騎士と舞踏会



 アロンに勝利したウィルは二試合目のベテラン騎士との対戦にも勝利した。

 大紋章試合グランド・マスター・リーグは他の大会と違って進行が遅い。

 選りすぐりの騎士を集めているので、それぞれの試合がまるでメインイベントのような扱いで、じっくりと戦うことになるからだ。


 試合の間の休憩時間は長めに取るし、騎士の入場や退場も華々しくやる。

 何より一試合毎に報奨金が出て、それをエゼルバルドが直々に渡すのだ。

 そんなやりとりをするものだから一試合にかかる時間が長い。


 大紋章試合グランド・マスター・リーグが開かれている間、ウィンチェスターの街はお祭り騒ぎだ。

 下町では屋台や出店がたくさん出て賑わい、城の方でも集まった貴族たちが連日のように宴や舞踏会を開いている。

 大きな大会だけに高名な貴族も集まり、社交の場と化しているようだ。


 ウィルたちはそんあいくつも開かれる舞踏会のひとつに来ていた。

 といっても有象無象の貴族が開催する舞踏会ではない。

 領主であり、大紋章試合グランド・マスター・リーグの主催者であるエゼルバルドが開いた特別な舞踏会だ。


 ウィル同様に二回戦を勝利して、ベスト8に進出した騎士たちと紋章官たちを呼び、各地から見学に集まった高位貴族だけを招いている。

 最低でも伯爵位を持つ貴族の関係者しかいないのだ。


 ウィルたちが会場であるウィンチェスター城に入ると、そうそうたる顔ぶれに驚く。

 騎士たちは勿論のこと、高位貴族として公爵が四人来ていた。

 現在、ブリタニア騎士王国に公爵は六人しかいない。

 

 つまりこの会場にはアリエルとエゼルバルドを加えることで、全ての公爵が揃っていることになる。

 それだけではない、主要な貴族たちが会場入りすると、ホストであるエゼルバルドが一人の男性を伴って現れた。

 狼のような獣耳を生やした壮年の男性だ。

 その衣装は豪華で煌びやか、そして頭上には金色に輝く王冠が見える。


 ブリトニア騎士王国第一王子アゼルスタンだ。

 やや陰りのある表情を浮かべて、長身を丸めて会場を見渡している。

 初見の印象としては仕事に疲れた中年といった感じだ。


 王であるエゼルウルフが不在の今、この場にブリタニアの主要貴族が集結したのだ。

 まるで王国会議のような有様だ。

 そのせいか会場を警備する騎士の数が凄い。

 領地中から集めたのではないか、と思う程の数が街中に駐屯しているし、この会場の中にも錬度の高そうな騎士たちが何人も詰めている。

 舞踏会という華々しい場にしては随分と物々しい。


「今宵は大紋章試合グランド・マスター・リーグを勝ち抜いた勇敢な騎士たちを招かせていただいた。大いに楽しんで欲しい!」


 エゼルバルドが壇上から挨拶をすると、皆が杯を掲げてワインを飲み干した。

 いろとりどりの料理がテーブルに並び、参加者たちは立食形式で飲んで、食べて、語り合う。

 エゼルバルドや公爵たちのいる席だけはキチンと椅子があり、そこでは落ち着いた雰囲気で食事が行われている。

 ただ落ち着いて見えるのは表面だけで、話をしている内容はエゼルウルフ王が不在のブリトニアをどのように運営していくか、の意見調整のようで笑顔が怖い。


 アリエルも貼り付けたような笑みで和やかに会談している。

 海千山千の古狸のような公爵相手に食事しながら会話とか、かなり胃に悪そうだ。

 しかしウィルもすぐに胃の痛くなるような事態に陥った。


 周りで様子を伺っていた令嬢や貴婦人たちが寄って来てウィルを取り囲んだのだ。

 そして矢継ぎ早に試合のこと、アリエルのこと、サラのことなどを根掘り葉掘り聞いてくる。


 ウィルは辺境育ちだったこともあって社交は苦手だ。

 貴婦人を喜ばせる美辞麗句も知らなければ、令嬢を喜ばせる甘い言葉も紡げない。

 あたふたと聞かれたことを答えるので精一杯だった。

 

 思わず助けを求めるように周りを見回す。

 いつもならアリエルが遮ってくれたからだ。

 しかしアリエルは狸貴族たちと会食中、助けに来ることが出来ない。

 

 そのとき、遠くのテーブルに群がる一団を見つけた。

 ガイだ。

 さすがに前回の騎士王だけあって、ガイの周りには多くの人が集まっている。

 ウィルのように貴婦人や令嬢は元より、青年貴族も居た。

 

 ガイはそれだけの人に囲まれても慌てることなく、余裕のある表情で何かを話し、大いに場を盛り上げていた。

 思わず目を背けると、他の騎士たちも規模は違えど同じように対応していた。


 それを見るとウィルも苦手だなんて言っていられない。

 昔は騎士の仕事は戦うことで、ひたすら戦場で槍を振るえばよかった。

 だが今では戦争がなくなり騎士が戦うのは紋章試合だけだ。

 そうなると戦うだけではなく、周りの人間を楽しませる必要も出てくる。


 ロジェがこちらを見て、助け舟を出そうとしているが、それを押しとどめた。

 今まではロジェやアリエルに助けられてきたが、本来これは騎士の仕事だ。

 ウィルが率先してやらなければならないことなのだ。


 しかし、やらなければいけない事が出来るとは限らない。

 ウィルは自分なりに必死に会話を盛り上げようとするが、結果は芳しくはなかった。

 質問に対して一言返すだけだったのが、二言になった程度だ。

 それでも進歩なのだが、聞いてる方にとっては違いはない。


 そんな時、会場にどやどやと楽団が入ってきた。

 使用人たちも大勢入ってくると手早くテーブルを隅に片付け始める。

 まだ料理の載っているテーブルは壁側においやられて、中央の部分が大きく開けられた。


 楽団は簡単に音あわせをすると、静かに演奏を始める。

 すると待ちかねていたのか、青年貴族たちが年若い令嬢たちを誘ってダンスを始めた。


 ウィルはここぞとばかりに目の前でまくし立てている令嬢の手をとった。


「私と一曲、いかがでしょう?」

「まぁ、嬉しいわ! 喜んで!」


 口を動かすよりも身体を動かす方がまだマシだ。

 ウィルとて見習いの時に宮廷作法のひとつとしてダンスは習っている。

 試合で使うのとはまったく別の筋肉を使うのだが、それでも身体を動かすのは得意だ。

 抜群の安定感と機械のように正確なリズムでダンスをこなしていく。


 これで宮廷流をわきまえた騎士なら、まるで一時の恋人のように扱い、上手いこと夢を見させるのだが、さすがにそれはウィルには無理だ。


 そこでウィルはすかさず難度の高いダンスを自分が主導して行う。

 この令嬢はダンスがそこまで得意ではないようで、ちょっと慌てるが、ウィルは安心させるように頷くと、ぐっと抱き寄せて寄りかからせる。


 後はもう踊っているというよりは、躍らせているという感じでウィルが主導して振り回すようにダンスする。

 令嬢も最初は驚いていたが、自分の力とは別の力で高度なダンスが出来る不思議な感覚が面白くなってきたのか笑顔を浮かべる。


 それを見ていた周りの女性達が色めき立った。

 話題の騎士の踊れると分かるとウィルの周りに群がりだしたのだ。

 こうなるともうウィルと話そうという者はいなくなり、ひたすらダンスをする機械となってウィルは踊り続ける。


 そんな感じで延々とダンスの相手をしていると、いつの間にか群がっていた人々がいなくなっていた。

 辺りを見渡すと他の騎士のところに集まっていた人々もいなくなっていた。

 未だに会場に残っているのは料理をゆっくり食べる人、ワインを飲んでまったりと歓談する人々、お目当ての令嬢を中庭に誘う人などだ。


 ウィルは思わずため息を吐き出す。

 試合や訓練とは違う倦怠感が全身を包む。

 他の騎士たちはこんな事を平然とやっているのだろうか、恐ろしいことだ。


「はぁ、なんとかなったかなぁ」

「まぁ、アンタにしては頑張ったんじゃない?」

「やっぱり俺は槍を振るっている方が気楽だよ」


 ウィルはロジェに椅子を持ってきてもらって、ぐったりと座る。

 身体の疲れよりも、少しでも楽しませないと、という気疲れの方が大きい。

 

 上座を見るとアリエルや公爵たちはいなかった。

 途中で会議室の方へ移動となったらしい。

 公爵というのも大変だ。


「おう、お前が『誇りのない騎士』か」


 ウィルが椅子でぐだっていると頭上から割れ鐘のような声がふりそそぐ。

 のろのろとそちらに視線を向けると岩のような大男が居た。

 ボルグ・アイアンボアだ。


 立派な騎士服を着ているが、その厚い胸板のせいでみっちりとして弾けそうだ。

 まったくもって華やかな場に似合わない男である。

 ボルグはギラギラとした目でウィルを見てくる。


「お前の実力は知っている。しかし、いくら技術があろうとも誇りモットーのない槍では俺は倒せん」

「そんなのやってみないと分からないじゃないか」

「ふん、誇りモットーがない奴は覚悟がない。そんな軽い槍は俺に届かん」


 ボルグは好き勝手言うだけ言って去っていった。

 その背中を見ていると、ロジェが苛立たしげに足踏みする。


「何よっ、アイツ! 前の大会でガウェインに負けた癖に!」

「……軽い、か」

「あんな奴の言うこと気にするだけ無駄よ!」


 ぷりぷりと怒るロジェと一緒にウィルも帰る準備をする。

 誇りモットーのことは騎士王になった時、と決めたのだ。

 だからもう気にしない、そう決めた。


                    ◇


 翌日、ウィルは鎧を着て試合場に立っていた。

 今日は、ボルグとの試合だ。

 大紋章試合グランド・マスター・リーグも残すところ五試合。

 本日に二試合、明日にも二試合、準々決勝となる試合を行って四人に絞られる。

 

 ここまで来ると過去に大紋章試合グランド・マスター・リーグで勝ち残ったことのある有名騎士ばかりだ。

 大紋章試合グランド・マスター・リーグに出場経験がない騎士はウィルぐらいだろう。

 

 ウィルは静かな気持ちで会場を見回していた。

 騎士なら誰もがここに立つことを夢見る大舞台だ。

 ウィルだってこの場に立つのは幼い頃の夢だった。


 だがいざ立ってみると、浮き立つような気持ちは湧いてこない。

 もはやウィルにとってここはゴールではなくスタートなのだ。

 ここに来ることが目的ではない、ここで為すことがある。


 ウィルは貴賓席からこちらを見ているアリエルを見た。

 そして主催者席で泰然と座るエゼルバルドを見た。

 最後にエゼルバルドの後ろに控えているガイを見た。


 まだ戦うべき場所に辿り着いてすらいない。

 ここで負けることなど出来るわけがない。

 ウィルは兜の頬当バイザーをおろす。


「相手は元騎士王だけど、今のアンタなら勝てるわ!」

「うん、行ってくる」


 ロジェから騎士槍を受け取ると、そのまま入場門をくぐった。

 反対側の入場門から同じように完全武装のボルグが出てくる。

 ボルグの鎧は染色してあるらしく真っ赤だ。

 明度の低い真紅で、そのゴツイ体格とあわせて迫力が凄い。


 審判の合図と共にウィルは駆け出した。


 ボルグも同じタイミングで駆け出すが、その巨体ゆえか初速は鈍い。


 ウィルはゆっくりと槍を捻りこみながら脇に構えた。


 『螺旋槍』は激突の瞬間を見極めて放つ技なので難易度は高い。

 しかしその分、見極めさえ出来るのであればどんな場面でも使える技だ。


 ボルグは特殊な動作もなく、普通に槍を構えて突っ込んでくる。

 速度が乗ってくるとその突進は濁流の流木のようだ。

 荒々しく、凄まじい威圧感、思わず腰が引けそうになる。


 以前ガイと演習していた時や、前回のティンタジェルのガウェインとの試合のときにも見たが、ボルグの戦法はいたってシンプルだ。


 基本に忠実に、最大の勢いをつけて、最短距離で槍を突く。

 それだけだ。


 ただし、その勢いと力はケタ外れだ。

 今も凄まじい音を立ててボルグが突っ込んでくる。

 きっと馬も馬力の高い馬を選んでいるのだろう。

 ウィルの馬に比べて足も身体も太い。

 

 ガウェインに匹敵する剛力から放たれる基本に忠実な突き。


 それがウィルの目の前に迫る。


 ウィルはそれを左手の盾で柔らかく受け止めた。

 

 左手に凄まじく重い負荷がかかる。


 『自在盾』はあくまでも相手の突きの威力を軽減させて受け流す技だ。

 威力がまったくゼロになるわけではない。


 ウィルは何とか槍の勢いを逸らす。

 ウィルの体勢が崩れるほどではなかったが、ボルグの槍は折れてしまった。


 ボルグほどの剛力で放たれた突きだと槍を折らずにいなすのは難しい。


 ガウェインと対戦した時には『螺旋槍』を使ってきたのでいなせたのだ。

 『螺旋槍』は元々、弱い武器でも十全に突きの威力を発揮するための技なのだ。

 逆にある一定以上の威力は出せない。

 なのでガウェインやボルグのような怪力持ちは普通に突いた方が強い。


 ウィルの間合いに入ったのでボルグに『螺旋槍』を放つ。


 ボルグが楯を構えるが、アロンのように防御に徹していたわけではないので隙がある。

 ウィルは滑り込ませるようにして楯をかいくぐり、胸甲に槍を突き込んだ。


 槍は粉々に砕け散ってかなり派手だが、ボルグの身体はこゆるぎもしない。


 ウィルの脳裏にボルグの言葉が蘇る。

 誇りモットーのない者の槍は軽い、その言葉通りの結果になってしまった。


 ただウィルの心に焦りはなかった。

 今のこの場でいきなり誇りモットーを決めても槍が重くなるわけではない。

 今出来ることは力の限り相手を突くことだけだ。


 入場門に戻ってくるとロジェも同じように泰然としていた。

 以前ならもっと心配そうな顔をしたり、焦りを表面化させていたハズだ。


「なんだか、落ち着いてるね?」

「……アンタいままでアタシのことどう思ってたのよ」


 ウィルの思考を読んだのか、ロジェはじとっとした目でウィルを見る。

 兜で視線は遮られているのだが、なんとなく気まずくなってウィルは顔を背ける。


「まったく、ここまで来たらアタシの仕事はアンタを信じることだけよ。ジタバタするつもりは無いわ」

「そっか、じゃあ期待には応えないとね」


 睨むようにして言ってくるロジェの言葉が嬉しくて、ウィルはおどけるように言う。

 そして新しい槍を受け取ると、再び入場門をくぐった。


 正直ボルグとの試合は『螺旋槍巻き落とし』を使えば、すぐに勝利できる。

 ボルグの攻撃は基本に忠実な分、単調でタイミングは読みやすい。

 そして『螺旋槍巻き落とし』は、槍の穂先をいなす『自在楯』と違って、槍の根元まで巻き込んで逸らしていく。

 どれだけの怪力を誇ろうが力では外すことは出来ない。

 そういう技なのだ。


 ただこの場にはガイもいる。

 ガイの前でこの技を披露したくはない。

 タイミングが命の技だけに一番効果が高いのは初見の一撃なのだ。

 だからまだ『螺旋槍巻き落とし』は使わない。


 再び審判の開始の合図。

 

 ウィルは考えを振り切って走り出す。

 

 ボルグは時が巻き戻ったかのように、先ほどとまったく同じ突撃だ。


 今度はウィルは槍を構えずにそのまま走る。

 今回はタイミングが命だ。

 余分な力みは厳禁だ。


 そんな事を考えている間にもボルグの巨体がぐんぐんと迫ってくる。

 

 そして凄まじい勢いで突き出された槍がウィルに迫る。


 それにあわせてウィルも小さく槍を引いて、捻りをきかせて同時に突き出す。


 狙いはボルグの左肩だ。


 ウィルに迫る槍は『自在楯』ではなく、普通に受ける。

 いや、むしろなるべく衝撃が強くなるように真正面から受ける。

 

 槍越しに戸惑ったような気配が伝わってくる。

 しかしそれもウィルの槍が命中すると焦りに変わった。


 同時に繰り出したウィルの槍がボルグの左肩を突いたのだ。


 ウィルの槍の威力は大きくない。

 しかし絶妙なタイミングで放たれた槍はボルグのバランスを崩してきりもみさせる。


 ボルグは鐙の上で独楽コマのようにくるりと回ると槍を投げ出して落馬した。


 ウィルは砕けた槍を掲げてアピールしながら走り去る。

 余裕そうにしているが、実は楯で受けた左手が痺れている。

 とんでもない怪力だ。

 長引かなくて良かった、と心から思う。


 試合場を回りながら入場門に戻るまで観客の狂乱の声が凄い。

 まるで地響きでも起きているのかというほどの大音声だ。

 それほどボルグを倒したのに驚いたのだろう。


 ウィルの名前は一気に有名になったが、逆に言えば今年ぽっと出てきた新人だ。

 大紋章試合グランド・マスター・リーグを長く見てきた観客達はそうした新人があっさり負けていく姿を幾度も見ている。

 だからこそこの番狂わせに会場はおおいに湧いた。


 ウィルはロジェと一緒に観客たちに応えながら、エゼルバルドより報奨金を受けとる。

 そして試合場を後にすると、出口で兜を脱いだボルグが待っていた。


「いやぁ、負けた負けた。完敗だ」

「アンタも強かったよ。こんなに腕が痺れたのじっちゃん以来だ」


 ボルグは、がははは、と笑うとばんばんと上機嫌にウィルの背を叩く。

 鎧を着けているので衝撃は緩和されている。

 だが、さすがの怪力で息が詰まりそうになる。


誇りモットーがないと馬鹿にしてすまなかったな。貴様は立派な騎士だ」

誇りモットーがないのは本当だから、いいよ」

「いや、貴様はもう誇りモットーを持っているさ。それは貴様の槍からも伝わってきた。ガイは強いが、勝てよ」

「――そっか、ありがとう」


 ボルグがすっと、右手を差し出して来る。

 ウィルはその手をがっしりと握った。


 するとボルグはにこやかだった顔を真剣なものに変えて顔を寄せてくる。


「それと、気をつけろよ。どうも今回の大会はおかしい。いくら公爵と王子が揃っているといっても護衛の騎士が多すぎる」


 その言葉にウィルが驚いている隙にボルグは手を離してにこやかに微笑んだ。


「ではな、また会おう!」


 ウィルは呆然とその後姿を見ていた。

 直情的な筋肉馬鹿っぽい様子をずっと見せてきて、コレだ。

 さすが歴戦の騎士、ただ強いだけではなかった。


 ふと主催者席の近くに控えるガイに視線を向けると、にやりと笑った気がした。

 あと一回勝てばガイと対戦する。

 それで決着がつくはずなのだが、ウィルはこの大会に流れる不穏な空気を感じ始めていた。

 

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