第6章教会の伝説、街の祭り
第二十五話 教会
バザーの準備の間に聞いた一番古い教会がどんなところなのか気になっていたディアナはマクウェル夫人に頼んで連れて行ってもらえることになった。
「今日は本当にありがとうございます! 前お話を伺ってからとっても行きたいと思っていたんです」
まあ、と笑いながらディアナを馬車に乗るよう促し、自身も乗り込むと馭者に出発させてから言葉を返した。
「それは良かったわ。少し変わっていると思うかもしれませんが、とっても素敵なんですよ。私たちの結婚式もあそこで挙げましたし」
教会は街のはずれに建っていた。通っているほうと比べると人気がなく、寂しげな様子であったが、話に聞いていた通り絢爛豪華で外観を見ているだけでため息が出るほど美しい。
夫人の後ろについて教会内に入ると初老の聖職者が1人オルガンの椅子に腰掛けている。
「お久しぶりです、マクウェル夫人。そちらがMs.ファウラーでいらっしゃいますか?」
「お久しぶりです。先生。お元気そうでなによりです。ええ、紹介いたしますね」
穏やかに微笑み、礼を交わす2人に習ってディアナも礼をした。
「初めまして、ディアナ・ファウラーと申します。お目にかかれて光栄です」
「あんまり畏まらずとも構いませんよ。私はこの教会を守っている者でもなんでもなく、教会にお世話になっているだけですから。それより、どうぞこちらへ」
部屋に通され、そこで改めて話しが始まった。
「Ms.ファウラーはこれからずっとこの街でお暮らしになるのですか?」
今まであまり考えていなかった事だったため少し考え込んでから慎重に答えた。
「あまりそういった事をおじと話しておりませんが、そうではないか、という気もします。おじ様でなく、誰から、という訳ではないのですが、結婚に関する話題を持ち出されることが増えたように感じることはありますし……」
困惑気味になっていたようで夫人の手が優しくディアナのそれを包んだ。
「そういう年頃ですから、当然ですよ。だから、心配する事はありません。前も言いましたけれど、うちに嫁いでいらっしゃいな」
「まあ、その話はおいおいにして、少し教会の案内を致しましょう」
「先生」
ハッとした表情で夫人が促してディアナ一人残して1度廊下に出た。ディアナは怪訝そうな顔を隠して二人が戻るのを待つしかなかった。
「お待たせしてごめんなさいね。さあ参りましょうか」
遠慮がちについていくうちに2人の案内がうまく次第に緊張などもなくなってきた。
最後に通されたのは書庫のような部屋だった。
「ここの奥が、大抵私のいる場所です。こちらはいつでもいらしゃって構いませんがそれより奥はあまり入らないようにしてください」
「はい、分かりました。…ええと、」
名前を聞いていなかった。夫人は「先生」と呼んでいたが、ディアナもそう呼んでいいのかは少し不安がある。
「先生、とお呼びくだされば結構です。皆さんにそう呼ばれていますから」
「ではそう呼ばせていただきます。先生、時々、こちらまで足を運ばせていただいてもよろしいでしょうか」
冗談や世辞などと思われないよう真剣な表情で言葉を紡ぐ。その甲斐あってか先生は笑顔で頷いた。
「ええ、もちろん、いつでもお越しください。ですが、お若い方にしてみれば寂しい場所ではありませんか?」
「いえ、実はお恥ずかしいことですが、今まであまりこういったことに無関心でしたから少しでも知りたいと思ったんです」
心からの言葉をそのまま言うと二人は驚いたように見つめあった。
「それは、それは、嬉しいことですね」
「ええ、本当に。将来有望ですねぇ。…ああ、行き方が分からないでしょう、いつでもうちへいらっしゃれば案内しましょうか」
ディアナはここまで歓迎されると思ってはおらず、面喰らいつつも頷いた。
「ありがとうございます。でも、きっといけると思いますわ」
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