第四話 社交の手順
こちらに来る以前からの知り合いであるマクウェル夫人というディアナの母ほどの歳であろう女性が訪ねてきた。
「Ms.ファウラーはいらっしゃるかしら?」
用事を思い出し、玄関のあたりを通りかかったとき、マクウェル夫人の応対を使用人がしているのに丁度出くわしたのだ。
「こんにちは」
近寄って声を掛けると夫人は眼を瞬いて口角をあげた。
「こんにちは。Ms.ディアナ・ファウラーですよね。久しぶりですけれど覚えていらっしゃるかしら」
「もちろんですわ、マクウェル夫人。お目にかかるのはだいたい四年ぶり、ですよね」
互いに久しぶりなせいで少し慎重になってしまったが間違いでないと確認できてこっそりディアナは息を細く吐いた。
「もうそんなにたつのですね。どうりでお綺麗になったと思いました。ご挨拶にと参ったのですがお時間は大丈夫かしら」
「どうぞ、こちらです。……大丈夫よ、この方は以前からとてもお世話になっている方ですから、私がご案内します」
先程から控えている使用人に言って夫人と二人、応接室へ向かった。
この時間の訪問はあまり時間をかけない、というのがマナーのようになっているため、じきに積もる話はあるというのに話し足りない心持ちで立ち上がった夫人を見送ることになった。
数日が経つ頃には特に中心的な立場にいる者とはほとんど顔を合わせたことがあるくらいになっていた。
お返しの訪問の予定を確認していると会った記憶のない名前があった。マリア・コールラウシュと書いてある。確認してみると訪問を伝える訪問カードだけを置いていったようだった。その後も、何枚かそんなカードが見つかる。
そういったものもまとめて使用人と予定を立てた。
「明日はこちらの方々のお宅に伺いに出かけますね。おじ様のご予定は?」
訪問カードを何枚か渡して予定を知らせる。午後のほんの短いひと時だけだが、どうせ一つの家に長居するものでもなく、明日だけで随分回る予定だ。とはいえ、基本的に明日は在宅している、と記載されている家だけにいくが会えるとも限らない。
「ああ、明日は……そうだね。コーヒーハウスにでも行こうかな。社交クラブの入会はまだ時間がかかりそうだ」
メンバーの紹介、承認がなければ入会出来ないというのが排他的であり、自分たちだけの団欒の場であるクラブの欠点であり、長所だろう。ここに知人の少ないアーネストはすぐには入れないのだ。
ディアナはまた数日間訪問に費やした。マクウェル夫人の元へはむろん早い段階で行ったのだが玄関先使用人に不在を告げられてしまった。仕方がないからカードを渡して引き下がり、次の家に挨拶をすることにした。
アーネストは社交のためにコーヒーハウスに足を運ぶ日もあれば一日中こもっている日もあったようだ。そういう日は大抵夕食どきになっって眠たそうに現れる。
こちらにマクウェル夫人の家族を含め何人か知り合いがいるから、と社交クラブに入会するのに案外時間がかからずに済みそうである。
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