02

 超サバイバル研究部。

 曰く、日々防災訓練に励み、効率よく避難を行えるルートや、ハザードマップを作っているらしい。

 曰く、もしゾンビに襲われた時に対処する108の方法を研究しているらしい。

 曰く、もし学校にテロリストが襲って来た時に、どのようにすれば生存できるか、相応しい態度を研究しているらしい。

 曰く、突如世界中の人が超能力に目覚めた時に、混乱しないように精神修養するらしい。

 曰く、——えぇい、キリがない。

 夕に教えてもらった、超サバイバル研究部というものは、噂だけでは、かなり様々なことをやっているらしい。しかしながら、先生方からの受けはそれなりによく、特に最初の防災訓練やそれに類する訓練に積極的に参加したり、企画してくれるから助かる、といったような評価らしい。

 今の超サバイバル研究部になる前身は、普通のボランティア活動する部だったようだが、今代の部長によって、従来の活動に加えて色々行っているようだ。

 よく考えれば校内で放課後に、清掃を進んで行っていたうちの生徒は、そういった腕章をつけていたが、その時はてっきりアニメやらラノベのみすぎかと思ってはいた。とはいえ、俺のような帰宅部にとっては、わりかしどうでもよかったのでスルーはしていたという。

 それはともかく、その噂の超サバイバル研究会は、どうやら生徒の相談にものるそうで、部長はオカルト部の副部長でもあるらしい。——とてつもなく不安だ。

 あいつが見てきたほうがきっといいだろう、ということで、せっかくなので、朝一から訪ねてみることにした。なんでも夕方であると、活動でいないことが多いらしく、行くなら部長だけがいるこの日の朝がちょうどいい相談デーになるだろうといっていた。元から早起きは得意な方だから、それならいいかと、顔をだすことにしたのだ。したのだ、が——



「どうした、くろちーさんくん、友人からは相談があるから聞いて欲しいと聞いているぞ」

「くろちーさんくんじゃないっす、黒沢です。黒沢暁です」

「苗字が2つ重なってるみたいな名前だね」


 いきなり、神経を逆撫でしてくる、この部長には、どう対応するべきか。夕とある種似たようなノリを感じる為に、すわ同類かと思いながら、同類じゃないなら紹介しないか、と納得をしつつも、話の続きを聞いていく。


「黒沢暁くん、キミの名前は実に黒と黄昏で暗い感じの雰囲気を受けるけど、その割には結構身長が高いよね、小さいこちらとしては羨ましいもので、少しぐらいは分けて欲しいものだ」

「あの」

「自己紹介は既に済ませただろう? あ、そうだ、今キミの考えていることを当ててあげよう。相談に来たということを既に友人に伝えられていることにまずは驚き、その次にいつなったら本題になるかと苛ついている。なので私は本題に入ろうと思ってはいるが、その前に人柄を確認したくてこんな長話をしているが、そういうことしても問題ないってキミの友人から聞いているからね。むしろそれで本人確認しろって言われてるくらいだよ。珍しく、きちんとしたつっこみをしてくれる好青年だと聞いてるからね」

 あいつ、いったい何いいやがったんだ、覚えておけよ……

「まぁ、それはともかくとして、肝心の相談の方か、恋愛相談かね? ヤンデレストーカーへの対処の相談かね? それとも入部相談かね?」

「なんていう選択肢なんだよ、それ。そうじゃなくて、幽霊が見えるという相談でどうにかしたいと」

「ほぅ、幽霊が見えるのをどうにかして欲しいか。珍しい相談だね」


 その部長の目を見ると、興味本位というわけではなく、しっかりと話を聞こうという姿勢を感じられる。とはいえ、それなりに興味があるのか、こちらの目を見つめ返してくる。そういう趣味はないので、視線をそらす。


「嘘だと思わないんですか?」

「その事実が何であれ、キミにとっては真実であろうからね。その真偽はどうでもいいことなのだよ、ワトソン君」

「それだと誰がホームズになるんですか?」

「もちろん、私だが? おっと、そんな目で見ないでくれたまえ、それなりにいたたまれない気分になる。それでだ、キミのどうにかして欲しいっていうのはどの程度なんだい? 見えなくなりたいとか、忘れたいとか」

「それは——」


 ふと言われて思う。そういえばどうにかして欲しいとは思ったことはあるが、具体的にどうしたいのか、深く考えたことはなかった。そんなことをふと考えている間に部長は色々とどうするの例を好き勝手にあげていく。というかなんだ、幽霊と結婚したいって。そんな変なヤツいるのか。


「さて、ここでいくつかの一般的な霊視についての簡単な話をしよう」

「は、はぁ」

「霊視、つまり見えないものが見えるというのは早々に珍しい事例ではない。どこの国でも、子供のうちは誰もが見えるが、年をとるにつれて見えなくなるといった話は多々あるものだ。」

「そうなんですか?」

「そういうものだ。時間もないから、すっぱり行くと、幻覚か、本物の能力か、という話になる。ただ、どちらも見えなくするという意味合いでは、まったく同じ行動をするし、気休めといえば気休めなるだろう」


 そういって、部長は所狭しに書類や荷物が散乱しているテーブルの引き出しから、何か水がなみなみ入った小瓶と、白い粉が入った小瓶と、お守りを出してくる。


「はい、どうぞ」

「どうぞ、ってなんですかこれ」

「聖水、塩、お守りだが?」

「どういうつもりですか、これ」

「キミも遠慮なくなってきたね、親しさを感じるよ」

「できれば、部長さんって呼んで、少し距離とりたいです」

「それは難しい話だね、君は既に部員だからね」

「は、はぁ、ん? まてまてまて、どういうことですか」


 そういって、部長さんは、何か紙をごそごそと出している。

その紙には、入部届けと書かれており、丁寧に俺の名前がかかれていた。


「キミの友人からもらったけど、違ったかな?」

「違います」

「じゃあ、これは処分しておくよ。それはそうと、どういうつもりかといえば、とりあえずそれ持ってれば、幽霊はよけていくし、次第に物理的にいないという意味で見えなくなるよ。信じなくてもいいけど、ところで幽霊なのに物理ってこれいかにというか、非物質的な話なのに不思議な話だね」

「もう、いいです」


 これ以上話していると、色々引きずられそうだ。それにもう少し捕まっていると、ホームルームが始まる時間までギリギリになりかねない。10分とはいわなくても、5分前行動ぐらいは心がけたいもんだ。早々に切り上げようとして、部室から抜けだそうとしたら、部長が何かを手渡してくる。


「それは連絡先だ、何かあれば、即座に——ASAP出来るだけ早くで連絡頼むよ。あ、そうそうオカルト相談でも、人間関係相談にも、勉強相談でもなんでものるから、そっちでも構わないよ」

「絶対連絡しませんからね?」

「じゃあ、連絡してきたら、へそで茶を沸かしてあげようじゃないか」

 そういって、部長はエセ外人風な笑いをあげる。

「そんなこと言っても、連絡しませんからね?」

「ところでいいのかい? キミのクラスは確か、転校生がくるとかで、早めに来るように、とか連絡あったらしいけど」

「だから切り上げようとしてるんですよ、このやろう」

「ハハハ、そう褒めるな。照れる」


 そんなふざけた調子の部長をスルーしながら教室へと向かおうとする。


「——あぁ、そうだ、裏手の交通事故がよく起きる道、いくら近道だからといっても、見えるなら通らない方がきっといいだろう。多分、昨日だけで、5件あったらしいからね」


 そんな、気になることを言われつつも、教室へと急ぐ。

そして、扉を開けて、珍しく朝から皆が集まっている教室に入り、夕の姿を探す。


「遅いぞー、暁ー」

「遅い、じゃねぇよ、こいつ!」

 そういって、我が悪友にヘッドロックをかけにいく。

「な、なにするだー、暴力はんたーい」

「お前、あれが変人の類だって分かっていて、紹介しやがったな」

「いや、だって遠目に見る分にはかわいいし、でも話すのは長くなるからさ。口じゃ負けるし。一応それなりに長い付き合いだし」

「よしその図太さで、件の部長の前に引きずりだしてやろうか」

「ギブギブ……その前に転校生が来るから、落ち着こう、ね? ね?」


 そういわれたなら、仕方ないなと言いながらヘッドロックを外すと、回りからの、白い目線、とたまに熱い目線があるが。とりあえず自らの席につき、皆のどういう歓迎をしようか、という話し合いに耳を傾けつつ、釘をさしておく。


「昼飯一回でいいぞ」

「めんごめんご」

「二回がいいか?」

「ごめんなさい」


**


相沢あいざわ千春ちはるです。よろしくお願いします」

 そういって、腰まで黒髪を靡かせた、私服のかわいい彼女は挨拶をする。うちの学校にも、制服はある。しかしながら、式やら行事などの真面目な日以外は、自由な服装をしていいということになっている。彼女は可愛いというよりも、刃のような鋭さの美しさを持っているという表現が似合うだろう。凛とした感じは、たまに見る剣道とか弓道をやってる女子とかが纏う雰囲気に似ている。もっと言うとセーラー服のが個人的には可愛いと思うが、それは真面目そうな雰囲気からそう思っただけである。

 そんな彼女の鈴のような声の挨拶が響くと、うちの学校にも少なからずあった、黒いモヤは、見える範囲から掻き消える。元気のある人や覇気のある人はいるだけで、黒いもやを追い払うことができるようなのだ。ポジティブな人にはネガティブの人は近寄りがたいようなものである。

 そんな彼女と一瞬目が合うも、すぐに目が逸らされる。

 

「おいおい、あの子昨日見たよね」

「そうだったか」

「ほら……昨日の交通事故現場のところ通ってた女の子」

「あぁ、その後のことで忘れてた」

「とりあえず、あの道通ると危ないこと後で伝えて置いたほうがいいと思うよ」

「そうだな……うん? 言い出しっぺが何故言わない」

「え、こっちはシャイだし、人付き合い面倒だし」

「ぬかせ」


 そんなことを言っていると、チャイムが鳴りはじめた。いつの間にか自己紹介や問答タイムが終わっていたようで。


「黒沢ー、お前、帰宅部だっただろう、相沢の案内に放課後とか、いけるか?」

 そう、まだまだ若い我らが担任様はのたまう。

「大丈夫です、先生」

「それじゃあ、休み時間とかもまとめて、頼むわ」

「はい、わかりまし……た?」

「黒沢君、よろしくね」


***


 体育の先生から照り返される日差しに、悪態をつきながらも、放課後の時間となった。休み時間に案内云々を任されたが、クラスの連中が声をかけに行くために不要かなと思いながらぼーっとしてると、どうやら撃沈したようで、なぜか俺に案内してもらうからと、こちらに来るために、色々な意味で心休まらない状況であった。

 あとは、適当に誰か女子に町内案内でもしてもらおうかと思っていたら、これまたちゃっかり、よろしくね、と言われて、相沢さんは俺に声をかけてきたのだ。


「学校の周りの案内お願いしても、いいかな?」

「いや、いいけど……他の人には頼まなくていいのか?」


 そういって、俺は、男女問わず出待ちしてる連中に視線を向ける。チラチラとこちらの様子を伺いながら、アピールしてる連中は微笑ましいのであろう。第三者であれば、だが。自分で声かけにこいよ、お前ら……


「ちょっと、あまりにもギラギラしてる人たちはちょっと」


 ころころと笑う彼女は、学校の周りだけでいいからさ、といって、俺の背中を押す。傍目にはどう映っているのか、それはチラチラ見てた連中の目が、突き刺すように背中に集まっているために、言わずとも知れたことであった。代われるものなら代わってやりたい。


「それで、どこ行きたいんですか?」

「敬語なくてもいいよ。私も使ってないし。せっかくだから、裏道とか近道とか知りたいなー」

「近道、あるにはあるけど……」

「あるけど?」


 そう危ないのだ。あの交通事故のよく起きる裏道だ。あと個人的に見えるもののせいで、近寄りたくないのだ。とはいえ、気をつければいいわけだし、事故は注意していれば回避できる。


「交通事故とかがよく起きるんだよね、昨日だって、5件ぐらい起きたらしいし」

「交通事故が5件って、ニュースとか新聞とかでは見なかったわよ」

「あくまでも噂で聞いただけだしなー、深いことは分からないかな」

「気をつけて周り見てれば、交通事故なんて起きないでしょ、じゃあ行ってみよー」

「了解」


 そういい、教室を出ようとするところに、携帯が何かを受信したのか、震える。人を案内するのに見るのも失礼だし、電話でなければ、緊急性はないだろうと思い、それを無視する。

 教室から出たときの、空は黒い雲で覆われていた。その暗さからだろうか、まだ時間も遅くはないのに、もう赤い景色となった、夕焼けの時間であった。

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