第三十三話 書斎
レイラがティーセットをテーブルの端のあたりに置いて退出すると、アーネストは一つ伸びをした。肩がこっていたのだろう。
ディアナがポットから注いだ紅茶を飲む。それがひと段落するのを待ってディアナは口を開いた。
「お仕事、お忙しいようですけど、あまり、無理なさらないでくださいね?」
「分かっているよ。だが今のうちに見ておきたいことがあってね。……大丈夫。すぐに終わるから」
「じゃあ、ここにいてもいいですか?邪魔しませんから」
「ああ、いいけど楽しいことは何もないよ」
ディアナは少し離れたところの椅子をアーネストの近くまで引っ張ってきた。そこにちょこんと座った。
部屋にはアーネストが紙をめくる音以外の音がしなかったが、少ししてアーネストが本を閉じて顔を上げた。
「そういえば今日は友達と公園に行ったそうだが楽しかったか?」
「ええ!お花もとっても綺麗に咲いていて、蝶々が飛んでいましたよ。あ、あと、コールラウシュ夫人とお会いしたんですけど、あまりお話出来ませんでした。おじ様は親しくしていらっしゃいましたよね。おじ様から見て、どんな方ですか?」
「不思議な
「そうなんですか。なら、もっとお話したかったです。……そうでした!メイベルに街のお祭りに誘われて、せっかくですし、行きたいのですがどうしましょう?」
本やペンなどをしまいながら聞いていたアーネストはふとその手を止めた。
「問題でもあるのか?」
「問題、と言いますか、正式な招待状を頂いていませんから行けないだろうな、と思っていて……」
「ああ、大丈夫だろう。少し聞いただけだが、格式ばったものではないと思うよ。確か街の中心の広場で行われるらしい。明日Mr.マクウェルとお会いする事になっているから、その時に聞いてみよう。いつだったかな?その祭りと言うのは」
先ほどメイベルに言われた日数を指折り数えた。今日聞いたことだからそんな必要はないのだが、そこはまあ、気分の問題だろう。
「明日から数えて丁度一週間です。お祭り自体は三日間あるそうですわ」
「そうか、なら間に合うかもしれないな。余裕があれば私も少し顔を出したい。その時は一緒に歩いてくれるか?」
実は、アーネストは前は祭りなどにはあまり積極的に参加をしていなかったので、その発言は十分ディアナを驚かせた。
「まあ、いいんですか?!嬉しいですけど、珍しいですね」
「たまにはいいだろう?ここのところお前も今まで以上に生き生きしているし、ここはそれだけ魅力的なのだろう?案内してほしい」
「ええ、もちろんです。でも、私でいいのですか?もっと詳しいお知り合いはいっぱいいらっしゃるでしょう?コールラウシュ夫人とか……」
なぜかアーネストの知り合いで最初に思い出したのが彼女だった。マクウェル夫妻だっているのに。ディアナ自身は気づいていなくとも、何かマリアに感じるところがあるのかもしれない。
だが今の時点ではなんとも言えないだろう。
「いや、最近はあまりかまってやれなかっただろう?二人で見るのも楽しいはずだよ。その間友達と回れなくなってしまって、やっぱり嫌か?」
「いいえ。そんな訳ありません!アーネストおじ様と回るなんて久しぶりですもの。楽しみにしています。でも、一日めは多分お友達とだとももうので、二日目でいいですか?」
「わかった。じゃあ二日目に」
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