第4話 昨日の敵は今日も敵

落ち着かない毎日が続く。

クラスで変な委員を押しつけられ今日はもう夜の九時。

本屋へ向かうタカシとは反対の道を歩く。

「鬼畜米英」

日本語らしいがよくわからないので無視することにした。


今日も何事もなく家に着く。

ここまでは良し。ここからが分岐点。

自分の部屋に入り、隅々まで見る。

ベットの下、クローゼット、カーテンの陰。

チェックも終わり、ベットに座る。

「だれだ」

突然、目の前が真っ暗になる。

人間はあんまり驚くと声が出ないらしい。

「この反応はつまらない。驚きと恐怖が混じった普通の感じだな」

視界が開けた。

いつもの部屋。だがそうではない。

振り向くと“ゆ々”。


「今日は何しよう」

なんでもいい。無事に時間が過ぎれば。

しかし、天使が昼寝で悪魔が退屈しているらしい。

「その前に首筋を見てくれないか」

後を向いて髪をかきあげ首を傾げる。

小さな耳と白い美しいうなじが現れる。

息苦しくなると同時に頭がぼやける。

「どうだ、何もないか」

ない。いやある、けどない。頭が混乱する。目が離せない。

「どっちだ。あるのか」

ようやく首が左右に振れた。

「そっか。」

幕、ではなくて髪が下りてうなじが隠れる。

同時に次の演目、ではなく誘惑が始まる。

わずか30センチの距離で美しい人形が僕を見つめる。

自分は前世でどんな善行をつんだのか、そう思ったのは一瞬。

「一日の仕事は一人が限度だな」

今の言葉で、大罪をおかした前世の自分を呪った。


僕は正直エロい、なのでネットでいけない画像や動画もみる。

僕は彼女がいない、なので部屋に動く美しい人形にどんな妄想を抱くのかというと。

まずはゼロ距離での交流を目指す。

このまま少し体を傾ければ触れることができる。

そう、少しだけ。

「別のこと考えているだろ」

体が固まった。

「そんなに大事なことか」

言葉に刺があるのは仕方がない。

「命に関わるぞ」

棘ではなく杭だった。心臓が痛い。

「それでは考えておけよ」

当然、何を、とは答えず必死で記憶を探る。


・・・・・・・・・・


あ、ひ弱な僕を鍛える話だ。

“ゆ々”が体得している技術を僕に教える話になったっけ。

「技のうち、簡単なものを教える」

いやホント、そのうち秘技とか超必殺ワザとか奥義とか言い出すんじゃないか。

「基本のみでも十分だろうけど、秘伝も教えるから」

拝啓、お母さん。僕は生まれて初めて笑顔の虎というものを知りました。


「それじゃ、また」

今日も僕の部屋のドアを開けて出ていく。

しかし廊下を歩く音も、階段を降りる音もしない。

恐る々々扉をあけて、見回して、誰もいない。


部屋のドアがいつの間にかドコデモドアになっていたらしい。

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人形と踊るのは月夜がいい。 @XYZ

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