なんてことない日常の話

蓮実 百合

手を繋ぐ

「カエデ、そっちまだー?」

 コイツは漫画家のペンネーム・桜川ぴんくこと幼なじみの久住百歌。

「まだだよ」

 それでこっちは俺の好きな人、久住カエデ。百歌の双子の弟。

 そして俺は瀬名主税。桜川ぴんくのアシスタントをしている。

 俺と久住姉弟は家がお隣さんで、生まれる前からの付き合いだ。

 イケメンでスポーツ万能なカエデと美人で絵が得意な百歌。そして顔は普通だが学年1位の秀才の俺。

 高校時代は俺と百歌ができているとかいう噂がたっていたが、残念なことに俺はそのときからカエデが好きだった。

 どれだけアプローチしても、女子からの好意にすら気づかないニブチンなカエデは全然気づいていない。それを百歌に相談してみると、自信満々に「任せときなさい!」と言ってのけた。

 とある冬の日の夜。この日も百歌とカエデの実家で3人で原稿と闘っていた。月刊の少女漫画誌での連載にライトノベルの挿し絵の仕事…。俗に言う売れっ子ってやつだ。

「…ねぇカエデ、主税。そこのコンビニに行ってカレーまん買ってきてよ」

 時計の針が12を指した頃、百歌が突然お遣いを言いつけてきた。

 コンビニまでは歩いて5分。仕方なく俺とカエデは寒空の下カレーまんを買いにコンビニに行くことになった。

* * *

「いらっしゃいませー…」

 店員の眠そうな声を聞きながら、店内に入る。深夜のコンビニは人も居らず、物も少ない。

「カエデは何食べる?」

「んー、あんまん?」

 俺とカエデは百歌に頼まれたカレーまんと自分たちの肉まんとあんまんを買ってコンビニを出た。

「あー、寒い…」

 コンビニからの帰り道、あまりの寒さにそう零して、コートのポケットに手を突っ込む。

 空を見上げれば、ちらちらと雪が落ちてきている。

「…そんなに寒いなら手でも繋ぐか?」

 そう言ってカエデが手を差し出してくる。

「あっ…うん」

 幼い頃はこうして3人で手を繋いで歩いたっけな…。懐かしく思いながら差し出されたカエデの手を取る。

 カエデの手は冷たかったが、心があったかくなったからまあ、良いだろう。

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なんてことない日常の話 蓮実 百合 @kazusatamaki

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