3. 一つの終わりの結末
13
夏休み前の期末テストの返却があり、赤点や補講に該当しないことを確認しつつ、何点だったー? と訪ねてくる夕をいなしながら、妙に非日常なことが起きるわけでもなく、夏休みのことを考えていた。未だに危険人物が近くの町を徘徊しているから、なるべく不要な時に遊びにでないように、ということを毎日のように先生が告げている。もう既に耳にタコというものであり、ほとんど誰もが返事だけよく、実質何して遊ぶか考えているのがほとんどだろう。
「ふぅ、これで帰宅部の真髄である、引きこもりができるぜ」
「それ、単に外に出たくないだけだろ」
「え、休みの日って、家から出ずゆっくり休む日やん?」
「大抵のやつはどっか遊びに行くと思う」
「よそはよそ、うちはうち!」
おう、そうだなと適度に相槌をしながら、帰り支度をする。
「じゃあ、今日は先帰るわ!」
「おう、またな」
そのまま帰る夕を見送りながら、思い出したことがあり、そばの机につっぷしていたクラスメートに声をかける。
「タク、お前この前校庭独り占めしてたけど、点数大丈夫だったのか?」
「黒沢か、校庭独り占めできても、一緒に遊んでくれるヤツいなかったから、一人で素振りしてたら飽きたわ。だから結局家に帰って、開きっぱなしだった親の雑誌見つけたんだよ」
「おう、それで?」
「何か、暗記術っていうから、試しにやったら思ったより効果あった」
「お前単に、今まで勉強面倒くさがってただけだろ」
「あ、バレた?」
「厄い、厄いわ、黒沢君と藤井君、二人とも厄いわ」
「何だよ、蓮ちゃん、お得意の占いか」
「占いじゃなくて、占術!」
「いや、一緒じゃないか、なぁ、黒沢」
「ノーコメントで」
占いがよく当たると女子に評判の彼女に言われると、最近の出来事的にはあまり心穏やかになれなかったりしながらも、ふと、鈴木さんの言っていたことを思いだす。『武中さんは普段はおとなしいのだけど、かなり悪い結果とか出ると、ちょっと声を荒げるのよね』だったか。脳内の鈴木さん、彼女は声を荒げるというよりも、道端の犬の不始末を見るようなそういう目をしてこちらを見てるんだけど、話と違うな。
「二人とも、何か凄い災難に襲われるそうよ。その時はしっかりと向き合うこと。逃げても悪化するだけ。ついでにいうと、それによって何か劇的に変わる、らしいわ」
「え、何それ
「
「武中さんの占いってよく当たるんだっけか」
「占術! 恋愛占いでよく当たるって言われてるだけよ。当たるも八卦当たらぬも八卦。恋愛なんてものはお約束があるんだから、必ずどっかしら、あたる結果になって当然じゃない」
「お、おう。そうだな」
「悪い結果が出たら、あえて本人に言って、当たらないもんよってやりたいんだけど、なかなかね」
「蓮ちゃん、それ逆効果じゃないか? 悪いこと起きるって言っても先言われたら何でもそれに結びつけちゃうんだぜ? 例えば、これから先生がやってきて、俺がちゃんと勉強してれば、できるじゃないか、普段サボってるなって怒られたとしよう」
「やけに具体的だな、タク」
「すると、俺は思うんだ。あれ、逃げちゃだめかなって」
「おう、そうだな。ちなみに先生はあそこでニッコリとして話を聞いてるぞ」
「あっ」
「藤井、ちょっと話しようじゃないか、用件は分かるだろう?」
ドナドナと内心思いながら、うなだれて大人しく我らが担任のところへと向かっていく、タクの小さく見える背中を見送った。武中さんと、聞き耳立ててた女子は、笑いを噛み殺そうとしてるのか、ニヤけていて、なかなかあれな表情になっている。
「そうだ、黒沢君」
「なんだ?」
「部長がこの前貴方について聞いてきたけど、何かした?」
「まずどの部長かをだな」
「そうだったわね。オカルト部の部長兼超サバイバル研究部の部長の鳴神部長よ」
「お、おう」
「私としても、貴方の最近の運勢の最悪っぷりが占術で出たから気になるけど、最近妙なこと起きてない?」
「と、特に無いかな。しかし、オカルト部だったのか、武中さん」
「オカルト部とは名ばかりの、女子の占い講座がほとんどだけどね」
「ま、まぁ、今学期もそろそろ終わるし、武中さんは何するんだ、夏休み」
露骨に、話そらすの下手くそねぇって顔をされつつも、気遣いの人なのか、話にのってくれて、しばらく世間話してるうちに、一つ忘れていたことがあった。
そうだ、部長と会う約束してた、と。
**
「——それで、そろそろ日が暮れる時間になったわけだ、それはいいのだが、少し話をしながら歩こうか、目的地は少しばかり遠い」
「それで、何か用ですか? あと目的地ってどこですか」
部長に謝りつつも、夕焼けの学園の裏道を通りながら、どこかへと向かうようだ。
「少しばかり話が長くなるから、それは順番に話していこう。まず、この前の連絡網で隣町云々で自宅謹慎という話を覚えているかね?」
「耳にタコができるほど、毎日先生が言ってますが、それ分かっててどこに出かけるんですか?」
「まぁ、結論を急ぐには少しばかり前振りが足りない」
「じゃあ結論早くお願いします」
「遠慮がないね。黒沢暁君、君はオカルト部的にやばそうな場所に向かっただろう。何答えなくてもいい、これは推論に推論を重ねただけだ。あの塩が茶色くなるのは、たったの数日間でなるはずもない。大事なことはたったひとつだ。その結果として、君がどうしたいかだ」
「何を、ですか」
「君は君自身の目をどうにかしたい、といってたじゃないか。黒いモヤが見えて悪いことが起きると」
「最近は黒以外もよく見るようになりましたけどね」
「ほう。仮にそれを霊視能力としておこう。おかしくはないかい?」
「おかしい?」
「ある種の異能であることは認めよう。だが、君は直接的にそのモヤの本体というか、仮定幽霊として、見えるのかい?」
「見える時もありますけど」
「常によく見えるのは、危険な黒いモヤのみ。それでは私としては、霊視能力はオマケで、何らかのもを視える力だとは思う」
「それで?」
「君はもう少し話甲斐があると楽なんだがね。これから向かうのは、とある教会だ」
「わざわざ何で教会に?」
「いわくつきのものがあるらしいんだ」
「単に部長がそれ見たいだけじゃないですよね」
「もちろんそれもある」
「そこは認めるんですね。でもそうなると、最初に危険人物の話をふったのって何ですか」
「嘘をつくことはあまりしたくないからね。それで、その件についてだが、一切痕跡が見つからず、行方不明なのだそうだ」
「うまいこと隠れてるとか、見つからないだけっていう話じゃないんですか、それ」
「その可能性もあるが、日本の警察は無能じゃないのだよ。噂によると、目の前にいたはずなのに、急に消えたとか、ね」
「何ですか、それ」
「まぁ、そもそも何でそういう話かっていうとだ——」
そう何か言いかけたところで、部長は教会についたから、まずは入ろうという。何でも人のあまり来ない教会だそうで、中に入ると女性の彫像があった。
「聖母マリアの像だね。知ってるかい?」
「神様の母親でしたっけ」
「まぁ、だいたいはそういう理解でいい。面白い話をしよう。聖母マリアを崇めるというのは、地母神信仰の名残だと言われているんだ」
「地母神、ですか」
「簡単に言えば、大地は母であるって考えから生まれた女神様だね。農作物の豊穣とかそういうことを司るそうだ。それで、黒沢暁君、何か視えるかい?」
そう言われてから、周囲を見渡すと視えるものを探す。教会に来る人達のためであろうベンチや、女神像、多少埃がある床。
「特に目立って何も見えませんね」
「そうか、何もないことが見えたか」
「どう違うんですか?」
「無いことが分かるだけでも、それは一種の情報になるんだ。あるはずものがない、というのはどうしても違和感を生むからね」
「それはつまり——」
「噂が事実だったっていうだけさ」
「噂?」
そういう部長は、教会の奥の方にある扉へと向かう。
「何でも、例の危険人物とやらは、この教会に押し入ったらしくてね。それで荒らされたものがあるらしいが、失くなったものは公には無いらしい」
「荒らされたって」
「だから、単純に金目の物がなくて荒らしただけなのだろうと、結論づけられて、この教会には人もあまり出入りしないということで捜査線上から外したってさ」
「何でそんなこと知ってるんですか?」
「噂好きのシスターさんに聞いただけだよ」
そう言って、部長が扉を開けて中を覗こうとすると、一気に天井の方から俺たちに向かっていくつもの黒い線が降り注ぐ。
「部長!」
「どうしたんだい?」
——次の瞬間、女神像の真上にあった、ステンドグラスが割れて、俺達に降り注ぐ。そして、突き破ってきた、ドスを構えた黒いモヤが、こちらへと殺意を向けていた。
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