意味のない殺人
有刺鉄線
意味のない殺人
僕のクラスの女子生徒が行方不明になってから、3日たっている。
学校周辺は厳重体制が敷かれ、クラスの雰囲気は静まり返っていた。
しかもその女子生徒は奇しくも僕と幼なじみの女の子と友達だった。
「風菜、大丈夫かい」
僕は幼なじみの風菜に話しかけた。
「大丈夫」
「そうかい、果歩がいなくなってから、元気ないから心配してたんだ」
「ありがとう、敬也君」
そういって軽く僕に微笑む。
僕は風菜のことが好きだ。
それは、出会ってから今の今まで、むしろ歳を重ねるほど思いが強くなっている。
しかし、幼なじみの関係を壊すことが怖かった。
だから、思いを心の奥底に隠し、幼なじみとして接している、
風菜は、美しい。
特に、中学からより増してきた。
多くの男子生徒は美しい彼女に魅入られ、アプローチをするが、誰も彼女と関係を持つことはなかった。
きっと風菜も僕に好意を持っているとばかり思っていた。
しかし、それは違うと気づいた。
気づいたのは、高校に入学してからのこと。
ある女子生徒と風菜が仲良くなり始めた。果歩だ。
風菜と果歩は、出会って意気投合し、僕も風菜を介して仲良くなり始めた。
傍見れば、仲良し三人組に見えただろう。
僕だって、そう思ってた。
しかし、日を追うごとに、風菜と果歩だけいやに仲睦まじくなっていった。
僕だけまるで置いてきぼりになったかのように。
そして、ある日、風菜に話したいことがあると、言われ二人きりになった時。
てっきり僕は、長年の思いを打ち明けてくれるのかと思われた。
違った。
「私、果歩と付き合うことになったの、今まで黙っててごめんなさい、私女の子しか興味ないみたい」
衝撃だった。
風菜が、同性愛者だということもそうだが、まさか果歩とそういう関係になっていたなんて。
僕は憤りしかなかった。
なぜ僕じゃなくて、まだ付き合いの浅い果歩なのか。
僕はずっと彼女が好きなのに、愛しているのに。
だから僕は、二人の関係を終わらせるために、殺した。
果歩は今冷たい土の中で眠っている。
◇
早朝、誰にも気付かれないよう、山奥に向かう。
果歩の遺体を確認するためだ。
果歩が埋まっている場所に着き、地面を掘る。
掘り進めていくと、彼女の死に顔が出てきた。
まだ、見つかっていない。
これでいい、君はここで一生眠っていてくれ。
土を埋め直し、戻る。
その帰り道、やけにガタイのいい男に遭遇してしまった。
僕は、下を向き目を合わせないようにした。
「おい、少年」
やばい、話しかけられた。
僕は無視して行こうとしたが、そうはさせてくれなかった。
「珍しいな、散歩か?」
「えーっと、はいそうです」
なんとかこの場を切り抜けなければ。
「そうか、俺はここの山の管理を代理でやっていてな、たまに来るんだ」
「へえ、そうなんですか」
「じゃあな、散歩の邪魔をしてすまなかった」
「いえ、僕もこれで」
良かった。
僕の背中は尋常じゃないほど冷や汗が流れていた。
「ああ、そうだ、少年にアドバイスするぜ」
なんだ、今度は。
「土に物を埋めるときは、深く深く穴を掘ったほうがいいぜ、じゃあな少年」
そういって男は山奥へ消えた。
もしかして、バレている。
そんなはずはない。
そんなはずは・・・。
◇
教室に入ると、日常を取り戻したかのように賑やかになっていた。
「みんな、どうしたの?」
「果歩がいなくなってから、だいぶたってるから、不安が薄れてるんじゃない」
「そうか」
「みんな、ひどいわ」
「そうだね」
風菜は、周りと反比例して、日に日に元気がなくなっているような気がする。
「でも、僕がいるよ、僕は風菜の味方だからね」
「ありがとう」
風菜が僕を頼ってくれている。
これほど、嬉しいことはない。
「きっと、果歩は見つかるよね」
「警察が一生懸命探しているから、任せよう」
見つかっては困るけど。
「でも、どうして彼女はいなくなってしまったのかしら」
「え?」
「だって、果歩がいなくなるわけないわ」
「人はわからないよ、突然いなくなることだってあるさ」
やばい、僕がどうにかしなきゃ。
「約束したの」
「なにを」
「果歩がいなくなった日、私の家に来るはずだったの、でも来なかった、何があったのかしら」
「さあ、そこで何かあったんじゃないかな・・・」
思いだせ、あの時、僕は帰宅する前の果歩を呼び止めた。
ネットで購入した液体の薬品を染み込ませた布を鼻と口に押し当て殺し、誰にも会わないように山に運んだ。
用心深く注意したから、誰にもバレていないはず。
大丈夫だ。
「敬也君?」
「風菜」
「顔が青いけど、それに汗が酷いわ、体調悪いの」
「ああ、そうかもしれない、けど大丈夫、最近寝不足なんだ」
もしかして、怪しまれているかもしれない。
どうしよう。
風菜だけには、僕がやったことを知られたくはない。
きっと、失望するだろうし、軽蔑されるだろう。
でも、彼女を一番に愛しているのは僕だ。
それは、誰がなんと言おうと、この思いは誰にも譲らない。
「敬也君、今日休んだら、先生には私が言っとくわ」
「でも」
「体調が今よりも酷くなったら大変だわ」
「そうだね、そうするよ」
彼女が僕のことを心配してくれている。
ああ、嬉しい。
これほど、喜ばしいことがあるだろうか。
僕は学校を休むことにした。
家にはまっすぐ帰らず、また様子を見に山奥へ向かった。
朝とは違い、山は不気味な雰囲気を醸していた。
そういえば、小学生の頃この山に女の幽霊がうようよ出てくるという噂が流行っていた。
試しに、風菜と一緒に肝試しにいったことを思い出した。
結局何も出なかったが、暗闇の中で震えていたのは覚えている。
でも、あの時風菜だけが異様に冷静だったのは、意外だった。
果歩が埋まっている場所を掘り返し、彼女が眠っていることを確認する。
見つかっていない。
そうだ、もっと深いところに埋めよう。
あの男も言っていた。
深く穴を掘ったほうがいい。
僕は、出来るだけ深く穴を掘り進める。
そして、果歩の遺体を穴に放り投げ、埋め直す。
これで、なんとかなるだろう。
◇
自宅に戻ってシャワーを浴び、ベットで横になる。
土まみれの状態で、母親に怪しまれると思ったが、母親はパートで出かけていて助かった。
ベットで横になっていたら、いつの間にか眠っていて、起きたら夜だった。
携帯を確認すると、風菜からの着信が10数件も来ていた。
メールもいくつか来ていて、最新の一通を開く。
今から私の家に来てほしい。だめかしら?
ああ、早く気づくべきだった。
僕は、素早く用意を済ませ、彼女の家に向かう。
暗い道の中、向かいから大きな車が見えた。
「あれ、少年じゃないか」
「えっと・・・」
車から現れたのは、警官の制服を着ていた。
もしかして、果歩の遺体が見つかったのか・・・
「ほら、今朝会った」
「ああ」
あの、ガタイのいい男か。
警察官なのか。
だとしたら、まずい。
けど、車を見たところ普通の車で、パトカーじゃない。
「この格好か、気にすんなただのコスプレだ、モノホンそっくりだろ」
そういって、自慢気に見せてくる。
なんだ、この人、何者だ。
「で、こんな夜中にどうした」
「友達の家に行こうと」
「そうか、気をつけろよ、ここらへん最近警察がうようよしてるから」
「はあ」
そんなのいいから、僕は急いでいるんだ。
「なんなら、その友達のとこまで、送ってやろうか」
「いや、いいです」
「遠慮すんなって、ほら乗れよ」
「でも、迷惑ですし」
「この俺が、乗れって言ってんだから、迷惑じゃねーよ」
無理矢理、車に乗せられ、男は車を走らせる。
「俺は、佐々木っていうんだ、よろしくな少年」
「僕は、小林敬也です」
「小林か、ありふれた名前だな」
「はあ」
このまま、僕はどうなってしまうのだろうか。
◇
着いたら、そこは真っ暗な山の中だった。
「あの、佐々木さんここじゃないですよ」
「ん? ああ、友達の家って言ってたな」
とぼけているけど、絶対わざとだ。
「まあ、いいじゃないか、寄り道したって」
男は車を降りる。
「ちょっと待ってください」
僕も続けて車から降り、男についていく。
「まあ、ちょっとした肝試しでもしようじゃないか」
「どういうことですか?」
「なあ、こういう噂を聞いたことあるか、この山には女の幽霊が出てくるって」
「まあ、ここらへんに住んでいる人なら、知っているんじゃないですか」
「俺は、本当なのか知りたいんだ、そしてそんな非科学的ことがなぜ起こるか」
興味ないか?
そう問われて、正直知るかとキレそうだった。
早く、風菜のところへ行きたい。
一刻も早く。
「ほら、いこうぜ」
「でも」
「怖いのか?」
「そうじゃなくて、僕は友達のところに行きたいんですけど」
「まあまあ、慌てんなって、こっちの用事が終わったら、すぐ送ってやるから」
なんて自分勝手な人なんだ。
「ほら、スコップ」
「え? なんで」
もしかして、この人は僕がやったことを知っているのか。
そして、果歩の遺体を掘り起こそうとして、それをすべて警察に差し出す気か。
「幽霊がいるってことは、この山に死体があるかもしれないだろ、もしかしたら埋まってるだろうし」
「はあ」
「だから、怖気づくなって、いくぜ」
まるで、遠足かピクニックに行くかのような様子で、山の中を散策する。
僕はまったくもって気乗りがしない。
僕らは山の地面を適当に掘り進める。
何もなければ、他のところを掘る。
この光景はまったくもって不毛に見えるだろう。
僕はこの男の行動についていきつつ、遺体があるところはなるべく避けるようにした。
「しかし、見つかんねえな」
「当たり前ですよ、あるわけないじゃないですか」
「そう、言うなって、よしあそこ掘るぞ」
男が指差すさきにある場所は。
やばい、そこは。
「佐々木さん、もうやめましょう、こんなこと」
「どうした、急に?」
「どこ掘ったって、何も出ないんですから、もう行きましょう、そろそろ僕友達のところに行かなくちゃいけないし」
「そんなに、慌てんなって」
慌てたくもなる。
そこには、果歩の遺体があるところだ。
「うーん、わかったこれで最後にしよう」
良かった、これで風菜に会える。
「じゃあ、早速」
「ちょっと待って下さい」
「ん? なんだ」
「さっき、最後だって」
「ここ、掘ったら最後って意味だけど」
マジかよ。
「だから、やめましょうよ、こんな無意味なこと」
「じゃあ、なんで女の幽霊がでるんだ?」
「知りませんよ」
「だから、調べるんだよこうやって」
男はスコップを突き刺し掘り出す。
やばい。
もし、見つかったら。
「ほら、少年も」
「は、はい」
もう、どうにでもなれ。
だが、掘り進めるうちになにか違和感を感じた。
その違和感の正体がだんだんわかってきた。
遺体が出る気配がない。
掘っても掘っても、出てこない。
なぜだ。
たしかに、深いところに埋めたが、もう出てきてもいいはずのところまで掘り進めている。
「やっぱ、ねえか、あると思ったのにな」
男は、手を止める。
けど、僕はやめなかった。
「どうした、急にやる気になったのか、さっきは嫌そうにしてたのに」
「だって、おかしいんです、ここにあるはずなのに、ないんです」
「なんだって?」
しまった、あまりの状況に、つい口が滑ってしまった。
「いや、なんでもないです、今日はもう帰ります」
もう風菜のところに行ってる場合じゃない。
「そうか、家まで送ろうか?」
「一人で帰ります」
僕は、フラフラになりながら、おぼつかない足取りで家まで歩いた。
◇
気づけば、朝になっていた。
遺体が消えていた。
一体どこに?
そればかりが、頭を巡り僕は正直おかしくなりそうだった。
そもそも、本当に死んでいたのか、いや死んでいた。
この手で殺したし、何度も確認したし、何度も山に運んでは掘り返してみても、果歩は死んでいた。
じゃあなぜあの夜、遺体が消えたのか。
分からない。
もしかして、あの佐々木って男が・・・。
いや、それはない。
あれただの頭のおかしい変人だ。
僕を無意味に困らせて、楽しんでいただけだ。
あの男は多分関係ない。
多分・・・。
いやこれは僕がそう思いたいだけの希望的観測だ。
もしかしたら、あの男はすべてわかっているじゃないのか。
だとしたら、いやだったらあんな意味不明なことはやらないか。
ああ、もう、ダメだ。
頭が狂いそうだ。
その時、携帯が鳴る。
風菜からだ。
「もしもし、昨日はごめん」
「いいの、敬也君体調不良だったし、今大丈夫?」
「ああ、一日休んだら良くなったよ」
嘘だ。
「そう、今から来れる、今日休日でしょ、見せたいものがあるの」
カレンダーの日付を見る。
たしかに、今日は土曜日だ。
正直昨日のショックであまり外に出たくない。
「やっぱり、ダメかしら」
「いいよ、いくよ今から」
やはり、彼女の頼みは断れない。
僕は家を出て、彼女の家に一直線に向かう。
さすがにあの男が出くわさないだろう。
風菜の家に着く。
豪華な門が僕を出迎えてくれた。
インターホンを鳴らし、しばらく待つ。
すると、門がゆっくりと開かれる。
僕は、門をくぐり、家の敷地内に入る。
門を見ても分かるが、家を見ても立派なところだと思わせる。
風菜の家は、ここの大地主で家族や親類のほとんどは、どこぞの会社の代表だったり、代議士だったり、とにかくこのへんでは一番の資産家らしい。
「敬也君、こっち」
「風菜」
玄関まで行く途中で、風菜が僕を呼び止める。
「ごめん、待ったかな?」
「いいえ、地下室に見せたいものがあるの、案内するわ」
僕は彼女についていく。
「私ね、グリム童話が好きなの」
「ああ、知ってるよ、良く読んでるよね」
「そのなかでね、白雪姫と眠れる森の美女がお気に入りなの」
「へえ」
それは、初めて聞いた。
「私ね、美しいものは、魂が宿ってない肉体が一番美しいと思うの」
「どういうこと」
「だって、白雪姫は毒りんごを食べて、死んで王子様に見初められたでしょ、眠れる森の美女だってそう」
「うん」
「その時、思ったの、本当の美しさは死を迎えてから、現れてくる」
僕は風菜のいうことがよく分からなかった。
「分からないって顔してる、まあこれから分かるわ」
僕たちは風菜の家の隣にある蔵に訪れる。
蔵の中に入ると、高価な壺や陶器で出来た器が置かれている。
小さい頃風菜とかくれんぼしたとき、ここに入って隠れてたら風菜のおじいちゃんに怒られたっけ。
懐かしい。
そういえば、風菜の両親を見たことない。
初めて出会った頃とき、風菜はおじいちゃんといっしょだった。
それから、仲良くなって家に行ったりして遊んでたけど、結局今のところ見たことない。
彼女の両親はそれほどまでに忙しいのかそれとも。
「蔵には地下室があってね、知らないでしょ、私も最近知ったの」
「そう、なんだ」
「ここよ」
床に鉄で出来た扉みたいなものがあった。
「開けるわね」
風菜が開けると階段がみえた。
「気をつけて」
「ああ」
おそるおそる、階段を下る。
まるで、奈落底に誘われているような感じで、底には地獄が広がっているような気がした。
それぐらい、闇で視界が覆われていた。
「もうすぐよ」
「うん」
僕は息を飲む。
階段を下り終えると、闇が支配していて何も見えない。
「電気点けるわ」
明かりがともされると、部屋のすべてが見えた。
鉈や斧、それから用途の分からない刃物などが置いてある。
あと、ほつれた縄が落ちていた。
その縄は、血で染められている。
見た感じ、染められた血は古く新しくない。
「ここは?」
「さあ、私もこの部屋の用途は分からないの」
「そう・・・」
地下室の真ん中にはガラスでできた大きなケースがあった。
まるで童話に出てきそうな棺に見える。
その中にいたのは。
「果歩」
「そうよ、彼女美しいでしょ」
ガラスの棺で彼女が横たわっていた。
そんなバカな、なぜここに遺体があるんだ。
「敬也君、すごい汗かいてるわよ」
「風菜、どうして果歩がいるんだい」
「そんなのどうでもいいじゃない、それより見て美しいと思わない」
恍惚な笑顔で僕を見る。
僕は絶望した。
これじゃあ、僕が果歩を殺した意味が無いじゃないか。
「ふざけるな」
「急に叫ばないで、たしかに私の趣味趣向は理解に苦しむかもしれないけど、でも幼なじみの敬也君には知って欲しかったの」
「ちがう」
「なにが?」
なにもわかってない。
たとえ、彼女が常識の範疇を超えることをしても僕は彼女を軽蔑すはずがない、だって。
「僕は君のことが好きだ、愛している、風菜がいればそれでよかった、なのに果歩と付き合い始めたって聞いたから、だから殺したのに、これじゃあ、意味がない」
「ごめんなさい、でも私敬也君は幼なじみとしては好意を持っているけど、それ以上の感情はないわ」
風菜は、ガラスの棺に近づき、愛しいように指を滑らせる。
「だって、死んでる果歩のほうが、私すごく好きですもの、愛してるわ」
「そんなの、おかしいよ、僕と君は何年一緒にいると思ってるんだ、君に出会った頃から君が好きなのに、君は僕だけを見てればいいんだ」
「それは、無理だわ」
風菜からの拒絶がこんなにも苦痛に感じる。
僕は風菜なしでは生きていけない。
それぐらい、好きで、愛している。
待てよ、遺体が美しいんだよな。
そいつをまた殺せばいいんじゃないか。
今度は、原型を留めないぐらいに。
「風菜、どいて」
「敬也君?」
僕は、その場にあった鉈を手に取り、ガラスの棺に向かって振り落とす。
「やめて」
風菜の制止にも、動せずガラスの棺を壊す。
あらかたぶっ壊したところで果歩の遺体を壊そう。
寸前、腹に何かが刺さり、激痛が走る。
僕はその場に倒れる。
風菜がガラスの破片で僕を刺した。
なぜ?
「やっと、手に入れたの誰に壊させないわ」
風菜が僕を見てくれている。
意識が段々遠のいていく。
ああ、死ぬのか。
でも、好きな人に殺されて死ぬ。
むしろ本望だ。
やがて、視界が真っ暗になる。
◆extra(Side.K)◆
目覚めると、私は知らないところにいた。
ガラスが散らばっていて、恋人と友達が血を流して倒れていた。
この状況に私は、少し混乱する。
「起きたか?」
「佐々木さん? ですか」
「いかにも、俺だ」
佐々木啓示、この人は土から這い上がって私を助けてくれた人だ。
あれはいつだろう、私は友達の男の子に殺された。
しかし、私は生きている。
多分、気絶しただけで、私はそのまま土に埋められたんだと思う。
「あの、これは一体」
「あまり、驚かないんだな」
佐々木さんに言われ、私は答える。
「こういうのは、慣れているんです、両親と車でいた時に家族が強盗に襲われても、クラスメイトとバスに乗っていた時事故に遭遇してもも、私だけが生き残っていく、私に関わる人間はそういう運命になるです」
でも、これは初めてだ。
神はどれほど私を孤独にしたがるのだろうか。
「そういうもんか」
「これは、誰が行ったんですか、見たところ誰かに殺されたように見えるんですけど」
「さあな、俺が来た時にはこうなっていた」
「そうですか」
てっきり、佐々木さんがやったと思った。
だから私をここに死んだふりさせて、運んだとばかり考えていた。
それか、なにか隠しているのか。
まあ、私の知るところではない。
それよりも。
「もう、この町にはいられませんね」
「どうしてた? お前は行方不明になってるだけで、警察に行けばいいんじゃねえか?」
「いえ、決めてるんです、まわりに不幸が訪れたら、別のところに行こうって」
「そうか、じゃあ協力するぜ」
「いいんですか」
「もちろん、俺はいつでも退屈だからな」
その言葉に、疑問を持ったが、まあいい。
◇
翌日私は、無人駅のホームで電車を待っていた。
「なあ、最後の餞別にいいか?」
「なんでしょうか、佐々木さん」
「名前、新しくしたら、例えば臼出マキナとか?」
「名前ですか、いいですね、気に入りました」
臼出マキナ。
果歩よりは、いいのかもしれない。
個人的に。
電車が到着した。
「じゃあな、マキナ」
「さよなら、佐々木さん」
私は旅立った。
新しい自分になって。
けど、孤独の運命は死ぬまで変わらない。
◆extra(Side.S)◆
最初、土から現れたもんだから、てっきり噂の幽霊かと思ったが、違った。
生きた女子高生だった。
話を聞くと殺されかけたらしい。
俺は、いい退屈しのぎになるなと考えた。
彼女が付き合っていた少女の家に彼女を送り込んだ。
そしたら、なんとも愉快なことが起きた。
山であった少年が暴れて、挙句の果てに殺された。
良いキャラしてたのにな。
まあ、どうでもいいが。
そのあと、俺が現れて、少女が俺を襲おうとしたが返り討ちにした。
◇
マキナを見送ったあと、俺は自宅に戻る。
「おかえり、佐々木君」
「九城、俺がいない間、変わったことはないか」
「特にはないけど、佐々木君の部屋からうめき声が聞こえるんだけど」
「そうか」
「どうせ、女の人がいるんでしょ、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ、あと女じゃない」
「え? どういうこと?」
九城の聞きたそうな態度を横目に、俺は自分の部屋に入る。
ベットには、全裸の男が横たわっている。
男には、縄で全身を縛りつけて、動けないようにしていた。
おまけに、猿轡のオプションつき。
男は、俺に助けてほしいとばかりに涙目で睨みつけている。
この男は、俺が夜うろついている時、職質してきた見知らぬお巡りさんだ。
面白いから拉致ってここに誘拐してきた。
さて、国家の犬をどう調教して雌犬してやろうか。
しばらく、退屈には無縁になりそうだ。
俺は上半身を脱ぎ、男に近づく。
「怯えてるようだが、たっぷりかわいがってやるよ、お巡りさん」
意味のない殺人 有刺鉄線 @kwtbna
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