夢
昔ひとと暮らしたことがある
自分の存在を目隠しして
暖かな羊水に包まれ
母とつながって
やがて狭い産道を抜けて海から陸にあがる最初の生き物のように泣き叫び産声をあげた
ひとの身体でひとの心で
狭い檻から見た世界は窮屈だけど
柔らかなお母さんの胸に頬を埋め
優しく撫でられる安らぎ
名前を呼ばれて誉められたり叱られたり
どこまでゆけるのか小さな脚で走り
どこまでつかめるのか小さな掌でつかみ
たくさん笑って泣いて
怒って悩んで
時間はキラキラと
時にはどんよりと
それでも毎日太陽は登り
星と月はくるくると姿を変えて
成長し働いて家族を作って
ひとの一生をおわらせた
ひとの身体を抜けた時
まるではじめて呼吸するように世界とまたつながって
ちょっとだけ休んでいたら
時間はあっというまに過ぎていて
かつて人だった時に住んでいた場所は建物が建ち並んで
湧水があった山は住宅地になっていて
住んでいた家はみつからなくて
家族のあった証もみつからなくて
あわてて街中を探したけど
どこにもぼくの家族を覚えている人はいなかった
さみしい
かなしい
お母さんにまた会いたい
一緒に過ごした大切な家族にまた会いたい
胸が苦しくて
忘れられない事はとても悲しいことだと理解した
空は変わらない
木々の色も
咲く花たちも
だけど同じ存在はどこにもない
ぼくの家族だった魂はぼくを忘れて
世界を循環しあちこちに分散して
今日もまたどこかで誰かと生きている
ぼくのことを思い出してほしいけれど
この悲しさを味わわないように
風に太陽に緑に雨に
ぼくの想いをのせて届けるよ
あなたが笑ってくれたらいいな
あの日と同じ笑顔で
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