18
「あーもう、骨折り損のくたびれ儲けだったわよ」
「一体どうしたんだ? 何か悪い術者とか怪異やら云々言ってたヤツか?」
「そうそうそれよ。乗り込んだはいいけどさー」
事務所で、エアコンとお菓子をたかりながらも、帰ってきた相沢さんが愚痴るのを聞いていた。
「術者は術の反動で死に体だったし、怪異の方はそいつから聞くには他の同業者に先にやられたとかいってたし。とりあえず緊急搬送とかしたけど。うーん」
「楽できたからいいんじゃないのか、それ」
「危険人物じゃなかったって言われて、報酬値切られたのよ。あーもう、あのハゲオヤジむかつく!」
彼女はクッションを抱え込んで、ソファにのめりこむと、そのままクッションをぽふぽふと殴りはじめる。よほど疲れたのだろうか。
「所長にエロい目線送ってたし、こっちに見向きもしなかったし。あんなヤツ、一生禿げてればいいのよ。それで娘さんとかに、お父さん加齢臭凄いとか言われて心折れればいいんだわ」
むぐぐとして膨れてる相沢さんを見守りながら、俺はカステラを食べていた。
**
俺はあの日、ヤクザたちの白骨遺体を破壊し、地獄に落ちるのを止めたが、それと同時にヤツらの霊は赤い手のクビキから外れたと同時に、苦しみ、もがきながら、完全にその場で消失した。
「今はとりあえず、これで手打ちにしてくれ」
それを言われたからか、何なのか、赤い手はまさみさんを連れて行かず、それを了承したのか、それとも今回の獲物がなくなったからか、ただ地面へと引っ込んだ。
「アギ君は何をしたんだい?」
「今回の地獄行きの連中を消滅させた」
「そうか」
「マサさんとまさみさんはしっかりと供養してあげよう、それがきっと、正しいことだから。そのためには、ここを警察に通報しないとか」
「おや、面倒事になるよ」
「公衆電話からかけるし、相手も分かってくれるだろうさ、そしたら後はね」
「そういうコネがあるなんて凄いもんだね」
「色々個人的に聞かれそうだけど、それは、うん。部長の口車に期待してます」
「つまりヤカンでへそを沸かす一発芸の出番かな?」
「それはもういいです」
成仏していったマサさんを見送ったまさみさんは、こちらを見ていたので、これからのことを伝える。
「多分、もうしばらく、まさみさんはこの辺にいることになります。そしたら警察がやってきて色々調べてくれるだろうので、今回の件の解決とか、色々終わらせてくれると思います。それから、供養するので、もうしばらく我慢してください」
——わざわざ、ありがとうね。こうやって誰かとまた話せるとは思わなかったわ。でも、もう大丈夫それぐらいなら私にとっての償いになるから
**
「もー、せっかくの夏休みのはじまりっていうのに、悪い出だしだわ」
「はいはい、もうその辺にしておけよ。カステラがまずくなるぞ」
「美味しいものはおいしいもーん」
「子供か」
そしてもそもそと小動物のようにカステラを食べ始める相沢さんが、途中で何か思いついたのか、声をあげた。
「そうだ、部活しよう。そうすれば忘れられるわ」
「おう、がんばれ」
「じゃあよろしくね」
「何を?」
「部活紹介して」
「何で俺が、鈴木さんあたりに頼めよ」
「そんな不純な理由で部活紹介してって言ったら、私が説教されるじゃない」
「そりゃそうだ」
当たり前だ。とはいえ、面白い部活なんて
「超サバイバル研究部にしましょ!」
「うぇ」
「この前約束したじゃない。あの部長紹介してくれるって。ちょうどいいわ。部活紹介ついでに、連れて行きなさい!」
「横暴な」
「なによ、ハリセンボンがいいの? 生きのいいフグもってきちゃうわよ」
「そのハリセンボンだったのかよ!」
「普通に針千本がいいの……?」
そこでドン引きされてしまうのは、かなり理不尽だと思う。
「分かった分かった。ちゃんと紹介するから」
「やったー」
ちょろいなぁ、すぐ機嫌直る。カステラを頬張っておいしーってやってる彼女を見て、少しばかり和んだのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます