第八話 舞踏会ーうわさー
「Mr.アーネスト・ファウラー、Ms.ディアナ・ファウラー!」
広間に着くと予想以上に人がいて、既に人が何組もが談笑をしたり、踊っていた。アーネスト達の事は気にも留めていなかったが会場にとあるペアが来ると女性達がそちらを向いてひそひそと言葉を交わし始めた。
男は良くも悪くも印象の薄い、特徴らしい特徴がない。しかしそれとは対照的に女の方はあまり若くはないが華やかな深紅のドレスのよく似合う美人だ。
柔らかなベルベットのようでありながら、氷のようどもある微笑みを浮かべる彼女のことは一度見たら忘れることはないだろう。
「まあ、やっぱりいらしたのね、図々しい」
「まったくね。亡くなったコールラウシュさんがお気にの毒ですこと」
「生前、あれほど自慢していらした女性だとあの方が亡くなってからは次々と男性とお付き合いするなんて。女狐の本性を現した、ということかしらね」
「だから幾ら美しくても余所者のましてやこの辺りに知り合いのいない女と結婚するのは反対だったんですよ。それに生家は没落した、貧しいお家なのでしょう?」
嘲るように笑う。恐らくわざわざ聞こえるように言っているのだろう。この悪口の対象となっている女性はそれに対抗するように堂々と胸を張り、小馬鹿にさえするように微笑んでいた。
コールラウシュ夫人、ということは、カードのやりとりだけで結局会っていない夫人のことだろう。
Mr.コールラウシュの方は噂で聞いたことがある。数年前に亡くなったこの辺りきっての名士かなにかのはずだ。
とはいえ、それが分かったところで何があったのかは全く判断がつかない。気になりながらもアーネストが先へ進むのでそれについてベンジャミンのいるであろう中の方へ足を進めた。
予想通り、少し奥まったところに座り心地のよい長椅子が置いてあり、そこにゆったりと腰掛けている。
手にしたステッキは、ただ装飾の意味だけでなく、実際に使っているのだろう。ただ美しいだけでなく手に馴染んでいる。
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