孤独のヒーロー・4

 2020.5.27  00:35

 会社をクビになったことが、実家へ知らされた。

 僕が昼間家にいるようになったら、母親はパートを辞めて、僕の行動を見張るようになった。

 なんてことだ。僕はもう斉藤さんを守れない。



 2020・6・2 11:50

 そういえば君に、大事なことを伝え忘れていたみたいだ。

 じつは、僕たちはリアルで会ったことがあるんだ。だから僕は君の写真を見てあんなに心を動かされたんだ。


 会社をクビになった日、僕はふらふらと歩道橋の上に立っていた。下は三車線の国道だ。絶え間なく車が流れている。


 僕は立ち止まり、歩道橋の柵に両手を置く。足の下をトラックが走り抜けていく。

 ここから落ちたら死ねる。


 アスファルトに頭を打って気を失い、そのあと車に轢かれてめちゃくちゃになってしまうだろう。

 一瞬でただの肉塊になれる。失望も、劣等感も何も感じない、平和で生ぬるい血と肉のかたまりだ。


 ふと涙がこみあげてきた。


 どうして僕と斉藤さんは、世の中のカップルみたいに幸せになれなかったんだろう。

 どうしてこんな恥をかいて、劣等感に悩むために生きていかなければならないのだろう。

 どうして、僕は誰かとわかりあえないのだろう。

 僕なんて生まれてこなければよかった。


 柵の上に腕を置いて、顔を伏せた。

 熱い息を吐き、涙とよだれを袖で拭きながら、しゃくりあげた。


「どうしたの?」


 可愛い声がしたのはそのときだ。

 君は数人の友達と一緒にいた。遠巻きに僕を見ている友人のグループから、僕のほうへ君は二歩、三歩と近づいてくる。


「おじさん、泣いてるの? 大丈夫?」


 僕はあわてて顔をぬぐって、顔をあげた。

 その情けない姿を見ても、君は笑わなかった。


「だ、大丈夫です」


 鼻声で答えると、君はぱっと笑顔になった。


「大丈夫だってー」


 くるりと踵をかえして、友達のところへ走っていった。

 君の一瞬の笑顔を、僕は胸に焼き付けた。いや、焼き付いてしまった。


 生きていける。

 そう思った。


 いや、生きなければ。


 僕みたいな人間を気にかけて、優しい声をかけてくれる人もいるのだから。

 世の中には残酷な人も多いけれど、君のような純粋できれいな心の持ち主もいる。

 そういう人が悲しまないように、僕は世間と戦い続けるんだ。

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