごく、お腹を空かせてるかもしれない」
「でも、それじゃあ蝶々がかわいそうだよ」
巣に捕らわれもがく、蝶を指差して言う。
子供は困ったように笑った。
「だよね。いくら考えても、わかんないや」
子供は下を向いたまま、麻子に手を振り、帰って行った。
麻子は、暫く悩んだ挙げ句、蝶を巣から放してやった。
麻子の手の上で数度動いた後、蝶は二度と動かなくなった。
そっと、蝶をもう一度巣に戻す。
「ごめんね」
誰にでもなくそう言うと、麻子はその場を後にした。
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