第三話

 外の物音が消え、静寂に包まれたアトリエ。私はてきぱきと設置されていた機材の状態確認を行うと、作業の準備に取り掛かる。アトリエの開業だ。

「それにしても、誰がこんな機材を残してたんだろう。状態はいいし、向こうでも見た事がない型式だし、元の機材を独学で改良したオリジナルなのかな?」

 炉に薪を並べながら、王都の試験で利用した機材とは少しばかり様子の違う事に首を傾げる。ただ、形状は独特であるモノの、基本となる根幹は同一らしいので作業に関しては恐らく工程を加える必要性はないだろう。

「こんな感じで薪も並べたし、後は火種をここに置いて火打ち石でっ、と」

 火種となる藁を入れるとそこに火打ち石で火を点けようとするのだが、そこである事を忘れている事に気が付いた。

 まだ、炉の設置された水蒸気釜に水を入れていなかったのだ。初日から作業ミスをするところだったではないか。リーン草を無駄にせずに済んで良かった……。

 私は外の井戸から水を汲んで戻って来るとその釜の中へと流し込む。

 そして、釜が満たされたのを確認すると炉の中へ火打ち石で火を点け、筒を用いて息を吹き込み一気に燃え上がらせる。

 赤々と燃える炎を確認すると、水が沸騰し始める前に昨日の内に寝る間も惜しんで選り分けて置いた鮮度のいい葉っぱを水蒸気釜上部に設置された網へと並べていき、密閉する。

 これで下準備は完了。ここから先が私達香料士の腕が試される所だ。

 まず、鮮度が一定以下のモノは取り除いている為、抽出されるコロンの品質に隔たりが発生せず、おおよそ均等になる筈だ。

 それに、今回は葉からの抽出のみ。下準備の必要も特殊な製法も使わない。

 最も良く使われ、慣れ親しんでる製法なので失敗はないだろう。

 あとは自分の目と感覚を頼りにリーン草の葉を交換していくだけだ。

 そんな事を考えていると、装置の底の水が沸騰し始め、蒸気が立ち上り始める。

 この蒸気を敷き詰められた葉に通過させ、成分を分離。抽出した香料を水没させて冷やされたコイル管を通す事により、冷却。分離させればコロンの原料は完成する。

 まぁ、その冷却するための水を確保する為に何度も井戸へ往復し、火が消えて水の温度が下がらないように薪を入れ続ける為、休んでいる暇などないのだが……。

「さて、そろそろ冷却水の方も追加しないとまずそうだからっと」

 私は抽出過程を詳細に確認する為、眼鏡をかける。

 微細な変化を見逃さず、葉の入れ替え時期などを五感で感じ取らねばならない。特に葉の成分抽出状況を目で確認し、一瞬の判断で葉を取り替えなければならないのだ。

 決して目が悪い訳ではないのだが、その些細な変化を見逃さない為にこうしていつも作業中は眼鏡をかけるようにしているのだった。要は意識の切り替えである。

 魔法的な眼鏡などでは断じてない。どこにでもある何の変哲もないものだ。

 何度目かの冷却水汲みの往復を終えた頃には冷たい井戸水で冷却され、僅かではあるが精油と香りのついた水に分離されていた。精油の色は緑だが、コロン精製時に薄まる事を考えれば、誤差の範囲内だろう。この程度なら、後々で調整が出来る。

 匂いが前に作った時よりも強めなのは気になるが、恐らくは使っている葉が屑ではなく、いつもよりも鮮度が良いのが原因だろう。それ以外には考えられない。

 それにしても、熱い。暑い。汗が身体から噴き出してくる。

 水を沸騰させる為に薪を燃やし続け、部屋には熱が篭る。何度も薪を運ぶ。その上、何度も冷却水を運ぶ事を繰り返した。それが私の体力を更に奪っていった。

 そう言えば、冷却水もこれくらいあればいいと思う。なら――、

「多分……誰もいないから上を脱いでも大丈夫だよね。匂いが着いたら厄介だし……」

 香料士が仕事柄使う香料の中には匂いが一度布に染み着くと、落ちない物も多い。

 王都に住んでいるような人間ならまだしも、片田舎に住む庶民の私には替えの服を何着も持っていない。もう少し早めに気付くべきだったかもしれない。

 一揃いとなると……考えただけで頭の中の財布からみるみると銀貨がなくなっていく。

 私はおもむろに脱いだ服で顔を伝う汗を軽く拭うと、それを近くの椅子に掛けた。

 外で薪割りをしているジークにこの事を言ったら、もう少しは身なりを気にしたらどうだとでも言って来るのだろうが、残念ながら私は使用人ではない。

 そんなモノにお金をかけているような余裕だってない。

 日々の生活が精一杯というものだ。誰もがそういう風に生きれる訳ではない。

 そんな事を考えながら、淡々と庭先の井戸から組み上げた水を冷却装置の中へ漏斗を使い流し込み、作業を黙々とこなしていく。もうすぐ、抽出は終盤と言った所だろうか。

 しかし、よく考えたものだと思う。

 熱せられた水はお湯となって上層部へと昇って行く。つまり、下から冷たい水を流し込み、押し出される事によって溢れた水は熱せられた水という事になる。

 誰が考えたのかは知らないが、実に効率的なやり方だ。私ではきっと、思い付かない。

 その上、この家は装置の設置場所も工夫されているらしく、装置から溢れ出た水は自然と外へと流れ出すように排水口に向かって傾斜になるように設計されているらしい。

 お蔭で水を捨てに行く手間が省け、作業も幾ばくか楽になっている。もしも、これがなければ一回目の作業が終わるより先に、力尽きて倒れ伏していたかもしれない。

「そろそろ、抽出一回目は終わり。思ったよりも時間がかかっちゃったかな」

 初めての頃よりは時間はかかってはいないのだが、それでも葉からの抽出の度合いの変化が難しく全体としてはまだまだ効率化の余地がアリ。と言えるだろう。

 まだ、この装置に慣れていないという理由もあるのだが、早く慣らさなければ大きなミスを招きかねない。これからの課題は多そうである。

「それじゃ、さっさと一度目の抽出作業を終わらせましょうか!」

 香料作りには時間と労力がかかる。

 コロンを一つ作るのにかかる期間は一ヶ月。それだけ、長い時間が必要になる。

 はっきり言って、香料士の離職率の高さの大きな要因がそれだ。

 その上、率直に言ってしまうと、労力に見合うだけの報酬も名声も与えられない。

 他の職人達に比べて世間の理解もまだ行き届いておらず、費やす物と得られるものがとてもじゃないが釣り合わない。失うものが多い。それが今の現状なのだ。

 今、作っているコロンはまだ良い。だが、香料士本来の仕事であるアロマ作りになると昔も今も変わらない。採算なんて度外視だ。

 書物で読んだ限りでは、これでもコロンと呼ばれる採算がまだ取れるものが開発される以前に比べれば、相当な改善がなされているらしい。

 何せ、聞いた話ではその職人的な性質上、それ以前では香料士は詐欺師と同義とされ、今よりも悲惨な時代があったそうなのだ。

 それ故に、こうしてコロンと呼ばれるものの精製技術を体系化した人物は師匠と並ぶ人物として名前を挙げられているのだが……誰だったか。まぁ、いいか。別に。

 ただ、香料士が詐欺師と言われていても仕方がない気がする。

 こうして作業をしていて思うのだが、小さな小瓶に分離した精油を詰めて蓋をする。こんな液体で誰かを救えるなんて到底、信じられるものではないだろう。

 その上、精製に失敗すれば逆の効果の香料になったりと性質変化も起こる。アロマに至っては魔女の扱う魔術と同義の扱いをされて魔女狩りの被害にまで遭いかねない代物だ。

 それだけではなく、抽出液の廃液を利用した偽造品からただの色水まで流通していたのだから、信用なんてあったものではない。

 でも、それに私は救われたのは事実だし、私はそんな香料士の姿に憧れた。

「蒸留水はもったいないけど、飲み水には適さないし……捨てるしかないか」

 抽出出来た量から考えて、この工程を数十回はこなす必要がある。

 準備と片付けの時間を含めて計算すると、一日二回が限度。最短で二週間。

 熟成期間も考えると二月といった具合だろうか。大変そうだ。

 すぐに次の抽出に移るにしても機器の中にある葉を交換しなければならない。ある程度、冷えて触れられるようになるまでは間を置く必要がある。

 時間も丁度、頃合いだ。きりもいい。少し早めの昼食と洒落込むのも悪くはない。

 私は近くにあった机の上を簡単に整理すると、そこへ朝用意した昼食のサンドイッチを並べる。そして、コップには先程、汲んで余った井戸水を注ぐ。

 少し前の王都での昼食に比べれば、質素な食事。何か忘れている気もしなくもないのだが、覚えていないという事は差ほど重要な案件ではないのだろう。

 私は一作業を終えた事もあり、仕事用の眼鏡を外すと椅子へと腰を下ろした。

 そして、目を閉じ、恒例となっている豊穣の女神イリスへの食前の祈りを行う。

「今日も生きとし生けるもの全てに恵みを与え、私達の心と身体を支えて下さる豊穣の女神イリスの恵みに感謝します。この糧に力づけられ、今日も良き行いを行えますように」

 別に敬虔なる信徒ではないが、何度も述べている内に覚えてしまった。

 この地方一帯で広く信仰される女神であり、一度も行った事はないがこんな辺境の小さな町にすら祈りの場がある。これから先もそこへお祈りに行く事はないだろうけど。

 私はそんな事を考えながら、目を開けると飛び込んで来たサンドイッチに思わず、お腹の虫の音が鳴り響いてしまう。誰も居ないのだが、恥ずかしい。

 思わず、咳払いしてその事を誤魔化そうとしてしまった。そして、顔を真っ赤にしながらもそのサンドイッチを掴み、口元へと持っていくのだが――。

 そのサンドイッチの欠片が私の胃に納められる直前で手が固まってしまう。

 何故なら、アトリエの扉が突然、開いたからだ。

「おい、一応、薪は全部割っておいたぞ。…………って、お前! 一人で昼めしか? それに、なんてかっこうしてるんだよ!」

 部屋中に響いたジークの大声に私はサンドイッチを机に戻すと、ゆっくりと自分の身体へと視線を降ろす。別に何もおかしい所はない。いつも通り、胸には包帯を巻いている。

 そう……包帯を巻いているのが見えており。見えており。あれ? 上を着ていない……。

 あぁ、そう言えばさっき暑いし、匂いが着くからと言って上を脱いだんだったっけな?

 ……………………それをジークはまじまじと今、見ていると。

「ちょっ! 何を見てるのよ! さ、さっさと出て行きなさいよね!」

 完全にジークの存在を忘れていた。普段から調香の際に近くに誰もいなければ、服を脱いでいただけに当たり前に感じていたがやはり男性。しかも、幼馴染にこうして見られたくない物を見られてしまうとどうしていいのか分からなくなる。

 顔なんて一瞬で恥ずかしさと悔しさで真っ赤に染まってしまう程だ。

 咄嗟に近くにあったモノを投げそうになるがそれは昼食。これを投げ捨ててしまえば、昼は抜き。体力を使う作業でそれでは身が持たない。

 他にあると言えば、売り物のコロン。これは論外だ。

 私はその何かを投げつけたくなる衝動を必死に抑え、真正面からジークを睨み付ける。上半身を両手で隠し、身を縮め、大急ぎで椅子に掛けていた上着を羽織る。

 もしかして見られてしまっただろうか。きっちり、脳内に焼き付けられただろうか。

 私の注意力不足が原因なのだが、本当に何をやっているのだろう。私は……今にも泣き出してしまいそうだ。穴があったら掘り進んででも埋まってしまいたい。埋めて欲しい。

「あれだ。ほら、な、泣くことはないだろ? 殆んど、見えなかったし、それに誰もお前の貧相な身体で興奮なんてしねぇよ」

「ひ、貧相……それ、絶対に見てるじゃない。それに……」

「いや、お前、身体小さいし、細いだろ? それくらいが普通だって何事も適量って言うだろ。それに、包帯で押さえつけてたら大きいのか小さいのかだって分からないって!」

 確かに身長は低いし、身体の線は細い。だが、背が高く母性的な印象を受けるレナさんんやマリンさんのようなスタイルに憧れている。

 私もいつか、あんな体型になりたい。まぁ、絶対になれないだろうが……。

「お前、まさか小さいのとか気にしてたのか?」

「気にしてるに決まっているでしょう! 私だって、その……『可愛いね』じゃなくて、やっぱり『美人だね』って言われたりしたいって思ったっていいじゃない!」

 酒場でもいつもこの身長が原因で褒め言葉は『いつも可愛いね』だ。

 それに、それ以上に私の背中には見られたくなかったものがある。この事を知っているのはジュリアおばさんと師匠くらいだ。二人にしか、見せられなかった。

 ここ最近はずっと、一人でいる事が多かったから油断し過ぎていたのかも知れない。

「それで、他に何か見えたりしなかったかしら?」

「あぁ、確かに見たよ。お前の胸は……って、そう言えば、お前――怪我でもしてるのか?」

「な、何でもないわよ。別に私が怪我しててもジークには関係ない事でしょう」

 良かった。どうやら、包帯を巻いて正解だったようだ。隠れて見えなかったらしい。

 本当は別に怪我なんてしていない。ただ、背中に見られたくない傷跡があるからだ。

 でも、そんな事をわざわざジークに話す必要なんてどこにもない。

 私にだって、話したくない事はある。話せない事もある。身近なジュリアおばさんにこの事を話すのだって本当に覚悟のいる事だったのだ。

「大丈夫か? やっぱり、お――レナさんも気にかけてたぞ。あの人、お前の事を心配してさ。って、そう言えば、昨日の酒場での宴会に呼ばれなかったって拗ねてたな」

 どうやら、顔に色々と出てしまっていたらしい。

 私は大急ぎでいつもの笑顔を作り上げると相槌を打って、包帯から話題を逸らした。

「あっ……会いに行くの完全に忘れてた。でも、領主様のお屋敷で働いているなら忙しいだろうし、迷惑だったんじゃない? いつ、呼び出されるか分からないだろうしさ」

 言われてみれば、昨日の宴会にレナさんを呼びに行く事を忘れていた。

 その上、今日の配達はジュリアおばさんがしてしまった為、帰って来てからまだ会ってすらいない。なんだろう。気付いてしまったからには、顔を合わせ辛いではないか。

 ただ、レナさんは領主様の屋敷でメイドをしている。それに、ある程度の責任ある立ち位置らしく、常に急な呼び出しに対して待機していなければならないという話をしていた。

 なにより、今回は私の帰郷が本来の予定よりも随分と早い。その状況下で流石に急に顔を見せたとしても、休みをその場で貰うのは厳しいだろう。今更の言い訳だけど……。

 うん、ただ私が気を遣っただけだ。そう言う事にしておこう。

 ジークは私がそんな事を考えているとは露ほども気付かず、頭を抱えてしまう。

「そう言えば、あの人……自業自得か。まぁ、あれだよ。一度顔見せてやってくれ。あの人、毎日毎日これでもかってくらいにお前の事を大丈夫かって気が気でなかったみたいだからさ。屋敷飛び出して、王都に行こうとしてたし……。それで、他にする事はあるか?」

 何か、聞き捨てならない事があった気がするが、今は聞かなかった事にしておこう。

 その方がいい。私の胸の中に仕舞い込む。それが互いの為の筈だ。

 私の事について親身に相談に乗り、応援してくれた恩人。完全に忘れていたけど……。

 やっぱり、一応は報告に行っておかなければいけないか。

 まぁ、お互いに忙しいからいつになるか分からないけど。こっちも早く落ち着きたいし。

 あぁ、ジークにお願いか。何かあったっけ。他に頼む事なんて……。

 調香を行えるのは私だけ。どうなるかある程度、結果が読めるだけにさせる訳にはいかない。水汲みだって水温を感じ取り、水を入れるタイミングを計る事を考えれば無理だ。

 となると、後は全てが私の仕事。それに、あまり手伝わせるのも悪い。

 ジークのせっかくの休みだ。私なんかの為ではなく、自分の為に使うべきだろう。

「まぁ、助かったとだけは言ってあげる。けど、後は私にしか出来ない事だから手伝いはいらないかな。だから、私なんかに構わずにせっかくの休みなんだし、羽を伸ばしたら?」

 こんな所で私の作業風景を見ててもつまらないだろうし、あまり見られたくもない。

 なにより男の子なんだし、釣りとかそう言う息抜きで休日を過ごした方が有意義ではないだろうか? お屋敷仕事で色々と疲れも溜まっている事だろうし。

 まぁ、それでもここにいたいと言うのなら――無理にでも追い出すけど。

「それもそうか。あの人からの言伝は終えたし、先輩から教わったことも一通り見ておかないとな。実際、結構な無理を言って弟子入りしてるから……」

「そう言えば、なんで庭師なんかになろうと思ったの? はなたれジークが」

 良く考えてみれば、ジークの家柄的に執事としての道があった筈だ。その上、昔は領主の屋敷で働くことをあんなに嫌がり、村を出て一発当ててやると言っていたような。

 まぁ、所詮は夢だったという事か。そんな事を思っていると、何故か私から目を逸らして顔を赤く染め、ぼぼそぼそと俯いて何かを話し始める。

「別に……ちょっと、興味が出たからだよ。それから、その昔の呼び方はやめろ。恥ずかしい……。もう、用がないなら俺は帰るけど、何か困ったことがあったら言ってくれよな。いつでも相談くらいには乗ってやるからさ」

「はいはい。って、ジークが解決出来るような事で困ったらの話だけどね」

 前半は何を言っているか聞こえなかったが、まぁいいか。

 薬草についての知識も私の方が上。困るとすれば肉体労働だろうが、それも追々自分で出来るようになるつもりだ。その為、何度か教えを乞う事にはなりそうだが……。

 それにしても、アトリエを後にしたジークは昔よりもどこか逞しく見えた。

 惚れるとかそういう事はないだろうけど。絶対に。

 しかし、驚いた。本当に庭師になるつもりなのだ。ただの夢追い人にでもなるかと思っていたけど、真剣に庭師の仕事をしながら植物の育成について勉強している。

 上手くやっているようで何よりだ。それをやりたいと言い出したときは驚いたけど。

 庭師として大成できるかはまだ、分からないが似た夢を追いかける幼馴染としては頑張って貰いたいものである。私のほうが幾らかリードしているけどね。

 さて、食事も終えたし、程々に休憩もした。

 機器も冷えている事だし、そろそろ葉を入れ替えて作業を再開してしまおう。

 薪も割れている事だし、後はここに運び込んで再び火を強めればいいだけだ。

 要領は朝と同じ。集中力さえ切れなければ、何の問題もない。

「これはまだ使えそうだから残して、これは抽出が終わっているみたいだから交換してと」

 恐らく、これが本日最後の作業。ラストスパートだ。

 この作業が終われば、無事に初日が終了する。何事もなく終われるように気合を入れ直して頑張る事としよう。

 私は頬を力強く叩いて、気合を入れ直す。そして、冷却用の水をすべて新しい井戸水へと取り替えると、炉へ火を入れて再び作業を再開するのだった。

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