第七話 舞踏会ー広間へー

 舞踏会当日……



 アーネストの前にドレスを纏い恐る恐るといったようにディアナが現れると、アーネストは両腕を軽く広げて微笑んだ。


「よく似合っているよ。予想以上だ」


「本当ですか? おじ様がそう言ってくださるなら嬉しいです。でも、やっぱり私にはもったいないくらいなんじゃないかって思えてしまいます。あまり華やかな顔立ちではありませんから」



 微笑むディアナを見つめながら手の甲に口付けを落とす。そのまま手を取り、姿見の前まで導いて照明を明るくした。

「ほら、ドレスとあっているだろう。大丈夫、安心しなさい。マクウェル夫人に挨拶するから少し早く行ったほうがいいな」



 エントランスホールを出るとすでにキャリッジ(十九世紀に富裕層の所有する高級な馬車のこと)が待たせてあった。華美ではないが、全体に細やかな装飾がなされていて一目でとても良いものであることがうかがえる。内部もこじんまりしているように見えてゆったりと、座り心地も良い。



 思えば、今日はアメリカに来て二日目には完全に引越しがされていた。服や、細々とした調度品も使いやすく整えてあった。イギリスでの生活となんら遜色ない状態だけどある。ディアナにはイギリスのものを送るよう手配する用意をした記憶などは一切ない。アーネストが手配していた様子も一切なかったはずだ。



「おじ様が全部手配して下さったのですか?」

 気になってふとつぶやくように尋ねたた。


「何をだい?」



「こちらに来てまだあまり経っていませんけど、お部屋も何もかも整えられていてとっても心地よいのでおじ様がやって下さったのかなって思ったんです」


「いいや。マクウェル夫妻が手伝って下さったのだよ。私達がこちらに越すことを伝えたら、手配してくださったのだ。あったら改めてお礼をしよう」



 そう聞いてディアナは瞳を大きく見開いて頷いた。

「ええ、そうですね」


 そうして話しているうちにマクウェル邸に到着した。



 もう既に来ているものもいるようで馬車が何台も並んでいる。エントランスのあたりでアーネストに手を引かれてキャレッジを降り、使用人に導かれるまま広間への階段を登りきったところでマクウェル夫妻人が出迎えてくれた。夫人には娘がおらず、一人きりだった。軽い挨拶と握手を礼儀通りに済ませる。



「お二人とも、よく来てくださいましたね。この街はどうです?」


「とても良いところですね。屋敷周りの整備を奥様たちがなさってくださったと伺いました。誠に、ありがとうございます」



「いえ、ヨーロッパではお世話なりましたからね、当然ですよ。使いごごちはいかがです?」

「丁度いいですわ!」


 快活に答えたディアナを暖かい表情で見やりながら夫人は笑いかけた。


「まあまあ、それはよかったですわ。夫は広間の奥の方にいると思いますから、ぜひ挨拶に行ってくださいます?」


「ええ、もちろんですよ」


 いつまでも長話をする訳にもいかず、促されてアーネストと共に広間へ足を進めることになった。

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