宮廷流と騎士物語
ウィルたちは三騎士を退けた後、一旦カンタベリーまで戻って門前に彼らを置き去りにしてきた。
本来ならば襲撃された事実を伝えて、アドルムス大司教からしかるべき賠償を引き出すところなのだが、時間がかかるのでやめたのだ。
状況証拠と被害者の証言しかない状況なので事実確認に時間がかかり、そこから賠償請求となるとかなりの時間がかかる。
これ以上の醜聞を嫌うアドルムスとの交渉は長引くことは間違いない。
そんなわけでもろもろの面倒を避けるためにもウィルたちは三人の騎士を縄で縛ってカンタベリーの門前に転がしておいたのだ。
その後の旅程は至って順調だった。
途中で野盗に襲われることもなく、狼に襲撃されることなかった。
現在ブリトニアで最も治安の良い場所、王都ロンドンに向かっている事を考えればそれは当たり前とも言える。
そして王都ロンドンと大司教座カンタベリーの中間にある街メイドストンに到着した。
ここはカンタベリーと同じケント公爵領で、ブリトニア王国直轄領と隣接した場所にある子爵領だ。
面積はそれほど広くなく子爵領としては小さい方だ。
しかし交通の要衝でもあるメイドストンの街を要しているために、その権力は伯爵に匹敵すると言われている。
「いやぁ、それでもこれは凄いわね」
アリエルは裸に薄い浴着だけ纏った姿で辺りを見渡す。
白い麻布で出来た浴着は薄く、胴に巻き付けて胸とお尻を隠す程度のモノだ。
湯気で湿って身体にぺたりと張り付いた浴着は、形が良く大きなアリエルの胸やくびれた腰、小振りで引き締まったお尻を強調していた。
アリエルの目の前にはとても広く、とても豪華な浴場が広がっていた。
様々な色のタイルで覆われた浴槽、柱や壁に刻まれた精緻な飾り、天井にはシャンデリアまで見える。
以前入ったウィンチェスターの浴場を遥かに超える規模だ。
「王族でもこんな豪華はお風呂もってないんじゃない?」
「わ、私も本当に入って良かったんでしょうか……」
ロジェも呆れたように浴場を見回す。
ロジェの身体は細身ながらもスラリとしていてバランスが良い。
胸は僅かな膨らみを見せていて、腰も細いがお尻も小さい。こうして脱ぐと腰の位置が高くかなり足が長いのが見て取れる。
普段は背が低いので分かりづらいのだ。
狐のような尻尾だけは湿気を吸っていつもの半分以下のボリュームになり残念な事になっていた。
サラは緊張のあまり足を震わせている。
怯えたような仕草とは裏腹にそのボディラインは挑発的で大きく盛り上がった胸のせいで浴着はピチピチだ。その分腰まわりは二人に比べるとぷにっとお肉がついていて、お尻も大きい。
いま浴場にいるのはアリエルとロジェとサラの三人だけだ。
三人は広すぎる浴場で身体を洗うと、さっそく湯船につかった。
「はあぁぁ、気持ちいい。やっぱり旅先で入るお風呂は格別ね」
「旅先で入るってレベルのお風呂じゃないけど、気持ちがいいのは確かね」
「……うぅ、なんだか落ち着かないです」
ロジェは隣でお湯に浮く二つの塊を親の仇のように睨み付けた。
アリエルはその視線に気づいて、あえて見せつけるように胸を張る。
悔しそうに顔を歪めて反対を見ると、そちらには更に大きな塊が浮いていた。
「ロジーナさん、目が怖いんですけど……」
「……気のせいよ」
「確かにサラには私も敵わないわね、ちょっと触ってもいい?」
「ひゃあ、やめてください! うぅ、私はお二人細くていいですよね」
サラは恨めしそうに自分の二の腕と二人の二の腕を見比べる。
二人に比べるとちょっとだけ、本当にちょっとだけポヨンとしているのだ。
教会暮らしで生活は豊かとは言えなかったのだが、大司教座であるカンタベリーではどんな零細教会でも豊富な食べ物の施しが集まる。なので食事だけはいつでも大量に用意されていたのだ。
そしてサラの居たアウグスティヌス修道院は人の数が少ないこともあって常に食事は余りがちであった。そこで大人たちは捨てるのはもったいないから、と子供たちにたくさん食事を食べさせた。そのおかげでサラの身体は立派に成長したのだ。
立派に成長しすぎてしまったのだ。
食事を満足に取れない人もいる中で贅沢な悩みだと思うが、もう少し加減して欲しかった、と思うサラである。
「……ところで二人はウィルのことをどう思っているの?」
「へぅっ、あ、あの、その……」
「……パートナーだと思ってるわ」
動揺して声を上擦らせるサラと対照的にロジェは落ち着いた様子で返答した。
しかしアリエルはそんなロジェの落ち着きをバッサリと斬った。
「そういうんじゃなくて男としてよ」
アリエルの直接的な物言いにロジェも顔を赤く染めた。
押し黙るロジェを一旦無視して、サラの方を向く。
「サラはウィルを男として好きよね」
断言するようなアリエルの言葉にサラはあわあわと慌てる。
それでもアリエルが強い視線を向けると少しずつ口を開く。
「……良く分からないんです。だって私は修道女なのに」
「確かに修道女になるのだったら結婚は出来なくなるわ。でもまだそれを決めたわけではないし、貴方はまだ修道女じゃない、そうでしょ?」
その言葉に目を見開き、ためらいがちに頷くサラ。
そんなサラにアリエルは優しく問いかけた。
「ウィルのこと、好きなんでしょ?」
その言葉にサラは顔を真っ赤にして、それでもコクンと頷いた。
ふむふむ、と満足気に頷くアリエル。
次のターゲットとばかりに今度はロジェに向き直る。
「ロジェはどうなの。男としては置いておいて、騎士としてウィルは魅力的でしょ?」
「……うぅ、確かにあれだけの技量の騎士は見たことないけど、身体が小さいからこの間みたいに大きい相手だとハラハラするわよ」
「あら、ロジェはマッチョ好きなの?」
「違うわよ! アタシはどちらかと言えば細くして締まっている方が……って何を言わせるのよ!」
「ふふふ、やっぱりウィルをそういう目で見てるんじゃない。ウィルは華奢で細く見えるけど、結構引き締まった身体しているのよね」
「――なっ、なんでそんな事知ってるのよ」
「昔から鎧の着替えを手伝いながらチラチラ見ていたからよっ!」
どーん、と得意げに胸を張るアリエル。
反対にロジェは冷たい視線を向けた。
「……威張って言うことじゃないわよ、それ」
「身体も私が拭いてたんだけど、最近拭かせてくれないのよね~」
「アリエル様の邪悪な視線に気づいたんじゃないの」
「私の
「その
ロジェの呆れたような声が広い浴場に響いた。
女三人寄れば姦しい、差別的なことわざだが、一部で真実を捕えてもいるのだ。
◇
夜になるとアリエルたちを歓迎して城で晩餐会が開かれた。
アリエルはいつもどおりに完璧なドレス姿、ウィルやランスロットたちは騎士服姿で、ロジェとサラもドレス姿だ。
ロジェの分はエゼルバルドから旅の道具をゆすり取った時についでに注文しておいたものだ。紋章官にドレスなんていらない、と言うロジェにアリエルが強引に作らせたのだ。
翡翠のような鮮やかな光沢のあるドレスで、飾りの少ないシンプルなデザインをしており、スリムなシルエットはロジェの足の長さを上手く強調していた。
金色の尻尾はスカートにスリットが開いていてそこから飾り物のようにさりげなく出ている。この辺りの配慮もサクソン人の多いウィンチェスターで作られたドレスなので問題はない。
サラのドレスは老修道女エレインのお古だ。
お古といってもさすがに元王女であったエレインのドレスは、アリエルの物と同様に質が良く、作りも丁寧だ。
底の深い湖のような紺碧のドレスで、胸元まで開いた襟に細かな刺繍が施されている。
そしてコルセットのように腰を外側から締め上げている部分が、よりサラの大きな胸を強調させるせいで、かなり破壊力のある見た目となっている。
何よりも豊かな胸、くびれた腰、ふくよかなお尻が強調されて周りの視線を一身に集めている。
そしてアリエルのドレスはウィンチェスターの時に着た古いものではなく、その後で作らせた新しいドレスだ。
焔のような真っ赤な生地に金色の刺繍が施された豪華なドレスだ。
非常に着る者を選ぶデザインで下手な女性が着れば『服に着られている』状態になりかねない。しかしアリエルにはその豪華さですら引き立て役にしかならないようで良く映えた。
「三人とも良く似合ってるよ。キレイだ」
ウィルの素直な感想にアリエルは当然という顔をして、ロジェは顔を赤らめて俯く。
サラも嬉しそうにはにかむが、すぐに苦しそうな表情を浮かべた。
「どうしたの?」
「ふふふ、貴族令嬢も結構大変だって事よ」
「なんでアリエル様は平気なんですかぁ」
「私はそうなるのが嫌で腰回りに肉をつけないように気を付けているのよ」
自慢げに細くくびれた腰を見せつけるアリエルをサラが恨めしそうに見ていた。
どうやらコルセットがかなり苦しいらしい。
コルセットというのはウエストラインを補正する衣服だ。
胸とお尻の豊かさを強調し対比的に胴の部分を細く見せるのが目的だ。
そのために、コルセットというのは基本的には締め付けて着用する。
装着する際などは手伝いの人間が後ろから着用者の背中を足蹴にして思いっきり紐を引いて締め付ける程だ。
アリエルは矯正する必要がほとんどないので締め付けてはいない。
貴族の令嬢としては珍しく活動的でよく運動をするのが原因だろう。
ロジェはメリハリのないスタイルなので矯正の必要があるのだが、細すぎて締め付けてもほとんど体型が変わらないために助かっている。
しかしサラはそのグラマラスな体型が故にかなりの締め付けを余儀なくされたのだ。
これは何もサラが極端に太っているというワケではない。
むしろ締め付けずに済むアリエルとロジェが特別細いだけだ。
そしてコルセットとはまさにサラのような『ちょっと余分なお肉がある体型』を『砂時計のような理想の体型』に矯正するのが目的なのだ。
老侍女たちが嬉しそうな顔でサラのコルセットを締め付けたのは、サラに隔意があってのことではない。むしろ締め付け甲斐のある身体に喜んでいたのだ。
そのおかげで三人の中で最も変身したのはサラだった。
今も遠くからサラに熱い視線を向ける青年騎士が何人もいる。
今回の晩餐会は、ウィンチェスターの時とは違って主役はアリエルだけではない。
遍歴の旅の一行、つまりウィル、アリエル、ロジェ、そしてサラだ。
特にサラは貴婦人や令嬢に人気で話を聞こうと多くの人が挨拶に詰めかけていた。
まるで騎士物語のヒロインのような境遇に羨む女性が多いのだ。
自分の名誉の為に騎士が戦ってくれる、宮廷で暇を持て余している貴婦人たちには垂涎のシチュエーションだ。
そんな女性陣に囲まれてサラはあわあわと慌ててしまう。
そしてウィルもまた多くの人に囲まれてしまった。
ウィルの周りには貴婦人や令嬢だけでなく、騎士や貴族も集まっている。
「おお、君が噂の『誇りのない騎士』殿か!」
「聞いてはいたがずいぶん若いな」
「それに小さいわ。ちょっと可愛い」
「修道女って聞いたからもっと地味な人かと思ったけど、なんだか気品があるわねぇ」
「サラ殿、貴女のように美しい人の為なら私も命をかけましょう!」
ウィルは色々な人間にもみくちゃにされて目を白黒させた。
今までこんな数の人間に囲まれた事はない。
これが敵ならいくらでも切り開く事が出来るが、自分に興味津々の野次馬となるとどうにも出来なかった。
そこにポロンポロンと綺麗な音が響いた。
「皆さま、我が騎士は宮廷流には不慣れでございます。ここは紋章官である私が『誇りのない騎士』ウィリアム・ライオスピアの物語を語らせていただきますわ」
いつの間にか手にリュートを持ったロジェが現れた。
リュートというのは洋梨を半分に切ったような胴体を持つ撥弦楽器だ。
弦をバイオリンのように引くのではなく指で弾くようにして演奏する。
音量自体はあまり大きくないがその美しい音色に群衆は自然と口を閉ざした。
それを見てロジェはニコリと笑うと椅子に浅く腰掛けて膝の上にリュートを乗せて弾き語りはじめる。
「今から語るのは『誇りのない騎士』ウィリアム・ライオスピアと『亡国の花』アリエノール・コーンウォール・ペンドラゴン、そして一人のユート人修道女サラの物語」
どこからそれほどの、と思うような声量でロジェが朗々と謳いあげる。
巧みに韻を踏み、時にメロディにのせて、時には間奏時にゆっくりと、歌うというよりは謡うという感じでウィルとアリエルの旅を語りだした。
あれだけ騒がしかった群衆は一様に口を噤み、皆おもいおもいの場所に腰を落ち着け引き込まれるようにロジェの声を聞いていた。
ウィルもまた初めて聞いたロジェの歌声に聞き惚れていた。
女の子にしてはややハスキーな声だが、それが物語を聞くのに邪魔しない。
優しく、あるいは勇ましく、場面にあわせて変わる調子に自分の物語だというのにすんなりと聞き入ってしまった。
ウィルの騎士物語は、最初の野卑な騎士との一騎打ちから始まり、アリエルとウィンチェスターに行き、そこで屈辱的な騎士叙勲を受ける。
群衆は思わず呻き声を上げた、二人の始めの障害だ。
特に騎士たちは悔しそうな顔をしている、感情移入しているのだろう。
次の場面でウィルが紋章試合に五連勝した時などは自分の事のように喜んでいた。
そして今度はサラが登場する場面になると女性陣から黄色い声が上がる。
ユート人が教会内部で迫害されつつある場面になると、彼女たちは目元にハンカチをあてて涙をぬぐった。
だがウィルがサラを馬の背に乗せてカンタベリーの外まで走った場面では頬を赤く染めてきゃーきゃーと興奮した声を上げる。
最後の三騎士が襲い掛かってきた場面では会場にいた全員が固唾を飲んでロジェの言葉に聞き入っていた。当事者だったウィルたちだけでなく、会場で働いている召使いも含めて全員だ。
無事にウィルが三騎士を退けて、ロジェが演奏を終えると会場に割れんばかりの歓声と万雷の拍手が響き渡った。
晩餐会と言っても急遽開かれた簡易的なモノで、会場にいる人数はおそらく百人にも満たない数だ。しかしその歓声と拍手はまるで千人がしているような大きさと情熱があった。
騎士や貴婦人たちがロジェの演奏をまるで詩を読みあげるように褒め称え、そして物語の主役であったウィルやアリエル、サラに対して声をかけてくる。
それをアリエルとロジェは同じく気の利いた言い回しで応えていく。
サラは普通の修道女(本当は修練士だが)ということになっているのでそうした言い回しを要求されないが、ウィルはそうはいかない。
かつて騎士は戦うことが使命であり、そのこと以外を求められることはなかった。
しかしブリトニアから戦乱が去り、騎士が紋章試合のためだけに戦うようになると、次第に戦わない騎士が現れだした。貴族化して宮廷で活躍する騎士たちだ。
彼らは剣の代わりに楽器を手に取り、美しい歌声と、洗練された仕草で貴婦人たちを喜ばせる。
耳障りの良い言葉で誉めそやし、まるで騎士物語のヒロインになったような気持ちにさせるのだ。やっていることはほとんど高級男娼に近い。
既婚の貴婦人に報われぬ恋をしている騎士のように接し、無垢な令嬢に勇敢な騎士のように振舞う。そうした『宮廷流』の騎士が王都近くでは横行しているのだ。
そのせいで最近では『宮廷流』の言い回しが流行して、騎士にはそうした行動や言動が求められる。
しかしウィルはそんな事は出来ない。
というかそもそも『宮廷流』の騎士を見たことすらないのだ。
だから次々に『宮廷流』でやりとりしてさばいていくロジェを見ると素直に感心した。
ウィンチェスターは紋章試合が盛んな都市だ、そうした場所ではどちらかというと『宮廷流』の騎士は少ない。やはり実際に『戦う』騎士が主流だからだ。
しかしロジェの言い回しや仕草に隙はない。
おそらくどこかで学んで身に着けたモノなのだろう。
『宮廷流』を身に付けたい、とは思わないがそれを身に付けているロジェは凄い、とウィルは感じていた。
ロジェは目的の為には努力を惜しまない。
簡単に諦めたように見えた乗馬も、一人で密かに練習している姿を見た事がある。
負けられない、そういう気持ちがロジェを見ていると湧いてくるのであった。
◇
ロジェの演奏の余韻が終わり、いつの間にか聴衆として紛れていた領主が晩餐会の開会を遅ればせながら宣言して食事が運び込まれた。
集まった騎士や貴婦人たちはロジェの演奏を肴におおいに飲んで食べて、楽しんでいた。
ウィルも食事を楽しみたかったのだが、今回はアリエルと一緒に領主のいるテーブルに着かされているのであまりガツガツ食べるわけにいかずにいる。
「そういえばアリエノール様、いよいよエゼルウルフ陛下が神聖帝国への巡礼の旅に出発されるようですぞ」
「もうですか? 確かに巡礼を行われるというお話は聞いていましたが、随分と早いのですね」
「なんでもエゼルバルド王弟殿下が留守を預かると請け負ったそうですな。エゼルバルド様ならば陛下ご不在でも国を正しく導いてくださるでしょう」
巡礼と行っても国外、しかも海を渡った隣の大陸への巡礼の旅だ。
ちょっと行って戻ってくる、というわけにはいかない。
ましてや赴くのは臣下や司教ではなく、国王本人なのだ。
どれだけ調整をして準備をしても足りないということはないほどだ。
それなのに巡礼の噂を聞いてから実際に出発が決定するまでの時間が異常に短い。
政治のことは良くわからないウィルですら何か不穏な空気を感じていた。
それに熊公爵エゼルバルドの野心的な顔を思い浮かべると、国王不在の王国を代役として無難に乗り切るなどという殊勝な心がけとは到底思えなかった。
「それでこれが大事な事なのですが、陛下のご出発に合わせて出発式をされるのですが、そこで紋章試合も行われるのです」
「それは、立派な試合が行われそうですね」
「もちろんです! そしてその試合の勝者には褒美として大紋章の一部が与えられるそうなのですよ!」
領主が得意げな顔でアリエルに話す。
大紋章を求める一行にとっておきの情報を提供した、と思っているのだろう。
元々王都に向かうつもりだったので到着すれば嫌でも分かる情報だったが、アリエルは領主の面子を潰さないようにニッコリと微笑んだ。
「まぁ、貴重な情報をありがとうございます。さっそくウィルの為に王都に向かってみますわ」
「――っ、ふははは、お役に立てて何よりですぞ。ははははっ」
アリエル必殺の微笑みを真正面から喰らった領主は年甲斐もなく顔を真っ赤にして誤魔化すように笑った。
ウィルにとってはあの笑みは見惚れると後で苦労する悪魔の笑みなのだが、初めてアリエルに会う領主には分からないだろう。
気を良くした領主は、最後に付け足すように爆弾発言をした。
「そういえば、出発式にはエゼルバルド殿下もいらっしゃるので、騎士王ガイ殿も来るらしいですぞ。ひょっとしたらウィリアム殿との試合も実現するかもしれませんな。はははは」
騎士王ガイが来る、その言葉にウィルの心臓がどくんと鼓動した。
ウィルの心は晩餐会から離れて、王都ロンドンまで飛んだ。
ガイと試合が出来るかもしれない。
そう思うとウィルの身体は今まで感じたことがないほどに熱くなるのだった。
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