第二十六話 おじと未亡人

 帰りも、夫人が馬車で送ってくれた。夫人との会話を楽しんでいたが、ふと夫人の頭越しに窓から外を見ると、一本道を入ったところにアーネストらしき人の姿を見つけた。夫人に言って声を掛けようとも思ったが、その後から女性が姿を現したので断念してしまった。

 その後も夫人との話しは続いていたが女性の存在が頭から離れなかった。



 おじさまといらっしゃった方、日傘で顔は見えなかったけれども優雅な雰囲気の方だった。とってもお似合いで、本来ならおじさまは私よりも、ああいった女性と過ごすことが多かったはずなのかもしれない。邪魔な存在になっていたらどうしよう。


 様々に行き場も落とし所もない感情に揺さぶられてしまって、女性といたアーネストに対して直感的に何を感じたのか分からずじまいだった。



 ディアナが帰宅して夫人も帰ってあまり経たないうちにアーネストも帰ってきた。

「おかえりなさい」

「ああ、ただいま。教会はどうだった?」

 挨拶代わりの軽い抱擁を交わしてディアナの土産話を求める。

「ええ、素敵な教会だったわ。そうそう、帰り、馬車の中からアーネストおじさまを見かけました。綺麗な方といらっしゃったので声はかけませんでしたけれど……」

 首をかしげて言葉に出さず、誰なのかと問いかける。

「ああ、マリアだ。マリア・コールラウシュ夫人」

 自然とファーストネームで呼ぶほどの親密さにディアナの胸がずきりと音を立てた。



 確か、マリア・コールラウシュ夫人、いや、といつの間にそれほど親しくなったのかしら。それよりもカレンたちが噂とはいえあまり評判が良くないと言っていたはず。おじさまはそのことをご存知の上でお付き合いしているのかしら?それなら口出しはしようがないけれど、そうでないなら言った方がいい? でもその噂自体が本当かどうか分かっていないからそれを根拠に言ったらおじさまは呆れる?



 考えがまとまらずに悩んでいるうちに眉間に皺が寄っていたらしい。アーネストが笑いながらそこを軽くつついてきた。

「私も彼女も大人だ、わきまえるべきはわきまえているさ。だけど心配させてしまったみたいだね。ごめん。お前にそんな表情かおさせててはいけないね」


 玄関で待ち構えているメイドに上着などを預けた。そのまま話しながらリビングのソファーに座ると意を決してディアナは口を開いた。

「あの……ところでアーネストおじさま、あまりこういったことを尋ねるべきではないと思うのですけれど…私の結婚、とか、どのように思っていらっしゃいますか?」

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