第三十二話 一人の時間
家に帰ったディアナは早速お祭りのことをアーネストに話すことにした。
「おじ様はどちらに?」
ちょうど近くを歩いてきた使用人に尋ねると書斎にいるということだった。仕事の邪魔をするわけにもいかず、ひとまず外出着から室内着に着替えてリビングで待つことにした。そのうち仕事がひと段落ついたらアーネストは大抵ここに来る。
ソファに座り、さて何をしようか、と思った時、視界の端に楽譜が見えた。一瞬迷ってから手を伸ばすと、極端に難しくも簡単すぎもしなさそうな曲が何曲か載っていた。
「これ、弾けるかしら?」
部屋の隅にまだ一度も使っていないがピアノが置いてある。ピアノ用の椅子に腰掛け、そっと蓋をあけた。
ポン、ポロン……
試しに鍵盤をおさえてみると、綺麗な音が部屋に響いた。
「うわあ……いい音!」
ピアノの隅に取り敢えずおいた楽譜を譜面台に広げて両手を鍵盤の上に軽くおいた。
ディアナは最近ピアノを触っていなかった上、お嬢さんの教養程度でしかなかったため、最初はつっかえつっかえではあったが、次第に夢中になっていった。
「お嬢様、お夕食のご用意が出来ました」
家に帰った時はまだ日が高かったはずなのに、窓の外を見ると太陽が西に沈みかけてきていた。
「もうそんな時間なのね。分かったわ。行きましょう」
迎えに来た召使について食事の用意された部屋に着くと、ディア一人の分の食器しか置いてなかった。
「おじ様の分はないの?」
「はい、旦那様はお食事はいらないとおっしゃっていましたので」
「そう、ありがとう」
アーネストはどのくらい書斎にこもっているのだろう。普通、上流階級の人間は使用人に仕事の大半を任せるものだが、任せることができない仕事が立て込んでいるのかもしれない。
無理をしていなければいいのだけど、アーネストのためにできることはなにか考えながらスープを飲んでいた。
テーブルは一人で食事をするには広く、寂しかった。食事を終え、レイラに声をかけた。
「おじ様にお茶の差し入れをして差し上げたいのだけど、なにか入れてくれる?」
厨房には料理人がいるから、ディアナはそういったことをする必要はない。誰かに言って用意して貰えばいい。待っていると、ポットに入ったいい香りの紅茶とサンドイッチが乗ったトレイを持ってきてくれた。
「ありがとう」
そのままレイラに手伝って貰いながら書斎に行った。扉を叩くとアーネストから入るように、と返事があった。
「アーネストおじ様、お疲れじゃありませんか?紅茶を淹れてもらいました」
「ありがとう。少し、休憩にしようか」
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