第三十四話 紳士
ディアナに言ったように、翌朝、ベンジャミンの屋敷へ行くための身支度をし、昼間の礼装であるフロックコートにステッキを持ち、馬車に乗り込んだ。
マクウェル邸には街の名士がいく人も集まっていた。彼らがぞくぞくと客間に集まり、ひとが増えるたびにベンジャミンは一人一人に声をかけていった。
「おお、よく来て下さった。博士も、ようこそ」
「Mr.マクウェル、ご招待くださりありがとうございます」
口調こそ砕けてはいないが親しみを持った表情である。そうして、皆が集まると部屋をぐるっと見渡した。
「お集まりいただいたのは他でもない、鉄道建設に関することでご相談があります。……」
ベンジャミンを中心として議論が始まり、暫く話は続いた。だいぶかかったが、そのうち一応の結論が出たようで、話題は今度の祭りへと変わっていった。
バザーの時は婦人会が強い影響力を持っていたが、今回の方はどちらかというと男性の方が強いらしい。舞踏会などで女性たちをエスコートしたりすることで権勢を競うよりも心なしか楽しげにしているようにみえる。
アーネストは彼らの自慢話を混ぜている祭りの話を出されてコーヒーを飲みながらじっと聞いていた。
「Mr.ファウラーは今回が初めてでしたな。良ければ案内しますぞ」
話しながらそばに偶然来たいかにも人の良さそうな紳士に声をかけられた。今までほとんど交流のなかった相手だからいい機会かもしれない。
「それはありがたい。では、お願いできますか?」
「もちろんですとも!お任せを。いつにしましょうか」
「二日目以外なら、いつでも構いませんが」
予定をあれこれと思い出して答えを出す。変えてはいけないのはディアナとの約束だけらしい。
「では、一日目がいいでしょう。どなたかとお約束でも?」
「Mr.ファウラーは独身でいらっしゃるから、女性たちが放って置かないのでしょう。羨ましいことだ」
誰かが言った言葉に苦笑するしかなかった。関わりのある女性といえばマクウェル夫人やマリアくらいなものだし、アーネストはそういったこと自体には正直、あまり関心を持っていなかった。
「そうならいいのですがね。
冗談交じりの言葉ではあったが思ったよりも真剣な表情で頷かれてしまった。
「年頃の娘とは難しいものですからな。嫌われているわけでは無いようだが、うちの娘が近頃よそよそしくなってしまって……。その点、羨ましい」
「ありがとうございます。最近は逆に親、いえ、おじ離れをいつするかと心配にもなります」
「いいお嬢さんですな」
アーネストはディアナ自慢は積極的にするようだ。話しながら飲み干していたコーヒーのお代わりを飲んで口内を湿らせた。
「ええ、自慢の姪です。ところで、姪が待っているでしょうから……」
「相変わらずの叔父バカが……」
当然だと言いたげな彼にため息をこぼしながらベンジャミンが呟いた。
「なんでしょう、Mr.マクウェル?」
「なんでもありませんよ。何はともあれ、諸君のお陰で解決策が見出せてよかった。こちらに来てあまり経っていないMr.ファウラーにも多大なるご協力を頂けること、嬉しく思います」
「お役に立てるようで何よりです。もともと、お手伝いをするつもりでしたから。では、申し訳ないがお先に失礼させて頂きます」
ベンジャミンが話をまとめたのを幸いにと軽く挨拶を済ませて席を立ってしまった。
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