第二十二話 バザー

 とうとう教会のバザー当日がやってきた。予想以上の賑わいにカレン達と興奮気味に会話を交わしていたが、ふと雛壇の方に目をやるとちょうど開会の挨拶が始まるところだった。


「静かに、始まるわ」

「ええ」

 周りに合わせて拍手をしながら囁きあう。拍手が止むのを待ってベンジャミンが一礼をした。

「皆様、この度はようこそお越しくださいました。ベンジャミン・マクウェルです。本日のバザーは各婦人団体をはじめとした、皆様の御協力があったからこそ、実現が叶いました。心より御礼申し上げます」

 言葉を切り、ぐるりと会場を見渡して息をついた。


「皆様もご存知かとは思いますが、隣町と共同で鉄道事業の話が進んでおります。この計画が達成された暁には、この街はさらなる発展を遂げるでしょう。バザーの収益はその時のための大規模な街の整備の資金に、また、教会孤児院へ寄付をすることとなっております。まずは皆様、リールを致しましょう!」


 リールとは三人以上の踊り手が複雑に絡み合う軌道に沿って動きながら踊るもので、いわゆるフォークダンスの一種だ。

 挨拶が終わると歓声とともに側にいた男女が誘い、ペアを組みだす声が広がりだした。完全に女の子同士で固まっていたディアナ達のところへも誘いの声がかかった。


「踊って頂けませんか?」

「もちろん、喜んで」

 うきうきとしたようすでそれぞれの手を取る。いつもの舞踏会となんだか雰囲気も違い、つい楽しくなる。

「私、幾つかバザーにお品物を出させて頂いておりますのでもしよろしければ後で見にいらっしゃいませんこと?」

「そうですか! ぜひ、どちらか教えて下さいますか」

「確か、そこの柱の辺りですわ」


 そうやって話し、はしゃいで軽く疲れた頃になって曲が終わった。

 次の曲が始まるまでの休息の間にダンスの輪から抜ける者、談笑を継続する者、様々いる中でディアナはそっと輪から抜け出して自身らの用意した品々を売っているあたりの様子を見に行った。


「あら、ディアナさん!」

「もしかしてマクウェルの奥様も気になっていらしたんですか?」

 少し照れたように頷くマクウェル夫人の隣に立って一緒に覗き込む。

「結構色々な方が買ってくださったみたいですね。安心しました」

 売り子に声を掛けたりしつつ様子を見ていると一人の青年がまっすぐに向かっててくるのが目に映った。


「あら、どうなさいました?」

 先ほど共にダンスを踊った相手だった。

「こちらでしたか。お姿が見えたので飛んで参りました」

「まあ、ありがとうございます。そんなお急ぎにならないでよかったのに」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る