第3章社交界へ
第六話 舞踏会用ドレス
そうしてディアナを屋敷の奥のクローゼットルームへ連れて行き、ランプを付けた。途端に暗い視界が明るくなる。
部屋の中ほどにアーネストが仕立てさせたものと思われる見覚えのないバッスルスタイルのドレスが1着あった。それはランプの光の中で幻想的な美しさを持っている。
「うわぁ……とっても綺麗です……!」
頰を紅潮させ、じっと見つめた。
「気に入ってくれたか?」
ドレスのスカートの生地を手にし、そっと撫でてから元に戻しため息をついた。
「ええ、とっても。でも素敵すぎて着るのがもったいくらいです」
「だが着ない方がよほどもったいないのではないか?」
少し悩むようにしてからディアナは頷いた。
「そう、ですね。じゃあ明日はこれにしますね。それにしてもいつの間に用意してくださったんです?」
「こちらへくることが決まる前だったかな。実は今日ようやく到着したんだ」
「そう、でしたか」
ディアナ以上にドレスに詳しいのではないかと思うことさえある。
普通ファウラー家の経済状況なら本人たちでなくメイドなどが用意するのが自然だ。無論そういうものの方が多いが、アーネストが揃えたものもそれなりにある。
「小物はこれがいいかしら」
小箱から大ぶりのダイヤを使ったネックレスや髪飾り、ブレスレットなどを出してドレスと合わせる。いくつか試して合うものを選んだ。
明日のことが決まって、安心してとことで幾分か眠気を催してまぶたが重くなってきた。あくびを噛み殺しているとアーネストが気づいて笑った。
「……ああ、気がついたら結構時間が経っていたね。もう寝なさい。もうやることはないだろう?」
言われて気がついたが、空いっぱいに、夜会用ネックレスの紐を解いてひっくり返したように星が輝いていた。
ディアナは頷きかけてやめる。何か思い至ったようだ。流石に十年も共に暮らしていると行動がおのずと読めるようになるのかもしれない。
「おじさまはお休みにならないんですか?」
「私もじきに休むよ。少し仕事をするだけだから」
「本当ですか? おじさまはそういいながら、よく遅くまで起きていらっしゃいますよね」
「そうかな。これでも休むべき時にはきちんと休んでいるんだが。とにかくおやすみ」
少し寂し気に微笑むアーネストにディアナはにっこり笑いながらお辞儀をして自室へ下がった。
実際、アーネストは一人になると仕事を始めた。それはすぐに終わったがベッドには向かわず、闇色のマントを羽織った。休む気などさらさらないようである。
そのまま扉ではなく窓を開けるとそこからひらりと出て行った。そうして日が昇る直前になって同じ窓から帰ってきた。
勢いよくベッドに倒れこみ眠りだすと空が白み始めた。
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