第三十一話 それぞれの理想
「例えば、花束をくれるとしたら、押し付けるようにしてとっても綺麗なのをくれるような、そんな人、かしら」
「素敵な方ね!それに、なんだかとっても幸せそう。羨ましいわ」
近くにあったベンチに腰をかけながら言うと自然と2人もベンチに寄ったり腰掛けたりした。
「人気者2人に好かれる状況だって十分羨ましいものでしょ」
「そんなものじゃないわ」
手をかざして空を見上げると雲ひとつない青空が広がっていて眩しさに眼を細めた。
「じゃあ、ディアナの理想ってどんな人なの?」
ええ、と言いながら頬に手を当てた。ての隙間から頬が赤らんでいるのが分かる。
「ミステリアスなところがある人って素敵だと思う、わ。あとは、そうね……。落ち着いていて、包容力のある、優しい人。そんな人が好きなんだと思う」
「素敵ね。リチャードたちに見向きもしてないのも、それじゃしょうがないわね。そういう人たちじゃないものね」
「ええ、別にそういうことじゃないのよ。素敵な方たちだと思ってるわ。ただ、ううん、なんでもない。それよりカレンはどうなの?」
「そういうの考えたことないから分からないわ」
「貴女だけ何も言わないのはずるいわ。逃げないで言いなさいよ」
ディアナからだけでなく、長い付き合いのメイベルからも聞かれては敵わない。渋々といった風に口を開いた。
「えっと、本当に考えたことないのよ!ただ……あんまり気取った人は苦手。あと遠慮しすぎたお付き合いはしたくないんだと思う。ねえ、これでいい?よく分からないわ!」
なぜか、言い切ったふうのカレンは拍手を送られた。
「初めて聞けたわ。いつも照れてしまうから聞けずじまいだったんだもの。ディアナ、ありがとう」
「そういう意図だったの!?」
「らしいわね。ね、カレンにいい人はいないの?」
いつの間にかノリの似てきたディアナが冗談交じりに尋ねた。
「い、いないわよ。というか、自分の好みも分からないって言ってるじゃない」
「そうよね、残念」
「身近にいないの?」
「もう、からかわないでよ!二人とも!」
若い娘らしい明るく少し高めの声で笑いあっているとふと誰かがマリアの様子に気づいた、いつの間にかこちらの方を見ていたのだ。呆れているような、羨ましがっているような表情には誰一人として気付けなかったのだが……。
「御機嫌よう、コールラウシュ夫人。いいお天気ですね」
「……ええ、そうね。御機嫌よう」
ディアナの挨拶に短く答えて、ゆっくりとよそを向いていなくなってしまった。
「どうしよう、お気を悪くしてしまったのかしら……」
「気にしないほうがいいわよ」
「きっとそういう性格なのよ。気分変えて、歩きましょう」
二人がさっさと歩いて行ってしまうのでついて行くしかなかった。
本当にそういう性格ということなのかしら、本当に嫌な人間なら嫌味の1つもいうか、無視をしてきそうなものだと思うのだけれど……。
ディアナにはそう思えてならなかった。
それから先の会話は、何処のドレスが素敵かとか、あの令嬢に恋人ができた、今度やるオペラの役者は上手いらしいといったよくある噂話で終わった。
「ありがとう、今日は楽しかったわ。またね」
「ええ、そうだ、今度のお祭りには行くのでしょう?」
初めて聞いたことで、理解がいまいち追いつかなかった。こういう時に新参者は辛い。
「お祭りがあるの?」
「知らないの?って、そうよね。こっちに来たばっかりだったものね。この街ができたお祝いなの。古いほうの教会がにんにくを揚げた物を出すんだけど……」
「あれだけで出されても、におうから食べれないのよね。大きい声では言えないけれど、なんでいつもあるのかしら。街にとって大事なものっていうけど、ねえ」
「それ以外は普通に楽しいお祭りだから、楽しみにしててね!」
「ええ!」
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