第三十八話 恋人
きちんと伸びた背筋を少し崩しかけそうになった時に彼女をカレンの呼ぶ声が聞こえて慌てて姿勢を正した。
「ディアナ!ここにいたのね。ごめんなさなさい。噴水の反対側にいたので気づかなかったの。待たせてしまったわね」
「いいえ。私も気付けば良かったわ。おじ様といたからうっかりしてたの」
一歩遅れてメイベルもカレンと同じ方から歩いてきた。
「一言言ってから動いてよね焦ったわ。ディアナ、合流できてよかった。そうよね、私たち大抵向こうなののだけどディアナは知らないものね。ごめんなさい」
「いいの、気にしないで。私が聞かなかったのですもの。ねぇ、それよりせっかくのお祭り、楽しみましょう」
二人は頷き、あれこれとどこから行こうか言い出す。年中一緒にいて、なんだかんだ気の会う二人だが、こんな時はどうしようもないほど意見が合わない。
どっちでもいいじゃない、とディアナが言ってもこだわりが強いらしく、結局交互に互いの進めるところへ行くことになった。
「初めからこうしていればよかったじゃない」
ディアナは最初そう言って笑っていたが1日が半ば過ぎた頃には疲れた様子が見え始めた。
「すこし休まない?楽しいのだけど足が少しくたびれてきたわ」
丁度そこに屋根のある休憩場所があるから、と向かうと先客がいた。
「メイベル?ああやっぱりだ!」
奥の方で集まっていた青年たちの一人が立ち上がって向かってきた。一度や二度、社交界で見かけた気はするが、特徴的な歩き方で見たら忘れなさそうだが、あまり記憶にない。カレンにそれとなく尋ねても首をかしげるばかりだ。
「あら、ジョージ様!いらしてたのなら言ってくださればいいのに。あ、紹介するわね。こちらジョージ・ハリス様。お付き合いしてる方よ。お父様のお手伝いが忙しい方だからお会いしたことはないかもしれないわね。で、ふたりが前に言った、カレンとディアナ」
「初めまして」
3人がそれぞれ挨拶を済ませるとすぐそばにあった椅子に腰をかける。
青年たちがメイベルがジョージの恋人ということで聞き耳を立てていた。それに「なにしてるんだよ」と軽く文句を言ってそのまま話を続けた。
「そういえば、隣町のマイルズという青年がいるでしょう?」
その名前が出るとは思わなかった。ディアナが目を見開いたのを肯定ととってジョージは言葉を続ける。
「あいつとは友人なんですが、何度かあなたの話聞かされましたよ。会いたがっていましたが、先日からヨーロッパの方へ遊学をしているんです」
「そうでしたか。どの辺りでいらっしゃるのかしらね。……ああ、そうだ。カレン、少しだけ付き合ってくれる?」
カレンの腕をとって立ち上がるとこっそり扇子をつかってメイベルに合図をした。
(邪魔者は退散する……?えっ待って)
表情でなんとか伝えようとしているのをジョージに見咎められてしまった。
「どうしました?」
「い、いえ、なんでも。二人がすぐいなくなってしまうというので驚いて……」
ディアナたちがそんな様子を離れたところからこっそり見ていると後ろから声をかけられた。
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