第3話 名前は聞かなくてもよかった
どうしても夜道を歩く気にはなれず、ゲーセンに誘うタカシを見捨て茜色の道を急ぎ歩く。
「俺の誘いを断るのか。人の子の分際で」
相変わらず意味不明だ。
今日は無事に帰れた。当たり前の毎日だ。
もちろん戸締まりは厳重にする。
ペットボトルと激辛スナックも準備した。
災害でも起きない限り、部屋の中で過ごせばいい。
ではいざヒキコモリ。
どうも家の猫が死んで以来、良くない事が続く。
おばあちゃんが言っていた守り神というのは本当だったようだ。
ごめんなさい、おばあちゃん。
「外で食べ物は口にしないのでおかまいなく」
この人形は食べる機能があるらしい。
高機能だ。
ついでに空気を読む機能をつけるべきだ。
「あと隠し場所はもう少し考えた方がいいな」
2秒の空白と気づいた瞬間の恥ずかしさ。
そして火事場の力か。
人形の手にあるものを奪い取っている自分に気づく。
「素晴らしい」
なぜか褒められた。
沈黙、で気まずいのは僕だけだ。
人形は一方的に宣言して、そのままベットに腰掛けた。
「名前は、そうだな・・・”ゆ々”と読んでくれ」
つまり本名では無いということか。
自称”ゆ々”は何をしにきたか。
遊びに来た。そうだ、そう思おう。
もう一つの推測は考えるだけで胃が痛い。
「いま仕事の帰り」
最悪から2番目の回答だ。
胃痛が激しくなる。
できればベットに倒れたい。
愛しのベットは“ゆ々”が独占している。
「今日はどうだった」
学校に行って、授業を受けて、友人としゃべって帰ってきた。
そう説明すると、いちいちうなずく。
質問したいことが頭に浮かぶが、そんな勇気はない。
「ゲームしよう」
いつの間にか友人になったらしい。
「これやろう」
パズル対戦ゲームだ。正直、得意だがここは接待モードが吉。
自分の守護霊がアドバイスをくれた、気がした。
ゲームは単純で、落下するおでんの具を規則正しく並べていくゲームだ。
串刺しのパターンによって点数が変わる。
対戦は相手の汁をあふれさせれば勝ちだ。
一戦目 “ゆ々” 操作がわからず自爆
二戦目 “ゆ々” テンポについていけず自爆
三戦目 “ゆ々” 連鎖を狙いすぎて自爆
恐る々々見ると無表情。
そして第四戦。ワザと負けるのが吉なのか。それとも。
ゲームどころではない。画面も首筋も汁が溢れそうになる。
「これで勝ちだ」
気がつくと連鎖を成功させた“ゆ々”が高らかに宣言している。
画面では、汁が溢れ鍋がひっくり返る演出がされている。
「おもしろかった」
生きてるって素晴らしい。
「そろそろ帰るぞ」
本当に遊びにきたのか。
油断させて帰り際の一瞬でとか。
神様にすがる心境が判る。
自分の命運が相手に握られることは痛みすら感じる。
そんな心を読んだのか“ゆ々”が一言。
「まだ、大丈夫だ」
ま、まだと言った。笑顔で。
そして、だめ押しがきた。
「また来る」
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