第三話 新しい屋敷下

 どれくらい経っただろうか、アーネストは扉をノックする音に目覚めた。


「もうじきにお嬢様が帰っていらっしゃいますよ。だいぶ、体調も良くなっているようですね」


 アーネストは頷き、レイラを下がらせきっちりと着たままだった上着とネクタイを脱ぎ、室内用のガウンを羽織った。


 自室からリビングルームへ行こうとしたところ、そこに着く直前にディアナが帰って来た。玄関へ迎えに行くとディアナは眩いばかりの笑みを浮かべて駆け寄って来る。



「おじ様ただいま帰りました。湖がとっても綺麗でしたよ! よかったら明日一緒に行きませんか?行きましょうよ」



 甘えてくるディアナの柔らかい髪を撫でてやると嬉しそうに微笑む。

 どうやら彼女の中では決定事項のようだ。アーネストは希望を叶えてやりたかったが今回ばかりはそうもいかないのだ。



「早まるな。しばらくは来客の対応をしなければならないはずだったと思うよ。今度にしなさい」

 笑いながら優しく諭すとディアナがあ、とつぶやいた。

「忘れていたのだね?」


「ご、ごめんなさい。つい楽しくって」

「まあ、楽しかったのなら良かった。 ……そういえば、何か美味しそうな、いい匂いがしません?」

 アーネストが気にも留めていなかった匂いをディアナは敏感に感じ取っていた。


「もうじき、夕食時ですから厨房で料理をしているのでしょう」

 アーネストが答える前に控えていたチャールズが気づいて答えた。2人はそれに納得したように頷いた。


「そうだったな。では部屋で着替えが済んだらダイニングへ来なさい」

「はーい」

 軽い足取りで去って行くディアナを見つめながらアーネストはひとりごちた。


「やはり、もう手元においてはおけないかな」

 苦いつぶやきを消し去るように首を振って普段より早い歩調で歩き出した。


 翌日から街の人々がやってくるようになった。


 昼過ぎから夫人たちが現れて、お茶とスコーン程度のお茶菓子を出して談笑する。彼女らの帰宅後に残された住所などを書いてある訪問カードを回収する。


 要するにその繰り返しでしかないのだがこうしないとこの辺りの社交界の面々と関わりが持てない。都会ではないためこれだけでどうにかなるのは少しは楽かもしれない。

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