第二十三話 スカーフ
楽しげに二人で話していたがディアナがいち早くアーネストの声に気が付いて会話は中断された。一言声を掛けてからアーネストのいる方へ二、三歩かけ寄って手を振るとアーネストもそれに応えた。
「こちらですわ、おじ様! それにMr.マクウェルも…来てくださったんですね」
アーネストはディアナの側で少々不満げにしている男性に気づいて、誰にも分からぬように苦笑を漏らした。
「ディアナ、そちらはどなたかな?」
話題を自分に振られたと気づいて男性はアーネストの前に進み出て礼をした。
「初めまして、僕は マイルズ・タッカーと申します。隣町で父が鉄道事業に関わっているのでマクウェル殿がご招待してくださったんです」
マイルズのいかにも好青年な口調にアーネストも紳士然とした態度で応えることにした。
「どうも初めまして、ディアナの叔父、アーネスト・ファウラーと申します。どうぞよろしくお願いします。そういえば 先程お父君とお話しさせていただきましたが、とても気持の良い方ですね」
「ありがとうございます」
しばらくたち、会話がひと段落したところでアーネストはハンカチーフを一枚手に取った。縫製などを確認をしてから売り子を呼び、金額を払うと大事そうに胸ポケットにしまった。
「おじ様は何をお買いに?」
興味津々といった風に尋ねるとアーネストはポケットからひらりと出して見せた。
「マーガレットの花と蝶の模様に編まれたスカーフだよ。とても綺麗に出来ている」
その言葉にディアナとマクウェル夫人が顔を見合わせて微笑みあった。
「よかったわね」
「ええ、おかげさまで」
声は出さず、視線だけで会話を交わすと自然と笑い声が漏れた。
「ん? 母上、どうしました?」
リチャードはマクウェル夫人に尋ねた。二人は親子なのだし、それにディアナよりも夫人方がずっと愉快そうにしていたのだから不思議に思って尋ねるのも当然と言えるだろう。だが夫人は一層笑みを深めただけで答えを返してはくれなかった。リチャードが諦めてかけたところにアーネストが間接的とはいえ答えを提出した。
「随分とディアナも上達したな。一生懸命練習していただろう?」
するとそれまで夫人と笑いあっていたディアナだったが、肩を一瞬ひそめ、首をゆっくりと回してアーネストの方を見た。
「つまり、おじ様は気づいていらしたのですか……?」
「夜更かししていただろう?廊下から灯りが漏れていた。随分打ち込んでいたようだし止めなかった。だがいつも言われている言葉をそっくり返すよ、無理をするな、とね」
やや不満気なディアナと口角を少しだけ上げたアーネストを交互に見やって柔らかい声で笑い出した。
「ふふふ、お2人とも努力家でいらっしゃいますね。さすが仲の良い『叔父姪』でいらっしゃるわ。よく似ていらっしゃいますね。それと、今回は夜更かし、見逃してあげてくださいね。ディアナさん、本当にお上手になったのですもの」
「わかっていますよ、今回限りは許しましょう」
しかめつらしい表情を作っているのだがどこか誇らしげな彼にディアナは殊勝に頷いた。
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