第十六話 自転車
三人が行くとちょうどアシュレイが倉庫から自転車を出したところだった。
「へえ、すごい!乗れるのかい?」
誰かが言うと当たり前だ、とアシュレイが漕ぎ始める。ゆっくりではあるが、確実に進んでいる。
「もっと速く漕げよ」
またも誰かが茶々をいれた。それに応えようとスピードを上げたが途端に少しだけふらついてしまった。それから誰が一番上手に乗れるかということになり、男性陣が次々に試していった。ディアナを含めた女性陣はそれを見ているだけだったがカレンがやってみたいと言い出した。
「いくらお転婆者のカレンでも無理じゃない?」
誰かが言ったがそれをディアナは否定した。
「そんなことないわ。きっと、乗れると思うの」
それでもみんなはできないだろうと言うのでディアナが乗ることになった。カレンとメイベル、アシュレイ、そしてリチャードが心配する中で他のみんなは面白がっている。
好奇の視線を浴びながらもディアナは危なげなく軽く一周漕いで見せた。自転車を降りるとカレンが目を見開いて拍手をした。つられるようにパラパラと拍手がわいた。
視線が集まり、恥ずかしげに小さくうつむくディアナをいたわるようにリチャードが視線を合わせる。
「すごい、自転車に乗れるんですね、やると言い出した時はびっくりしました」
負けじと張り合うようにアシュレイも賞賛する。
「Ms.ファウラー、お上手です。イギリスにおられた頃、何かスポーツをなさっていたのですか?」
「いいえ、昔お友達が好きだったので、何度か一緒に自転車遊びをしたことがありましたけど、それだけですわ。あんまりお転婆が過ぎては、と久しく遠ざかっておりましたから、できるか不安でした」
ディアナは当てられたこと、昔お転婆が過ぎるとやめた自転車を称されたことに驚きを禁じられない。ここではいいのかな、自分を飾らなくてもいいような気がして心が晴れたがどうしても戸惑いが残る。
「ね、ディアナ。自転車ってどうやって乗ればいいの?」
早速自転車に乗ろうとするカレンに応えて教えているうちに戸惑いも消えていくようだった。カレンはすじが良いらしく、じきに少し漕げるようになった。
「すごいわ、その調子!」
カレンを見守るディアナを挟むようにリチャードとアシュレイが立っている。時々2人が競うようにしているのは不思議だけれど、何だか微笑ましく、楽しかった。
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