第3話
ヒーローは一族が作り出した怪人に対抗するように、いつのまにか現れたと聞いている。ヒーロー達の年齢は様々だ。組織が調べている範囲だと、上は五十代から下は十代まで。人数も私たち組織に対抗するように多い。噂ではヒーロー達の背後に、複数の組織がついているらしい。
小沢の一族が人体実験を繰り返し行ってきたのとは対照的に、ヒーローは科学の分野で研究を重ねてきた。その結果、普通の人間が特殊なスーツを身につけることで、怪人と戦うことができるようになった。
そのヒーロー達の中で、リーダー的役割を持っているのが、朝倉英司という男だ。朝倉は幼少のころより、武術を習っているらしく、戦闘技術に優れている。またリーダー格にふさわしく、前向きで活発な性格だ。実はこの男、私と同じ大学に通っている。幼馴染の真理と一緒に学ぶため同じ大学を志願したらしい。らしいといっても、真理が教えてくれたことだから間違いないだろう。
私と真理は仲のいい友人の関係を保っている。仲良くなるきっかけとなったのは、彼女が構内で困っているところを助けたことだった。その構内で困っていた原因は、こっちが仕掛けたものだが、何も問題はない。
真理は可愛い。普通の家庭に育って、幼馴染の正義感の強い男に守られて、純粋に育ってきた。人を疑うことを知らない性格で、交友関係も広い。私が言うのもおかしいが、本当にいい子だ。
その日の授業が終わったので、私は真理を誘って、大学近くのカフェでお茶をした。
「スズナさんてもう内定が決まったんですね。就職活動を始めたばかりなのに凄いですね」
真理はホットコーヒーに手を添えた。薬指に小沢からもらった指輪をつけていた。
「え? 決まってないよ」
「そうなんですか? 小沢さんの会社で採用が決まったと聞いたんですけど」
真理は私の一つ下だ。そのせいか、仲良くなっても丁寧に話をする。
「小沢さんの会社は受けているけど、筆記試験を通過しただけ。採用が決定するには、まだ面接が何回か残っていたはず。そんな噂話、誰から聞いたの?」
「小沢さんからですけど。スズナさんの人柄はよく知っているから大丈夫だって」
そう言うと、真理の顔色が青白くなった。
私は真理からの提案で小沢の経営する会社の採用試験を受けている。私が希望していた事務職を募集していたからだ。小沢の会社に入るつもりはなかったが、理由もなく真理の提案を断るわけにもいかなかった。
筆記試験を受けただけ。しかも、その時の担当は何も知らない人事の人間だったから、評価に影響しないと思っていたのに。裏であいつが手を引いてるとは思わなかった。
「あれ、これってスズナさんにはまだ秘密のことだったのかな。どうしよう。私、スズナさんに話しちゃった」
「えーと、聞かなかったことにする。採用されるなら、ちゃんと最後まで面接を受けてからにして欲しいし。私は真理に紹介されて、小沢さんと何度か会ったことあるけど、それだけで判断されたくない、かな」
絶対採用されたくないから、今度は思いっきり手を抜いてやろう。
「ごめんなさい。スズナさんが事情があって就職活動が遅かったの知っているから、つい嬉しくなっちゃって」
「別にいいって」
「でも」
「それに、小沢さんみたいな人が、そういうコネで採用するとは思えないから、きっと冗談だよ」
「……そうなんでしょうか」
冗談を言う小沢が想像できないのだろうか。真理は首をかしげた。
私も想像できないから、誤魔化すために笑った。
「きっとそうだって。だから気にしないで。まあ、四年のこの時期になるまで動かなかったのは私が悪いんだからさ。いざとなったら、フリーターでやっていくよ」
真理には話していないが、私が希望するのは、家から近くて、残業なくて、休みがカレンダー通りの職場。そんないいところは見つかりそうにないから、たぶんフリーターになるだろう。
「あの、スズナさんは小沢さんを紹介されて迷惑だと思ってたりしますか?」
「何で?」
「だって、小沢さんと会っている時のスズナさんって、いつもと違う様子に見えるんです。気のせいかもしれないけど、なんとなく表情が硬いように見えて」
よく見てるな、この子。
「そりゃあ、そうだよ。小沢さんって有名人でしょう。私と小沢さんじゃ、住む世界が違うもん。真理の恋人だから、会うことが出来たけど、そうじゃなかったら縁のない人だよ。緊張もするよ。だけどさ、別に迷惑だって思ってるんじゃないから、勘違いしないで」
「……本当ですか?」
「本当だよ。真理だって、人と話すと緊張するでしょう。嫌だ、って気持ちじゃなくて、失敗したくない、嫌われたくない、って気持ちになることはない?」
「あります」
「私は真理の友達として、小沢さんの前で失敗したくないの。だって私が失敗して、真理が変な目で困るでしょう」
「小沢さんはそんな風に考えないと思いますよ」
即答だった。
「それは付き合ってる真理だから、そう思えるんだって。いいねえ、幸せそうで。二人の仲に当てられないように気をつけなきゃ」
私はにやにや笑った。
「スズナさん!」
「まあ、そういうわけだから、機会があったらまた誘ってよ」
「もう」
真理がむくれた。
訳あって悪役やってます 灯 @akari
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。訳あって悪役やってますの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます