#003 正確に言うと注がれたのはお湯
それで何か大きく世界のありようが変わるのかと思っていたけれど、実際のところそんなことはなく、いつものように蝉はすだき始めるし、それに妙な感慨を抱いたりもしない。そんなことより何より、この
私はほのかに眠気の残った指で紙コップを差し出した。コップに
「真滉さんって、うちの店で働く前は何をしてたんですか、」「
「篤芽ちゃんの小説、読ませてよ。」真滉さんは気安い調子で言ってくる。これは私が真滉さんに近づけた証だと、そう解釈してもいいのだろうか。「嫌ですよ。恥ずかしいじゃないですか。」他人ならともかく。「篤芽ちゃんって、普段は大人びてすごく落ち着いてるのに、
ちゃぶ台を挟んでコーヒーを飲みながら、お互いがなんとなく視線をさまよわせたのは、昨夜のことを思い返したからだろう。「かなり凄惨なことになってたよね。今さらだけど、俺でよかったの?」口実としてのゲームはとても楽しんだ(トリプルスコアで圧勝した)けれど、結局それは
真滉さんはひどく驚いたふうで、口をぱくぱくさせて「まじで。」と言った。「コーヒーぶっかけていいですか。」私をいったい何だと思っているのだろう。「付き合い始めたばかりの彼氏を
「しかし、まいったな。」と言って、真滉さんは残りのコーヒーを
真滉さんは頭を軽く掻きながら、「俺、篤芽ちゃんと同じで、
真滉さんは穏やかな調子で、「俺が今の店で働く前にしていた仕事は、分類で言えば自由業、誤解を恐れずありていに言うなら、作家。」と、言った。文章を書くことを
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デザインを優先して買った寝室のカーテンは、
真滉は眠りに就く
こうして跳ね起きると、真滉は例外なく自分の体がぐっしょりと濡れていることに気づく。それは、
真滉には分かっている。寝具を変えても、薬を増やしても、何ら事態は好くならないだろう事を。そして、真滉は気付いている。書くことを止めさえすれば、この苦しみから逃れられるのだと。
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