第三十七話 噴水まで

 少し歩いているうちに、だんだん人も増えて馬車と人の距離がほんの少し近づいたように感じられる。馬車はおそらくディアナたちの乗っていたのと同じく、広場の端の方へ向かっているのだろう。


 並んだ品物やその他の物をひやかしているうちに広場の入り口に着いた。ディアナにとっては友人たちと何度も歩いた場所でもあるのだが普段は落ち着いて歩けるのだが、雰囲気は打って変わって溢れるぐらいの人がいた。


 こんなにも人が集まるのかと思ったが、よく見てみると人数に対して歩けるスペースが少なくなっている。


「随分と狭いな」


「いつもはもっと広いんですよ」


「そうだろうな。どこで待ち合わせているんだったかな?」


「えっと……一番大きな噴水のところです。おじ様は?場所は分かりますか?」


 アーネストはディアナの言葉を反芻し、ふっと笑った声がディアナには聞こえた気がした。


「広場の中心部にあるという噴水だな?確か」


「ええ、そうですよ。よくご存知ですね」


「ああ、待ち合わせがそこだからだ。実はまだ見ていないから少し興味がある」


「そうでしたか。きっと行けばすぐにわかると思いますけど、とっても立派なんです。どうやっているのかしら」


「そうだな」


 歩きながら観光案内の役割を務めるディアナは町に一見詳しいように見える。それだけ慣れたのだろう。


「あ、もうそこです。ほら水が上がりましたよ」


 彼女の指差す方では勢いよく上がった水がキラキラと日光を反射していた。

 晴天では無いのにその光はとても眩しい。


「ああ、確かにすごいな」


 大抵待ち合わせはここなのだ、と教えられた噴水の角に着いたが二人とも待ち合わせ相手はまだ来ていなかった。


「少し早かったみたいですね」


 言いながら周囲に併せて噴水のへりに腰をかけた。当然ながらいつもの椅子より低い。それに喧騒に紛れて声がいつもより届きにくく、立ったままのアーネストに対し、自然と身を乗り出すような姿勢になっていた。


 そんな時間もウォルターが来たことですぐに終わりを告げた。


「Mr.ファウラー、こんにちは。良い天気ですね」


「Mr.ウォルター!もしや随分と探させてしまいましたか?」


 ウォルターの額は汗がわずかに滲んでいる。彼もそのことに気づき、ハンカチを出し、軽く顔を拭った。


「人が多いせいで暑くて……。ところでそちらが例の?」


「紹介します。私の姪のディアナです」


 アーネストに導かれてディアナは軽やかな足取りで彼の隣に立ち、そのまま膝を曲げて一礼をした。


「初めまして。お目にかかれて、光栄です」


「Ms.ファウラーはこの後どうなさるのです?」


「友人たちと約束しているのですが、少し早かったみたいで……。きっともうすぐに落ち合えますわ」


「そうか?ではまた後で約束通りに」


「ええもちろんです」


 小さく手を振って二人の姿が見えなくなるのを待ち、先ほどと同じところに腰をかけた。


「……つまらない」


 一人になると途端に周囲のざわめきが耳につくらしかった。

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