第九話 舞踏会ーマクウェル夫妻ー

「おお、お久しぶりですな、足がこの通りでなければ良かったのですが……申し訳ない」

 そういって手にしていた杖で軽く左足を叩いた。


「どこか、お怪我をなさったのですか?」

 ディアナは心底心配そうに尋ねた。


「そういう訳ではないのですが歳は取りたくないもので、近頃古傷が痛み出しまた。そのせいで以前のようには動けなくなってしまいましたよ」


「そうでしたか。どうぞご無理はなさらないでくださいね」

 少しだけ安心したように顔を緩めるとつられたようにベンジャミンも微笑んだ。


「いや、心配させてしまったようですね。私なら大丈夫ですよ。それにしても、素敵なお嬢さんになられましたね」


「恐れ入ります」

「お前さんには言ってないよ」



 謙虚にそれでいて自慢げに応えるアーネストとそれを笑いながらあしらうベンジャミンの横に夫人が滑るように立った。


「もうお客様は皆さんいらっしゃったので様子を見にきました。夫の相手をしてくださってありがとう」



 ディアナが軽く膝を曲げてお辞儀をするのを待ってまた口を開いた。


「ねえ、それはそうと、本当に立派な淑女になりましたね。婚約者はいらっしゃるの? いっらしゃらなかったらうちにお嫁に来たら?」


「それはいい。うちに来なさい。」


 それまで別に会話を続けていたベンジャミンが夫人の言葉に反応した。すると自然と、ベンジャミンと話していたアーネストも加わることになる。



「勝手に進めないで頂きたい。ディアナはうちの子ですからまず私に言うのが自然なのでは……」

「それでは反対なのかな?」

 被せるように問いかけられるとアーネストは諦めたように肩をすくめた。



「結局のところは無論、ディアナと、そちらのご子息次第ですよ。私にも否やはありませんし。ただ貴方がたがそう先走ってはディアナがついていけなくなってしまいますからね?」

「はは、これは失礼」


 ベンジャミンが笑うとそれにつられて三人も笑い出す。和やかに時間が経っていたがしばらくして召使いがやってきた。



「失礼致します。奥様、少々よろしいでしょうか」


 二言三言召使いと言葉を交わすと、アーネスト達に向けて軽く礼をした。

「少し呼ばれてしまったので席を外しますが引き続き楽しんでくださいね。もうダンスも始まっていますよ」


「ああ、そうだったね。若い人たちは私の相手ばかりではつまらないだろう。行っておいで」


 姿勢を正し、礼をした。


「では、マクウェル様、失礼致しますね」

 ディアナが律儀に礼をしたらベンジャミンもにこやかに礼を返した。

「ああ、楽しんで」

 そうしてベンジャミンに背を向け、広間の人々の中へ歩みを進めた。

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