第28話

俺はある時、凄く後悔したことがあったんや。

え?そんな急かすなや。ちょっと、ちょっと、うるさいぞお前。この話するぐらいの時間は十分に残ってるから安心しろ。

体感でいうとかれこれ300年くらい昔の話やけど、俺は普通のサラリーマンやったんや。特段凄い訳でもない中小企業のな。

で、ある日同期の奴ら二人と俺合わせて三人で飲みに行こうって話になって飲みに行くことになったんや。

その同期の一人がこう言いだしたんや。

「お前、デブいから結構大食いやろ?なら、俺と大食い勝負、フードファイトしようや」ってな。

もちろん、即オッケーを出した。俺はそいつ余裕で勝つ自信があったしな。大体、そいつは身体も細いし、そんないっぱい食べるキャラでもなかったからな。

ほんまは余裕で勝つはずやったんや。

でも、正直全く歯が立たんかった。そいつが驚くほど、食べるんや。

多分、お前以上やぞ。え?失礼なって?まあ、お前も大概やけどな。

とにかく、ビックリするほど、食べるんやな。もう流石の俺もお手上げやったわ。

そんで飲み会終わった後は只々、失望でな。自分自身に失望したわ。己のアイデンティティーってやつを完全に奪われたし、この先どうしていいかわからんかった。

おい、笑うなよ。俺にとってはいっぱい食べれることは最も大切なものやったんやぞ。まあ、今となってはそのくだらんプライドのせいでこんなことになってしまったんやけどな。

そして、俺は同期の奴らと別れて、とぼとぼと家に向かって歩いていたんや。

俺の家は田舎の方やったから、暗くて人通りも少なかったんやけど、珍しくチャリに乗ったおっさんが俺に近づいてきたんや。

「君、後悔していることあるだろ?」とそのおっさんが急に話かけてきたから、ビックリしていると、そのおっさんは続けてこう言ったんや。

「君、過去を変えてみないか?」

俺はもちろん意味が分からんかったし、信じられへんかった。そのおっさん曰く、どうやらタイムトラベルできるらしいねんな。

だから、お前は「ちょっと、ちょっと」ってうるさいねん。

そう、そう、お前の言う通り、俺は元々後悔していた側の人間や。お前らと同じようにな。

そのおっさんは鈴木っていう名前なんやけど、俺はその鈴木のおかげでこうなったんや。

そうやな。それだけやったら、まだなんで俺が鈴木みたいなことしてるかの答えにはなってないな。

俺は同期にフードファイトを負けたことを後悔していた。だから、半信半疑やったがタイムトラベルすることにしたんや。

ただ、これが間違いの始まりとはその時は気づけんかったんやけどな。

そして、鈴木と俺はタイムトラベルした。その日の朝にな。

その日、俺は昼飯を食べ過ぎてたから、昼飯を抜いて、おやつのカップラーメンもなしで万全の状態でフードファイトに参加することを計画してたんや。

おい、誰が食べ過ぎやねん。

で、無事フードファイトは勝利できた。まあ、結構苦戦したけどな。

最後に鈴木がこう言ってきたんや。

「君、タイムトラベル完了の証にここの紙にサインをしてくれないか?そして、この自転車に座ってくれ」とな。

俺は紙の内容をろくに目も通さずに名前を書き、鈴木のチャリのサドルに腰を下ろしんたんや。

すると、急に鈴木が笑顔になり、

「君の時間は頂いた」

って言いよったんや。

俺は最初全く意味がわからんかった。そして、鈴木は突然タクシーを拾い、それに乗った。

「では、僕の代わりに今後頑張ってくれたまえ」と鈴木は言ってタクシーを走らせてどこかに行ってしまったんや。

だから、お前はちょっと、ちょっとうるさいな。少しは落ち着け。

そう、俺は鈴木に時間を奪われたんや。鈴木が俺に書かせた紙はこのチャリの所有権に関する書類やったんや。

この紙に名前を書いてチャリに乗ってまうと、チャリの運転手になってしまうことになってたみたいや。

だから、俺は時間を奪われてしまったからこうやってお前とか後悔している人間の時間に相乗りすることで時を過ごすことができる。

え?お前との契約が終わったあとか?

そうやな。また、後悔している人間を見つけてタイムトラベルをする。基本的にその繰り返しやな。

ただ、俺はいつか色んなやつの時間に相乗りしながら、鈴木を見つけ出して自分の時間を取り返そうと考えているんや。

だから、他人の人生をより良くしたいとかそんなんじゃなくて、俺は俺のためにお前はらの時間に相乗りして鈴木を探そうとしているんや。

え?協力?

ええよ。大体お前の時間に鈴木はおらんかったみたいやしな。

おい、そんな落ち込むなや。また、次の契約者探すだけやしな。

まあ、ありがとうな。今回の相乗りはなかなか長かったけどな。

じゃあな。

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過去かえれんぞ @Salt625

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