孤独のヒーロー

孤独のヒーロー・５

　２０２０・６・５　１４：５０

　君の笑顔で、僕は再び立ち上がった。

　今度こそ、うまくやるよ。僕は君を守るんだ。

　下心や、心無い噂で斉藤さんを僕からとりあげた身勝手な大人たち――君には、あんなふうになってほしくない。

　きれいな心のままで、一緒に生きていこう。

　僕がこんなこと言いだしたら、きっと君はびっくりするだろうね。

　でも僕が、一生かけて君を守ると誓ったらどうだろう。きっと感動してくれると思うんだ。

　君と暮らすためにお金が必要だから、母親に相談した。

　きちんと理由を話し、財産の生前分与をしてほしいってお願いした。

　母はやたらと感情的になって、喧嘩になってしまった。

　僕がいつまでも子供だと思ってるんだ。おとなしくて気味の悪い、昔の僕だと思っている。僕は成長してこんなに強くなったのに、わかってない。きつい言葉で責めれば、自分の思い通りになるなんて今も思ってるんだ。

　母は泣きわめく。

「こんなことしたって、まともな生活ができるわけがないでしょ」

「どうしてこんなことになったのか」

「あんたなんか生まなきゃよかった」

「ごめんね。お兄ちゃん、ごめんね」

「幸樹を育てそこなって、迷惑かけて、ごめんね」

「どうしても行きたいなら、あたしを殺してから行きなさい」

「母さんがあんたと死んでやるから」

「死んでやるからああああっ！」

　母がいつまでもわめいて預金通帳から手を離さないから、思い切ってアレで切ってやった。アレっていうのは、以前に斉藤さんを守るために僕がネットで注文した、ドイツの軍用ナイフだ。

　高いだけあって、いい切れ味だったよ。さすがに骨は一度で切れなかったけど。でも腱までは、スパっといったよ。

　僕は酷いよね。

　でも仕方ないんだ。全部、君のためだ。

　僕の生きる意味を作り出すためだ。

　誰にも邪魔されずに、本当の愛を手に入れるためなんだ。

　２０２０・６・５　１５：３２

　そろそろ僕の勇気と行動力、そして覚悟がわかっただろう？

　君なら、僕の気持ちにきっと共感してくれるだろう。

　君のことはもう調べてあるんだよ。

　ママのフェイスブックのあの写真――入学式の写真に写っていた河辺は多摩川支流の小淵川で、背景の桜並木はけやき町一丁目２４番地から５１番地にかけての沿道だ。あの道を歩いて、君は毎日学校へ通っている。運動会の写真に写っていた校舎は、横浜市立すみれが丘小学校だね。

　金曜日の今日は五時間授業で、下校時刻は三時半。でも君は今日、飼育係の当番だから、ひとりで教室に残ってハムスターとメダカに餌をやらなければならない。いつものお友達とは一緒に帰れない。

　どうして知っているかって？　君のランドセルに見慣れないリップクリームが入っていたことはなかった？

　君を連れて、僕らは世間から隠れて暮らす。

　大丈夫、ずっと一緒だ。なにも怖くない。

　君がいてくれたら、僕だってなにも怖くない。

　君を守るためなら、なんだってできるんだ。

　僕は君に出会ったあの日から、ずっとその笑顔を探していたんだ。ネットの海の中で。

　横浜市立すみれが丘小学校一年三組

　立原美空ちゃん。

　今日、君を迎えにいくよ。

２０２０年６月５日　１５時５０分

「みんなの農場グリーンファーム２」にアクセスしていた他プレイヤーからの通報により、付近を警邏中の前田巡査（神奈川県警緑警察署所属）が現場へ急行。

　立原美空（七歳）を保護。

　一時間後、横浜市すみれが丘二丁目路地にあらわれた大月幸樹容疑書を、銃刀法違反により緊急逮捕、留置。現在検察検察にて取り調べ中。

了