第二十九話 恋の噂

「ありがとう。……そうだ、ねえ、お花が綺麗よ。少し歩きましょう」

 ディアナがそろりと手を離し、歩き出すと二人も追いかけるように歩き出した。今は春真っ只中で、地面近くにも、木にも競うように花を咲かせていて、舗装された石畳を進んでいるだけで楽しい。


「あ、蝶々。綺麗ね。二匹いるわね、恋人かしら?」

 見ているとデイジーの花の上で絡まりあうようにひらひらと舞いはじめた。

「リチャードとは最近どうなの、会ってる?」

 じっと見つめているとメイベルがディアナに話題を振ってきた。

「え?どうしたの、突然。個人的に会ってはいないけど、道とかで会うとよくお話をしてるわ」



「それだけじゃ他の人と恋仲になってしまうかもしれないでしょう、彼って結構素敵だから好いている子、結構いるの分かってる?」

 呆れたように肩をすくめるメイベルと反対にディアナは今でのリチャードの様子を思い出し1人で納得していた。

「そうなの?ああいう男性かたが好かれるのね。確かに紳士的で素敵だと思ったわ。話していると、気を使って下さっているのがよく分かるしそれに、優しいもの。でも社交界にはあまり出てないとおっしゃっってたと思うのだけど……」



「それ本人が言ったの!?驚いた……。とにかく、だからちょっと謎めいてるって言われてさらに人気になっているみたいよ。それが最近、舞踏会にもよく出てるから女の子たちはしゃいでいるみたいなの」


「知らなかった……!そういうものかしら?」


「気づいてなかったの?嫉妬されてるわよ。あとあなた、アシュレイともいること多いからなおさらね。人当たりがいいもの。男女関係なくいつも誰かしらかといる印象じゃない?その分苦労も多そうだけど。ねぇカレン?」


 会話には入らずに蝶を目で追い続けているカレンに声をかけると驚いたように顔を上げた。

「そうなの!親戚の中で年が近いからってとばっちりが多いのよ!……蝶々が逃げてしまったわ」


「でもなんだかんだで手を貸しているわよね。今のはあなたの声が大きかったからでしょう」

「その通りね」


「あら、あんなとことろに誰か……」


 メイベルの指し示す先を視線で追うと少し離れた木の下に1人の女性が佇んでいた。


「あの人は……もしかしたらコールラウシュ未亡人?でもなんであんなところに?」

 離れていてよくは分からないが、マリアはじっと木を見つめているようだ。

「サルスベリの木、みたいだけど」

 木は分かってもそれ以外のことは分からない。

「花が咲いていないから何かまでは分からなかったわ。何してるのかしら?」

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