第二十七話 ディアナの幸せ

 恐る恐るの質問にアーネストはすぐに答えなかった。もったいぶったのではない。なんと答えたら良かったのか、よく分からなかったのである。



 アーネスト自身はこの時代の慣習に従った結婚をしたこともなければましてや、関わったことすらない。ディアナの結婚について考えたこともあったがマクウェル家が申し込んでいるからそれでいいだろう、と思ったきりこれといって準備も何もしていない。それにディアナが拒否したら取りやめる気でいる。

 彼女はもう17歳だ。その割に無邪気過ぎる点もあるが、もう婚約者くらいいても良い年頃だと、忘れかけていた。



「ディアナにどうしたいという希望はあるか?」

「いいえ。そもそも、こういったことは未婚の娘である私が口を出すものじゃないでしょう?」

 昔からそういうものだが、ディアナには1番幸せな結婚をして欲しいと思う。望む相手がいるなら、その男と。

「そうか、分かった。任せておきなさい」

 そうはいってもアーネストも勝手がわからないのだが、どうにかするあてがないわけでもない。

 だが今できることがあるわけではない。話はこれで終わり、というようにさあ、と声を出した。

「ディアナ、相談してくれてありがとう。他にも何か気になることがあれば遠慮せず言いなさい。私たちは家族なのだからね」

 ディアナは頷いて微笑みを浮かべたがなにか重要なことがあるかのようにゆっくり口を開いた。


「私よりおじ様は結婚なさらないのですか? もうとっくに奥さんがいてもおかしくないはずでしょう?それでも結婚なさらないのはなぜ? 私がいるから、その暇がなかった? それとも女性が寄り付かなかった? そういうことですか?」

 ディアナとしては何よりアーネストの邪魔になどなりたくはない。だから、そうならぬよういつも気をつけてきている。



 でも、もし私のせいだったら? 私がいなければ、アーネストおじ様には奥さんがいて、血の繋がった実のと幸せに暮らす人生があったら、きっと


「……私を、許せない……」

「ディアナ…?」

 ディアナの声はあまりに小さくアーネストの耳にはっきりとは聞こえなかったが彼女の表情で否定的なことを言っているのは分かったのだろう。心なしか眉間に皺を寄せている。

「私は独身主義者だ。いつか返上するかもしれないが」

 唇の右端を軽く吊り上げて冗談めかすと弱々しくディアナも笑みを作った。


「でも……寂しくは、ないですか? 私がお嫁に行ったら、おじ様はお一人になってしまいます」

「昔の生活に戻るだけだよ。それに、私は家庭を持つのに向かない」

「じゃあ私は負担じゃないですか?」

 心配性なディアナについ苦笑が漏れてしまう。


「なんで。お前は別だよ。お前が来て、ファウラー家は随分明るくなったのだよ。この10年が人生で1番幸せかもしれない」

 アーネストは過去をほとんど語らないが、口調に辛いものはない。

 ありがとう、と囁いてディアナの頭を胸に抱くと彼女は何かつぶやいて瞳を閉じた。

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