2-06『話せばだいたいなんとかなる』

 僕は前方に飛び込んだ。地面を前転しながら攻撃を躱し、その隙に振り向きつつ体勢を整える。

 突然の強襲も、来ると警戒していれば回避できないわけではない。ただ振り向いた場所には人影どころか攻撃の気配さえ残っておらず、僕は目を細めて辺りを窺った。さて。

 音と風の揺らぐ気配から察するに、今し方の攻撃は斬撃に近いものだと予測したのだが。僕の視界に、少なくとも剣やナイフを持った人影なんて見当たらなかった。そもそも斬られる気配はしても、斬ってくる人間の気配がしないことが不可解と言えば不可解ではある……が。

 僕は考えることをやめた。

 この世界で起きる不可解なことなど、その大半がどうせ呪術だ。それだけわかっていればいい。


「……いきなり襲いかかってくるなんてご挨拶ですね。どういう教育を受けてきたんですか、まったく」


 煽るつもりで僕は言ったが、どちらかといえば負け惜しみのように響いたか。

 無論、答えなど返ってこなかった。ただ僕は思う。少なくとも現状、この襲撃者に僕を殺すつもりはないようだ、と。もし本当に殺すつもりなら、最初から不意討ちを仕掛けてきたはずだ。これみよがしな結界や、声音による確認など必要ない。まあ、だからといってそれで安心できるわけでもないのだが。

 おそらく、僕に訊きたいことがあるのだろう。たとえば津凪の所在とか。

 

「参ったな……さすがに予想してなかった」


 一度の失敗で、《王国》が津凪を諦めるとまで楽観していたわけではない。

 だが、いくらなんでもこんなに早いとは。連中にとって、この六路木の土地は完全なる敵地アウェーだ。御厨透という埒外の結界呪術師がいる以上、その潜入にはかなりの労力が必要となる。思えば津凪が訪れたとき、彼女が街にいなかったこと自体が計算されていたのだろう。この街の結界は、そのとき破壊されていた――おそらくは倉崎真絃の手によって。

 ただ彼女の帰還と同時に今日、その結界は修繕されている。だから僕は再び《王国》の連中が来るまでにはそれなりの猶予があると思っていたのだが――どうやらその見込みは甘かったらしい。結界が修繕されるよりも先に、すでに潜り込んでおくという手だって考えておくべきだった。それは早晩、透によって見つかることとなるだろうが、それより先にコトを起こし、終わらせてしまえば問題はない。いや、思い切った真似をするものだ。


 しかし、とするとこの襲撃、ともすれば単独の人間の手によるものかもしれない。

 そうなれば、僕の生還率は割と上昇する。一対一と一対二以上の差は大きい。結界が敷かれている以上、僕の側が応援を期待することはできない――察知できる者があるとすればそれこそ透くらいだ――が、相手もまたひとりならば、この場さえ凌ぎ切ってしまえば問題はなくなる。

 だから僕は声を上げた。


「――いきなり襲われてもワケがわからないんですけど、正直。何か要求があるなら聞きますよ。まあ聞くだけかもしれませんが。これでも僕、結社にはそれなりに顔が利くんです」


 大嘘だが、結社に顔が利く出水さんに顔が利くので、大筋では合っていると言えないこともないだろう。

 現状、僕がやることは、この襲撃者の位置を割り出すこと。僕の実力では、最低でも《黒牙ワンコ》なくしてこの結界を破ることなどできそうにない。ならば襲撃者が結界を敷いた者と同一人物であること、かつ結界の内部にいることを信じて、その居場所を探り出して倒す以外にない。いなかったら割と詰むが、いる可能性は高いだろう。

 魔術ではないのだから。

 呪術で結界を作る、という作業の難易度は非常に高い。いや、作るだけならばともかく、それを遠隔で維持したり外側から内部に干渉するといったことはまずできないのだ。現代呪術は一般人が思う以上にシステマティックで融通が効かない。概念としての《境界》を生み出す以上、その内外は呪術的に完全に区切られてしまう。術者だって例外なく、だ。自分の呪いは自分に効く。本人だけ例外だなんて、そんな都合のいいことはない。

 ……と断言できればいいのだが、生憎と僕はその例外に相当する怪物的な結界呪術師を知っているわけで。前例がひとりでもいる以上、絶対にないと言い切れないのがもどかしいところではあった。

 まあ、そんなわけでまずは説得に移る。


「できれば、こう、顔くらいは見せてくれませんかね? 僕、これでも結構な善人で通ってるんですよ。何か困っていることがあるんなら、相談してくれれば、ちょっとくらいは力になれるかもしれません」

「――――」

「実際、これって破格だと思いません? いや普通は自分を襲ってきた人を、簡単に許して協力しようだなんて言いませんよ? でも僕はほら、これで六路木いい人ランキング殿堂入りくらいのいい奴なんで、いやあ、根が優しいんですよね僕ってば」

「――――」

「だからほら、何かあるならまずはコミュニケーションから始めませんか? 僕も最近、ようやくその重要性に気づいたっていいますか、通ってる高校の友人とか、ほら、家に誘ってみたりなんかもうっわ危なっ!?」


 喋っている途中で斬撃が飛んできた。どうやら交渉に失敗したらしい。

 おかしいな。僕的には非常にナイスな言い回しだと思ったのだが。特に嘘をひとつもついていないところがすごく真摯だと思ったのだが。なぜだろう、説得するどころかむしろ怒らせてしまった気がする。

 しかしまあ、この、仮に《飛んでくる斬撃》とでも言おうか。これはどうやら、回避できないレベルではない。まさか漫画みたいな剣術の達人が、真空斬り的なエトセトラで立ち筋を飛ばしているはずもなく、これは呪術だ。その発動さえ察知できるのなら、まあギリギリ躱せないわけではない。


 しかし、それは言い換えるならジリ貧ということでもあり。

 この段階に至って、僕は作戦を変え、別の手段を採択する必要に駆られた。

 よって方針を変更する。僕は膝立ちになって地面に手をつき、《結界》という世界の異常に自らを埋没させる。


「な――!?」


 無防備な隙を晒した僕の耳に、驚きの声が飛び込んでくる気がした。

 そして同時、全身を強烈な悪寒が駆け抜けていく。まるで自分が自分でなくなるような――自己という確立した輪郭を見失い、その概念が世界へと溶け込んでいってしまうような、そんな不快感。

 だがそんな隙を晒していながら、僕に攻撃は飛んでこない。


「う、ぐ――ぁ」


 強烈な吐き気をなんとか堪える僕。もし胃の中身を逆流させたら、その吐瀉物の中に僕自身が混ぜ込まれてしまいそうな感覚があった。身体が溶けていくみたいな。この土地に、空間に、どろどろに混じっていくような。

 このままいけば本当にそうなるだろう。世界に、呪いに、浮かされ融かされ犯され消える。

 だが、これでいい。僕は誰より慣れている。その点ではおそらく津凪よりも、僕は《呪われる》ということに慣れている。僕は自らを蝕む呪いに身を任せた。そのまま世界を通じて、術者本人と混じり合うみたいに。

 僕は感情を見つけた。

 呪いが――嫌悪が警戒が憎悪が醜悪が嫉妬が悪意が敵意が害意が隔意が殺意が踊り狂う呪詛概念の海の中に、それとは違う感覚を。負の感情の先にある、どこか甘く柔らかで、そして優しい人の感覚を。


「……見つ、けた……っ!」


 あるいは見つけるまでもなかった。

 なぜなら術者は、自らその身を僕の前に晒したのだから。


「な、何、何して……アンタ、馬鹿じゃないの……っ!?」


 長い髪をした女性が、僕の元へと駆け寄ってくる。

 とどめを刺しに来た――わけではない。彼女にそんなことはできない。僕にはそれがわかっていた。

 だってそうだ。彼女は二度も、僕の隙を突いて攻撃したのに。それが僕に、なんてあり得ない。彼女は初めから、僕を狙っていなかった。むしろ。そう考えるべきだ。

 なにせ見えない攻撃だ。そんなものを、本当に自分の実力だけで反射的に回避できると思うほど、僕は自分の身体能力を過信していない。その前提に立ち返ってみれば、そもそもあの攻撃は、たとえ躱していなかったとしても大した傷にはならなかった。死ぬどころか、ちょっと大きめの掠り傷を負うくらいのものだろう。

 それを考えれば、彼女がこんなにも精度のある結界を――立ち入るまで気づくことさえできず、立ち入ったところで壊せないほどの結界を作ったというのに、立ち入った瞬間にということ自体があり得ない。彼女なら、隠そうと思えば隠しきれたはずなのだ。それくらいの実力はあったはずだ。

 それをわざわざ知らせて、声までかけてきたこと自体がもうおかしい。

 にもかかわらず問答無用で攻撃してきたこと自体が、まるでだと僕は思う。


「ど、どうしよう、どうしたら……っ! こ、こんなレベルの解呪、私には――ていうかアンタ、本気で何してんの馬鹿なのっ!?」


 現に彼女は、こうしてほら、まるで僕を心配しているみたいなことを言う。僕にかけられたこの呪いを、外すことを考えている。。まったく甘い人だった。

 だから僕はこう答える。

 なにせ僕はいい奴だから、他人の善意には付け入るのだ。善意を断ったりするほうが、ほら、嫌な奴だと思わないだろうか。


「――わかってる、ことを……訊かないでくださいよ。だいたい、僕を呪ったのは貴女じゃ、ない、ですか……」

「わ、私はただ結界を張っただけで――」

「いやまあ、それはそうなんです、けれどもね……でもまあ結界だって、呪術なんですから、そりゃ、やろうと思えばことだってでき――うあ気持ち悪」

「アンタ頭おかしいんじゃないの!?」


 初対面で襲ってきておきながら、失礼極まりないことを平然と宣う奴だった。いい奴なので僕は許すが。

 まあ、つまるところ、僕がやったのはそれだ。

 結界――なんて表現すればまあ格好いい感じはするけれど、それだって結局は呪術である。そして呪術にできるのはいつだって、だけだ。この場合、結界の呪術とは土地を、その場所という空間そのもののを呪う呪術である。

 逆を言えば、この場所は今、呪われている状態だということで。

 さらに言うなら、土地を通じてことだって、やろうと思えばできるわけだ。


「や、まあ、確かに、普通はそんなことする、意味、ない……ですけど」

「当たり前じゃないの! アンタ、そんな、そんなの自殺とほとんど変わらない……!」


 人間なぞより遥かに巨大な、強大な存在がいねんである土地くうかんを呪うには当然、人間ひとりを呪うよりずっと労力がいる。そんなものを自ら引き受けるなんぞ、やった僕が言うのもなんだが狂人の所業としか言いようがなかった。結界の呪いをわざわざ身体に入れるなんて、やった呪術師は僕くらいじゃないだろうか。やったね世界初、とボケてみようかと思ったが、気持ち悪すぎて余裕がなかった。

 ともあれ、もちろんそんな行為に出た理由はきちんとある。


「自殺、なんて心外なこと言わないでくださいよ……それこそ真代に殺される」

「はあっ!?」

「だって、貴女は上手いこと隠れてましたからね。それを、割り出す……ためには、まあ、呪われるのがてっとり早いじゃないですか」

「そ、そんなことのために自分から呪われたっていうの!?」

「はは……まあ、確、かに。貴女が自分から出てきちゃった以上は、意味なかったかもしれませんが……」


 いや、でも呪われたから彼女も出てきたわけであって。やっぱり意味はあったと断ずることにする。

 呪いとは塞がりであり、呪いとは繋がりである。それは表裏だ。断つには結ばれる必要がある。

 だから呪詛返しカウンターがメジャーな呪術として成立しているわけだ。誰かを呪うということは、誰かを塞ごうとすることであり、塞ごうとすることで繋がりができる。繋がりができるから呪いは還る。

 要はまあ、もし自分が呪われれば、呪った相手の居場所を突き止めることもできるだろうという話。

 彼女が僕を害さないだろうという思惑もあったし、それは呪われて、彼女の感情を受け取ったとき確信へと変わった。なんというか、まあ、呪術師にしてはずいぶんと甘い人間がいたものである。


 くずおれた僕の視界には今、長い茶髪の女性が映っている。

 僕より少し上の、たぶん大学生くらいだろうか。女性にしては高めだが、それでも僕よりは小さな体格で、倒れた身体を抱き留めてくれていた。


「――なんで、そんなこと。アンタ、戦闘呪術師なんでしょ? こんなことしなくても、私を倒そうと思えばほかに作戦なんて、いくらでも」

「いや、別に初めから、貴女を倒すつもりとか……なかったですし」

「だからなんでっ!?」

「言ってあったと思うんですけどね、初めから。何か困ってることがあるなら、協力する……って」

「…………っ!!」

「だって、僕はいい奴ですからね」


 まるで怯えているみたいに。

 泣きそうな声で。震えた声音で。そこに立っている誰かがいるのなら、僕は手を差し伸べずにはいられない。

 そういう風に作られた道具なのだから。

 確かに方針を変えるとは言ったが、それは手段の話。説得を諦めたわけではない。

 言葉で駄目なら態度で示す。そのほうが説得力があるだろうし、そちらのほうが得意だった。それだけのことだ。

 話せばだいたい、なんとかなるものである。


「アンタ――ホント、頭……おかしいんじゃないの?」


 誰だか知らないが口の悪い人だ。その罵倒はもう何回も聞いている。

 でも、それでも僕を殺すことさえできないのだから、そんな強がりも微笑ましいくらいだった。


「いやまあ、僕を呪った責任は取ってもらいますよ……もう、割と、限……界なので」

「でも……私には解呪なんて」

「強度の強い呪いです、からね……いや、いい腕してる。僕にも解呪なんてできませんよ、これ。自力じゃ」

「どうしたらいいわけ?」

「話が早くて助かりますよ……ええ。僕はいい奴ですが、いい奴だからってなんでも許すとは思わないでほしいです、ね」


 重たい身体をなんとか動かして、自分を抱える女性にもたれかかるようにする。

 ほとんど正面から抱き合うみたいな形だ。密着した身体が、その豊満な双丘との接着を感じ取っているが、それに喜べるような状態ではない。

 というか本当に感覚がなくなってきている。意識が世界に引きずられている。

 溶ける。混じる。この世界という概念そのものに。

 肉体ではなく精神が、もう戻ってこられない彼方どこかへと引っ張られていることがわかる。耐えているのはそれこそ気合い、精神論であって、つまり次の瞬間には廃人になってしまってもおかしくない状況。

 手段を選んでいる暇はない。彼女にも犠牲になってもらうことにしよう。


「責任は、取って……もらいますよ」

「……わかってる。私は、何をすればいい?」


 彼女は彼女で覚悟をしているらしい。こうしてできてしまった以上、もう僕を見捨てることはできないのだろう。

 なら、悪いけれど、その優しさにはつけ込ませてもらう。戦闘呪術師ですらない彼女が、まさか《王国》の尖兵コマであるはずもない。本当に単独みたいだし。

 僕は問う。


「その前に……貴女の名前、教えて……もらえますか?」

「――尾前おさきりん

「歳は?」

「十九だけど……」

「スリーサイズ」

「それ答えないと駄目なの!?」

「いや、近くで見ると美人だと思ったもので」

「はあ!?」


 実は名前だけで充分だった。残りはまあ、これから僕がやろうとしていることに対する、ちょっとした配慮のような冗談だ。

 どう答えられても、やることは変わらないのだけれど。僕に死ぬつもりはない。

 だから、ああ、犠牲になってもらうとしよう。どんな手を使ってでも、僕はこの呪いを解かなければならないのだから。突然の襲撃を手打ちにするのだ、このくらいのは、貰っておいても罰は当たるまい。

 僕は。


「その歳ならファーストキスくらい済ませてますよね」

「な、な――んむっ!?」


 断りなく彼女の唇を奪い、塞ぐ。化粧さえ施されていない赤だったけれど、感触はこれで悪くない。女性らしい柔らかさを僕は感じる。

 申し訳ないとも思うのだが、文句を言わせるつもりはない。このままでは本気で洒落にならない。

 そのまま強引に舌を絡めていった。塞ぐことで繋ぐ。名前を聞いたのも、肌を接触させるのも、その体液を混じらせ合うのも――全て呪術のためである。


「んっ――んぅ、ぁ……」


 彼女――臨さんは、驚きに言葉を失っていた。それでも舐るように、強引に唇を押し開いていく僕の舌が、彼女のそれと繋がっていく。

 とはいえ僕も、別に楽しんでいるわけではない。これはセクハラではない、医療行為だ。断言。だから断りなくやっても許される。たぶん。

 臨さんは目を真ん丸に見開いて、もうなんというか、されるがまま。こんなことをされるとは、まったく予想していなかったとばかりの表情である。彼女も呪術師であるのなら、これくらいは予想できていてもおかしくなかった――というか、てっきりわかっているものだと思っていたのだが。


 ――呪術の三大原則。そのひとつ。

 感染の原則ふれればそまる


 キスという接触行為を通じて、僕の呪いを彼女に移したのだ。分け合い、与え合う。そういう行為だからこそ、正体もわからない呪いを薄めて分かち合うことができる。

 元が自分の術なのだから、臨さんが受ける影響はかなり小さくて済むだろう。土地を呪う呪詛である以上、規模さえ薄めてしまえば解呪はぐっと楽になるはずだ。人間を狙ってのものではないのだから。


「――ぁ、ぅ……んっ」


 やがて僕は口を離した。その頃にはずいぶんと身体も楽になっている。まあ死ぬことはないだろう。

 彼女はそれでもしばらくぽかんとしたままだったが、やがて瞳を潤ませると口元を拭った。


「……おかされた」

「医療行為ですよ失礼な」

「されるがわがいうことじゃない」

「いや、まあ……そうですけど。なんでもするって言ったじゃないですか」

「いってない」

「そうでしたっけ」

「……なんでそんなへいぜんとしてるのかわかんない」


 臨さんは片言になっていた。


「なんでと訊かれましても……別に初めてってわけでもないですし。そんな気にするようなことじゃ」

「はじめてだったのに」

「え」

「けがされた」

「あの」

「きずものにされた」

「ちょっと」

「およめにいけない」

「医療行為なのでノーカン的なアレで」

「……うるさい」


 顔を真っ赤にして目を背ける年上の女性は、まあ、可愛らしいと思えるのだが。

 そんなことを言えるはずもなし。というかもしこの現場を津凪や真代、出水さん辺りに見られたらと思うとぞっとする。

 まだ少し重たい身体を、それでもなんとか起こして僕は言う。


「で、貴女。いったいどこの誰なんですか。《王国》の関係者じゃないですよね、この分だと」

「…………」


 彼女は答えない。

 僕は頭を掻き、それからへたり込んだ臨さんに、今度はこちらから手を差し伸べて告げる。

 こうなった以上は仕方ない。最低限の責任は取らなければ。

 まったく、次から次へとどうしてこう、厄介ごとばかり舞い込んでくるのか。


「――とりあえず移動しましょう。結界の呪いが弛んでるんで、そろそろ人が来かねません。見つかると、まあ、割と面倒なことになりますよ。いろんな意味で」


 差し伸べた片手に、僕とは違う肌の感触が、確かに触れるのを感じていた。

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