第5章バザー
第十八話 ディアナの夢
アーネストが帰宅するとレイラが奥から出てきた。
「おかえりなさいませ。お嬢様は、いつお帰りなのかとご心配しておられましたよ」
「ああ、ただいま。ディアナには謝らないとな。ところで顔色が悪いが、血が足りないのか? もうじき日が昇る。今日のところは私の血を少し分けよう」
手に自身のヴァンパイアらしくとがった八重歯で傷をつけてアーネストが差し出すとその手にレイラは舌を這わせて丁寧に血を舐めとった。
「ありがとうございます。明日の夜にどこかできちんと食事を致します。もう夜が明けますので、失礼します」
再び奥に戻っていくレイラを見送ってディアナの寝室へと足を進める。彼女の部屋の寝室の扉を叩いたが返事はなく、寝ているようだ。そっと扉を開けてベッドに眠るディアナの瞼に口付けて何かを確かめるように頰を撫でた。
「ただいま。すまないね、ディアナ。おやすみ、良い夢を」
もう一度ディアナの頰を撫でて部屋を出て行った。ディアナは寝ているから起きたらもう一度謝らないと、そう思っていた。
翌朝、日が昇りきってから食堂に行くとディアナは食事を終えてアーネストを待っていた。
「おじさま、おはようございます。昨日は遅かったようですが休めましたか?」
心配させたことを怒るでもなく純粋に心配するディアナ心根を心底ありがたく思う。
「おはよう。心配かけて済まないね」
謝罪するとディアナは首を振った。
「いいえ、いいんです。それに、実は昨晩、いい夢が見られたので機嫌がいいんです」
嬉しそうに告げるディアナの見た夢が何なの少し好奇心が湧き出した。
「どんな夢だい?」
「えっと…おじさまがただいまって言いに来てくださる夢です。それで、撫でてくださっ、て…」
最後は恥ずかしげに声がしぼんでいってしまったがよほど嬉しかったのだろう、目尻が垂れている。
「良い夢」と言うのが自身のことだった、と喜んでいられなかった。昨夜ディアナが寝ていると思ってした行為を彼女は夢と思ったようだが、それでも気づかれていたのだ。少々気まずいように思ってしまう。
「そうか。昨夜はおやすみ、と言えていなかったね。今夜はちゃんと言うよ」
嬉しそうに頷くディアナを可愛いと思う気持ちを抑えるのはアーネストにとっって大きな苦労だった。だが、こんな気持ちを抱く事自体に幸福を感じるらしい。
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