1. はじまりの日

01

——君は、幽霊を信じるだろうか。


「おーい、あかつき、そこでつったってないで、さっさと帰るよー」


 学校からの帰り道、極自然に色々な場所でよくみるが、どこよりも濃く黒いモヤがある中、友人の呼ぶ声で視線を外す。


「待てよ、ゆう、今行く」

「なに、またいつもの奴? それよりも明日に転校生が——」


 長い付き合いの友人のそばにだけは、黒いモヤはいない。

 今通っているこの道は交通事故が起きやすい。その話は学校でももちきりで、ここを通る人はよほど自信がある人間なのだろう。しかしながら、帰るのには凄い近道であるがゆえに人通りもそれなりに多い。多いからこそここでは事故が多いのか、あるいは近道を通ろうとする人達は急いでいるから事故に遭いやすいのか。その真相は分かっていない。とりあえずは、しっかりと前見て、車に注意をしながら歩きなさいとは、どこに行こうにもよく言われることだ。


「いつもの奴で切り捨てるなよ、これでも悩んでるんだから」

「といってもだ、こっちには見えないし、お前だけに見えてるもんだしねぇ。まぁ、確かに嫌な予感がするってことで、助かることは何度もあるけど」

「いつも言ってるけど、ここ凄い危ないからな!? その辺うようよいるし、めっちゃ曲がり角の無向こう様子みづらいし!」

「そうはいってもよ、くろちーちゃんよ」

「何がくろちーちゃんだ。普通に黒沢って呼べよ、俺は名前でいじられるのは嫌いなんだよ」

「せやかて、黒沢」

「何がせやかてだ、最初から普通に言えばよかっただろ」


 そう、いつもと変わらない——正直もう少しまじめに取り合って欲しいものだけど——我が友人、時には悪乗りするヤツとの話は気が楽なものがある。もちろんお互いに気がしれてるからこその、じゃれあいというのもあるのだろう。それでも普段からころころ人の呼び方を変えるのだけはわりかし諦めてはいるが、一応は止めて欲しいといえばやめて欲しいのだ。人前ではちゃんとした呼び方してくれるからいいが。


「だってよ、お前さ、いいガタイしててさ、幽霊見える云々って言ったら、痛い子に見られるのが普通なのよ。信じる奴も普通は痛い子扱いで、つまりこちらをお前は笑いものにしたいわけっていう不思議な話になるわけで——ん? あの子危ない?」


 そういって指さされる先を見ると、黒いモヤを意に介さずに、むしろかき消すいきよいで力強く歩いて行く、髪の毛を肩まで伸ばした黒髪の女の子だ。

 黒いモヤは、自らをかき消す勢いで中を通られた苛立ちか、そのもやを彼女へと伸ばしていく。その歩みの向かう先は、よく事故の起きる交差点であった。


「あの先、よく交通事故起きるところだろー? 茶目菌出目金、一応一声かけた方がいいんじゃねぇの?」

「あー……まぁ、大丈夫だろ、見た限りは、むしろ今追い抜かしていった自転車の人の方が危ない」


 黒いモヤを纏った、自転車の青年が、俺達のをそばを通り過ぎていく。その表情も何やら疲れ気味のようで、たまに咳をしている。風邪気味なのだろうか、それとも寝不足だろうか。両方かもしれないな。


「今のは別にこっちでも分かる程度には、危なそうだったね。不健康そうだ」

「何も起きなければいいけど、あれは、うん、やばい」


 黒いモヤが次第に濃くなっていき、その顔を現していく。あれは随分昔に事故死した人だったか。何もおきないなんて、経験上はほぼない。できれば何もおきないのが一番いいのが。


「それで、どうする? 目覚めの悪いままに見過ごすか、こちらから突撃かましてみるか、ちなみにこちとら自慢じゃないけど、自転車には追いつけない」

「いや、それは自慢する所じゃないからな? 正直、手を出せるような方法思いつかないからなぁ。ひどい話だけど、お前の言うところの痛い子だから、信用されんし、とりあえず救急車を呼ぶ用意でも——」


 少し先で、どすん、っと鈍い音が響く。それに二人顔を見合わせて、その場所へと向かうと、そこにあったのは、ひしゃげた自転車と、先ほどの人が転がっている。


「大丈夫ですか!?」


 そういって駆け寄る友人は、すぐに首をふる。黒いモヤはもう無い。


「あ、あぁ、自転車が壊れただけだから、大丈夫だよ」

 無言で我が友人を睨みつける。

「立てます? 救急車とか警察呼びましょうか?」

「さっき転がったので、携帯がね——」

 友人は意にも介さず、事故対応を手助けしてる。

「不思議なものでさ、ついさっきまでは何もないはずなのに、急に何かが飛び出てきてさ、轢かれたと思ったら次の瞬間には——」


 ふと、急にしとしとと雨が降り始める。梅雨の時期の雨は嫌いだ。どうしても、見えるものが多すぎる。


「あ、すいません、ボク達は、雨もふったので、帰らせてもらいますね。救急車の音も聞こえますし」


 そういって、友人は早足でこちらによってきて、背中を強くおして、帰ることを促す。地味に立てられている爪が痛く、後で覚えておけよと心の中でつぶやく。


「そんな押さなくても、わかるから押すなって」

「今日傘ないんだよ、そのいいガタイで雨除けなってよ」

「無茶いうな!」


 そんな雨除けになんてなるはずもなく。二人して早足に帰ろうとするが、面倒なことに、雨が強くなった。軽く一言雨宿りすっかと言いながら、俺たちは、軒下を借りて、雨が過ぎ去るのを待ちながら、軽くさっきの事故についての話をしてみたり、爪たてかえしたりとしつつも時間を潰す。


「あーそうだそうだ、結局さっきの話に戻るんだけどさ」

「どの話だっけ」

「悩んでる、の話。どうしても悩むならば、オカルト部とかに行けばいいんじゃないの?」

「いや、あそこは見える奴いないし、それやったら、根掘り葉掘り聞かれるだけで役に立たないのは中学で懲りててな。しかも悪意がないから困る」

「それじゃあ、さ、『超サバイバル研究部』っていうのが——」



 

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